質問を質問で返すな
「次長、T社から例の商品について納期の問い合わせを受けたんですが、どう返事したらよろしいですか?」
『あぁ、そう。で、タダノくんはどう返答したらいいと思う?』
「え…えっと、それは…」
私には、この世で是が非でも関わりを持ちたくないと思う人間がいる。
ただ、それをいくつか分類すると、1桁に留まらず2桁にのぼり詰めてしまいそうになってしまう。そう考えた時に、自分はどこまで人間嫌いが進行しているのだろうかと不安になって仕方がない。
そんな中で強いて一つだけ挙げるとするなら、まさに前述のように、質問を質問で返してくる人間だ。
特にそうした発言を頻繁に繰り返していた、およそ10年ほど前に勤めていた会社の上司であった次長のS氏とは、思わず口が篭らざるを得ない日々を重ねるごとに、嫌気が増してくるばかりだった。
自力では解決できない案件が立て込んでくるうちに、その頼みの綱としてアドバイスをもらう旨の相談を持ちかけていた。しかしながら悉く、オウム返しという変化球…もとい魔球で返されてきてしまったものである。
因みに私自身は恥ずかしながら、口よりも先へと言葉を瞬時にかつ巧みに操ることができる部類の人間ではない。時折、人と会話するたびに伝えるべき言葉がどこか遠回りになってしまう局面に何度も遭遇しては、頭を悩ましていたのである。
そのたびに、もう少し別の形や言い回しがあったらうまく相手に伝えられていたかもしれないと、反省しては次に生かそうとする日々に追われている。それもなお、現在進行形で起きている自覚はある。
話を戻すが、むこうからすれば、何を伝えるべきなのかを考えてから質問を投げてきてほしい、という意図を含んでいるつもりなのだろう。だがしかし、時として一刻を争う状況に置かれている身としては、そんな一言一句について悠長に考えていられるほどの余裕は一つもない。
ましてや、相手側に一秒でも早く伝えなければならない時に、まるでオウム返しされてきた言葉など尚更である。「はい」か「いいえ」だけで済ませられる返事を、わざわざ投げ返してきた相手を納得させるような、付加価値をつけなければならないといった、くだらないやりとりで無駄に時間を費やしている場合ではないのだ。
にも関わらず、質問を質問で返す行為がどれだけ深い愚行であることか。それを発した相手は、事の成り行きがどこに進んでいくかを、おそらく理解しようと微塵に思っていないだろう。
相手に質問したい側の人間としては、純粋に言葉を交わして先へ進みたいだけのはずである。だが、余計なひと手間が加わってしまうことで、もうこの人には質問したくないなどと、負の感情が蓄積されてしまう。その結果、相互の信頼関係について取り返しのつかない、深い亀裂が生じる事態へと発展しかねない。
お互いともメリットが生まれる対話を念に心がけている私にとっては、できるだけ一連の衝突を避けなければならないと、常日頃から考えている。そしてその考えを半永久的に語り継いでいきたい思いがある。
トラウマにもなりかねないほど、体の至る所にわざとボールをぶつけられるような、卑しい会話を繰り出すS氏のもとを離れてから、随分と久しく思える。そんな中で、そうした類の人間とは今後一切関わることはないだろうと、どこかで信じきっていた。
仮にもし、S氏と似た思考の持ち主が自分の目の前に現れたとするなら、いずれ来るべき時期を見計らって、どうしようもないくらいに軽蔑の目を仕向けるかもしれない。もしくは自分の目が、人として認識しようとしないかもしれない。
なぜこのタイミングで、タイトルに書いてある通りの記事を出そうと思い立ったかというと…
私が今勤めている会社の同じ部署に所属する先輩に、とある質問を投げたところ、冒頭と似たような、二度と聞くことはなかろうと思い込んでいた返答をされたからである。