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「のぼうの城」で知る本当の色気
花も恥じらう十七歳だった頃、モテたくて必死に雑誌のananを読んでいた。
「所作をゆっくりすると色気がでる」
特集の見出しで書かれていたこの一言に、友人と首を傾げた記憶がある。
そんな簡単なことで色気が出るなら、きっと町中色気だらけやろ!と笑い、実践することは無かった。
やはり人は見た目が9割。
当時は色っぽく見えるメイクや、服装、プリクラなども流行っていたので媚びずに美しく見える写真写りが知りたかった。
だが。
久しぶりに見た映画で私は目を疑い、眼鏡を外して二度拭きした。
狂言師・野村萬斎のゆっくりとした所作には、もはや色気しかなかったのだ。
「のぼうの城」は、豊臣(兵二万人)に、たった五百人(!)の軍勢で喧嘩をうった「でくのぼう」の話である。
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さて。
文字だけ見て、超絶無謀な戦国時代の大事件について語るとワクワクしただろう。
だが、断る。
私は日本史がしいたけの次に苦手だ。
因みにしいたけは好き嫌いのワースト1、この一言でどれだけ苦手か手に取るように伝わっただろう。
歴史的なかっこいい見解はあちこちで語ってくれている。検索すればサクサクでるので、そっちへ行ってください。
私はこの映画の中の、これだけでも一見の価値がある素晴らしい所作について語りたいのです。
さて、野村萬斎は日本を代表する狂言師であり、色気の達人だと私は踏んでいる。
狂言とは、庶民の日常生活の中の喜怒哀楽を、台詞を中心に面白おかしく演じるもの。
「戯れごとを言う劇」なので、狂の意味はクレイジーではなく、ジョークと捉えてもらうとわかりやすい。
昔はやった外国ドラマの「フルハウス」や、漫画の「ちびまる子ちゃん」みたいな感じ。
ミュージカルみたいに囃子や謡が入り歴史が中心の「能」よりも初心者向け。
少し前に流行った「犬王」は同じ猿楽でも能。なので、アレンジにデビッドボウイやQUEENを入れることが出来た。
私は狂言ではなく、映画で初めて彼を見た。
正直に言う、そこまで目を引く美丈夫ではない。
映画は2011年に公開されたもので、かなり皆さん若く溌剌とし、更に存在感のある役者揃い。
酒巻靭負(さかまき ゆきえ)役に、成宮寛貴さん
正木丹波守利英(まさきたんばのかみとしひで)役に、佐藤浩一さん
石田三成(いしだ みつなり)役に、上地雄輔さん
大谷吉継(おおたに よしつぐ)役に、山田孝之さんetc・・・
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天下統一を目前とした豊臣秀吉が、唯一残された敵である北条勢を攻めようとしていた時の話。
野村萬斎は「忍城」の城主・成田長親(なりた ながちか)を演じている。
特段、色気がある衣装でもメイクでもなく、露出があるわけでもない。
なんならゴリゴリに甲冑を着て「でくのぼう様」と言われる程の呑気でゆるゆるの総大将。
下手をすると志村けんのバカ殿にしか見えない役所。
なのに、その佇まいや表情言葉の一つ一つは、吐息で花が咲くほどに美しく艶めかしい。
ただただ所作が美しい怠け者になるのだ。
⚠️褒めてます。
私は一度内容を楽しみ、2回目はずっと野村萬斎を見つめ続けた。
この異常な視聴の中で私が発見したのは2点。
会話のテンポ
周りの人より、セリフの言い出しが一呼吸おくれるのだ。
一息分をのんびりと自分のペースで話す。
この時点で聞き手はペースを完全に奪われ「何を言うのか?」と耳を傾ける。
毎回相手にペースを委ねてしまい、見つめ合う時間も増える。
ゆるりとした“まばたき”
人より遅い話始めに引きつけられ、顔を寄せると、野村萬斎のゆっくりとした、まばたきか目に入る。
だからなんやねん?
そう思う人もいるが、これがポイントだ。
人は約7秒見つめられると、好感を抱きやすいという。
何をするかわからないミステリアスさ、色気と言うのは人を惹きつけることであり、言葉にしなくても『この人、自分の事が好きなんじゃないか?』と勘違いするらしい。
これを常に続けているのが野村萬斎だ。
完璧すぎる。
全方位色気しかない。
やはり、のんびり動くと色気がある。
あのananの特集は本当のことを言っていたのか。
学んだのは高校生の頃だが、実感したのはおばさんになってからで、まさかのおじさんからその真髄を学ぶとは。
恐れ入った。
私の学生時代もそうだが、SNSのお陰で写真文化が進んだ昨今では「ぱっと見ため」の美しさが持て囃される。
だが、現実に目の前にいて一緒の時間を過ごすならやはり所作の美しい人がいい。
見た目に自信を持てない人は、話し方や所作から変えてみるのも良いかもしれない。
動きや姿勢の良さも語りたいが、体幹について語りだすと脳みそ筋肉の私は止まらなくなるので、控えよう。
あれだけの発声と、下半身の使い方、上半身との連動。見えないはずの筋肉が、おっと・・・ストップだ。
個人的に上地雄輔の石田三成も沼です。
役者としての彼は2作品しか記憶にない(この作品と、世にも奇妙な物語)が、役者の上地雄輔はそれが上地雄輔である事を忘れる演技力。
下手に飾らずそのまま自分がイメージした人物になり変わるような、巧妙な演技をする人だな、と感心する。
原作の小説は和田竜先生が同タイトル「のぼうの城」で上下巻出ている。
表紙は漫画家のオノ・ナツメ先生。
この表紙の伏せ目になった瞼とまつ毛も色気がある。
この表紙すき、ポケットに入れておいて5分置きに眺めたい。
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和田竜先生の時代小説は、書き方が現代風なのでカジュアルにさらさらと読みやすく、初心者にもおすすめ。
「のぼうの城」は、歴史では重要視されなかった人物に焦点をあてた隙間産業的な映画だが、役者が揃いすぎているし、色気のある所作の勉強にもなる。
ちっちゃい芦田愛菜ちゃんも可愛いのでお見逃しなく。