すごく鳴るコントラバス
Twitter(現X)を見ていたら、吹奏楽部の顧問が「コントラバスは聴こえないから弾けてますよって顔の練習しとけ」と言われたという投稿を見つけました。一部界隈で話題になっていたようです。
え?コントラバスってそんなに聴こえませんか?ぜひプロオーケストラの演奏をホールで聴いてください。多分イメージ変わりますよ。
講師をしている東京音楽大学の吹奏楽アカデミー専攻は器楽専攻と違い、講師が合奏に参加するスタイルをとっています。すぐ近くですべての楽器の先生が一緒に音を出す影響力は強く、演奏表現や音色などがリアルタイムで感じられるメリットがあります。
吹奏楽アカデミー専攻のコントラバス講師は、新日本フィル フォアシュピーラーの藤井将矢先生で、藤井先生も同じように一緒に演奏に参加しますが、我々講師は場面に応じて学生だけで演奏させたり、アドバイスに徹したりもします。
合奏中、藤井先生がお手本を見せようと学生の楽器を一時的に借りて音を出した瞬間、ほぼ全員が何事かとコントラバスを見る、そんな瞬間があります。藤井先生が音を出すと合奏の空間にコントラバスの音が満ちるんです。トランペットはコントラバスとは対角線上で一番遠い位置にいるのですが、まるで目の前で音を出したかのような心地良い響きを感じます。もちろん学生も頑張っていますが、藤井先生の音はとんでもなく響きます。
こんなレベルの人が何人もオーケストラで演奏しているわけですから、コントラバスは決して小さな音しか出ない楽器ではありません。
え、実際テューバと同じ音量で出せないのでは?と思うかもしれません。でもそれは
ボリューム設定と響きは違うもの
音楽を演奏する際にかなり多くの方が勘違いしてしまっているのが、オーディオなどの物理的なボリュームコントロールと、楽器や空間を共鳴させるいわゆる「響き」の違い。
特に勘違いしやすいのが、金管楽器や打楽器で、フォルテと書いてあると体に力を込めて爆音を出そうとし、ピアノと書いてあると誰にも聴こえないように音を殺してしまう。このようなオーディオボリューム変化のような演奏をしがちなのです。
もちろんフォルテとピアノは結果的に音量にも影響は出るのですが、楽譜に書かれているフォルテやピアノと言ったダイナミクス記号は「表現」のひとつです。詳しい話はここでは割愛しますが、ピアノはお客さんに聴こえないようにする、とか本末転倒ですよね。「ピアノという表現を客席へ届ける」のが演奏です。ですから確実に聴こえなければならない。
ではどうするかと言うと、音符のキャラクター設定やフレーズの歌い方など、様々な要素からダイナミクスに関しても表現をするわけです。
先ほど述べたように、楽器の出力的には差があります。太鼓を力一杯連打されたら誰も敵うわけがありませんね。しかし、楽譜に書かれたダイナミクス記号を参考に、響きや同じ方向性の表現で演奏すればフルートとトランペットだって一緒にハモることができるのです。
話がそれましたが、コントラバスは鳴る楽器です。空間を共鳴させる力は十分にあります。指導者は勉強不足を露呈する前にもっと学びと経験をすべきだと思います。
荻原明(おぎわらあきら)