20240828 イラストエッセイ「読まずに死ねない本」 023 ミヒャエル・エンデ「モモ」
ミヒャエル・エンデの「モモ」は、何かと忙しく感じている現代人にとって必読の書だと思います。
ユバル・ハラリの「サピエンス全史」によれば、人間は農耕を始めてから忙しくなったそうです。
ちょっと意外ですよね。狩猟採集生活より食べ物が豊かになり、余裕が生まれ、文化や国が生まれたのは農耕生活からなんですから。
でも、現代に残る狩猟採集民の生活を見ると、とてものんびりしていますよね。そうなんです。農耕を始めて、ユバル・ハラリによれば、人間は「穀物の奴隷」になったのだそうです。つまり、「富の奴隷」です。
働けば働くほど豊かになるという世界は、人間を富の奴隷にするんですね。
その傾向は産業革命を経て拍車がかかりました。
人間は金の奴隷になって、身を粉にして働き続けています。
ミニマリストが一時ブームになりましたけれど、自分の欲望を満たすために必要なお金を稼ごうと思えば、永遠に働き続けなければなりません。
欲望には限りがないからです。
生きていくために必要なお金を稼ぐとなると、実際お金はそれほど必要ではありません。昔から、立って半畳、寝て一畳。いくら食べても二合半。という言葉があります。
生きてゆくのに必要最低限の収入を得、後は好きなことをして暮らそうという考え方です。
物質的な豊かさよりも、心の豊かさ。と言われ続けて何十年も経ちました。
仏教国である日本には、諸行無常、盛者必衰の考え方があるので、富や権力を求めるのは虚しく、求むべきは精神的、宗教的な高みであるという伝統もあります
にもかかわらず、わたしたちは毎日忙しく生きていますね。
「モモ」は、それを灰色の男たちの仕業だと言うのです。
灰色の男たちは、時間泥棒。
彼らは友達とゆっくりおしゃべりしたり、年老いた両親を訪問したり、のんびり夕陽を眺めたりする素敵な時間を奪ってゆきます。
時間を有効に、効率的に使いなさいと言って、ゆとりのある時間を人間から奪ってゆくのです。
人間にはゆとりが必要です。それが人間らしいということです。
生産性、効率は、ゆとりを奪い、全ての時間を無駄なく有益なものにしようとします。
でも、ゆとりのない仕事は非人間的な仕事です。
非人間的な仕事が立派な仕事だと、わたしたちは知らず知らずのうちに思わされているんです。
「モモ」はそういうことに気づかせてくれます。
灰色の男たちは、生産性、効率重視の価値観を擬人化したものなのです。
最近では、youtube や SNS を見たり、ゲームをするのに忙しいですね。
わたしたちがこうしたものに夢中になるのは、このようなコンテンツを作る人たちが、脳科学に基づいて、わたしたちが依存症になるように設計しているからです。
現代では、わたしたちの時間を奪う灰色の男たちは、SNSの運営会社かも知れません。
最近忙しすぎて、のんびり夕陽を眺めて数時間を過ごしたり、年老いた親とゆっくり話をしていないなーって思う方がいらっしゃったら、ノースマホデーを週に一日でも作ってみることをお勧めします。
これほど時間があったのかー!って、きっと驚かれることと思います。