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イラストエッセイ「私家版パンセ」0064 「中庸について」 20241108

 人間の世界には対立する概念があって、世の中の流れは振り子のようにその間を行ったり来たりしている。そんな印象があります。

 例えば保守と革新(リベラル)。伝統を守ろうとする気持ちと、旧弊は改めなければという運動。どちらも大切ですけれど、世の中の多くの人がどちらかぞえく時期というものがあるようです。今は革新が進みすぎてちょっと皆さんお疲れ気味という感じですね。それに変えた方が良いと思っても、変えてみたらかえって悪くなったということは山ほどあります。
 日本人は保守的か革新的かと問われると、ぼくは断然革新的だと思います。簡単に言えば新しもの好きなんですよね。食生活を見てもあっという間に洋風に変わりました。アメリカやヨーロッパの方がずっと保守的に見えます。自民党はアメリカで言えば民主党と同じぐらいリベラルだと思います。

 小さな政府と大きな政府。小さな政府ですと自由が拡大しますが、格差も広がります。大きな政府は手厚い福祉がありますが巨大な財政赤字を抱えます。

 個人と集団。個人主義が強まると、公共の精神が薄れ共同体の結束が弱まります。集団原理が強くなると、個人の自由が抑圧されて窮屈に感じます。これは利己主義と利他主義と言っても良いかもしれません。両方必要なことは言うまでもありませんが、どちらか一方に傾きすぎると問題が出て来ます。これはまた統一性と多様性と言っても良いかもしれません。

 科学と反科学。科学万能主義は明らかに人間性を損ないます。しかし反科学が行きすぎると、カルトや陰謀論のような迷妄の世界に陥ってしまう。
 ぼくは科学的思考は尊重しますけれど、例えば教育の現場にタブレットを持ち込むみたいなことは絶対反対です。笑

 精神と肉体。現代社会は明らかに肉体の欲望を限りなく求める方向にあります。どこを見ても経済成長とか収益化とかそんな話ばっかり。昔はガンジーみたいな人が偉いひとだったんですけれどね。

 それから自由と形式。すぐれた方法が形式に昇華してゆくのですが、やがて形式主義、形骸化に陥ってしまい、また自由なものが生まれる。

 インドの哲学では、世界は破壊と創造の繰り返しだと言います。戦争の破壊がなければ戦後の日本はあり得ませんでした。しかしその戦後の日本もいつしか制度疲労を起こしています。
 キリスト教は死と再生を説きます。神の国の住人として新しく生まれ変わるのが洗礼ですが、同時にこの世界はいつか必ず終末を迎えるんです。
 そういえば、ゾロアスター教は世界を善と悪との戦いの舞台と見たんでしたっけ。もちろん、何が善で何が悪かと言う問題は常に残りますけれど。

 教育や子育ての現場では、受容的であるか、それとも訓練や矯正を重んじるかという対立が常にあります。簡単に言うと、やさしい先生と厳しい先生。両方必要なのは言うまでもありません。

 かぞえ上げればきりがありませんが、アリストテレスが言うように「中庸」が大切なのだと思います。どちらも大切だということです。そしてそれは考え方の違いというより、性格の違いによるところが大きいように思います。どちらかが正しくて、どちらかが間違っているということではないんですね。
 中庸を心掛けるためには、双方の意見を聴くことが大切です。分断という現象が危険なのは、対立概念の片一方に偏ってしまうことで、これはどちらの側に立とうと同じことだと思います。
 あるいは「中庸」という生易しい言い方では足りないのかも知れません。世界というのは常に対立物が拮抗している状態が健全であって、どちらかに傾きすぎることが一番アブナイ。だとすると、「対立」そのものに意味があることになります。

 ぼくはアマノジャクな性格なので、世の中の流れとは逆の方向に少しだけ軸足をずらすようにしてきました。そうやってバランスをとっているんです。コロナの時にはマスクをしたくない、みたいな。笑
 もっともこういう生き方をしていると、どちらの側からも嫌われるのですけれど。

 蛇足ですけれど、ヘーゲルは対立関係が止揚されて、新しい段階に進歩すると唱えましたが、ぼくの見るところ、世の中は止揚などせずに、いつも同じところを行ったり来たりを繰り返しているように見えるんですよね。

オリジナルイラスト アリストテレスの肖像

 




私家版パンセとは

 ぼくは5年間ビール会社でサラリーマン生活をした後、キリスト教主義の学校で30年間、英語を教えました。 たくさんの人と出会い、貴重な学びと経験を得ることができました。もちろん、本からも学び続け、考え続けて来ました。 そんな生活の中で、いくつかの言葉が残りました。そんな小さな思考の断片をご紹介したいと思います。 これらの言葉がほんの少しでも誰かの力になれたら幸いです。

 

 

 

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