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昭和のアナログ感を取り戻す!次世代のデザイン価値は、昔あった「手応えのある感性品質」

https://www.nhk.or.jp/chimudondon/

昔の電話を切る時のあの音の響きが懐かしい!

現在放送中のNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」で、電話を掛けるシーンをよく見ます。時代は昭和なので、ダイヤル式の黒電話や赤い公衆電話です。物心付いた頃からスマホがある若い世代にはピンと来ないかもしれませんが、昔の固定電話を切るときに「ガチャッ!」と鳴る、あの音の響きが懐かしいです。受話器を置くとその重さに比例した重みのある音がするんですよね。当時は何とも思いませんが、いざ失うとあれは今で言う「感性品質」だったなぁ〜なんて郷愁に浸ってしまいます。(-_- )シミジミ

近年のUIはデジタル化ですっきりミニマルに!

デジタル化が進んであらゆるもののユーザーインターフェース(UI)がタッチ画面になり、音声入力も普及して電源以外の操作ボタンすらないもの現れました。コロナ禍を機に非接触で操作できるものも増えていますね。プロダクトのインターフェースがのっぺらぼうのようにツルンとした表面になって久しいです。

https://www.tesla.com/ja_jp/model3 https://www.amazon.co.jp/b?ie=UTF8&node=5364343051

物理的な手応えが求められている!

リモートワークや音楽ライブ配信なども生活に浸透し、物理的に身体を移動させずにできることが増えました。それが当たり前になるとやっぱり身体的なものが欲しくなるのではないかと思います。「物理的な手応え」のあるもの。そう、技術革新と引き換えに置き去りにしたアナログな体験です。

近年は、デジタルネイティブ世代にインスタントカメラやアナログレコードが流行しています。アデリアのプリントグラスなどの昭和レトロも人気ですよね。トレンドは繰り返すと言いますが、正にそうです。レコード人気はただの物珍しさや一時的な流行ではなく、物理的な手応えのある「アナログな感性への渇望」を反映した現象なのではないかと感じています。

https://www.anabas.co.jp/products/view/gp_n3r/

英国のトラディショナルな自動車、ミニクーパーの操作パネルには今でもアナログスイッチが採用されています。エンジンキーやトグルスイッチなど昔ながらのスタイルを踏襲しています。電動化や情報端末化に伴いクルマのインターフェースも画面に集約されつつありますが、やっぱり物理スイッチの方がエモーショナルですよね。自動車は先進的なデザインとしてフィジカルな要素を削減する方向に向かっている印象を受けますが、手で持てるサイズのプロダクトにおいては、デジタルツールであっても「アナログな操作性」を取り戻そうとする動きが見られ始めています。

https://www.press.bmwgroup.com/deutschland/photo/detail/P90139225/der-neue-mini-11-2013

最近のプロダクトのデザインで実現されてきた!物理的な手応えを取り戻す動き

① 富士フイルム:チェキ instax mini EVO

富士フイルムのインスタントカメラ「instax mini EVO」は、昔の銀塩カメラにあった操作性を再現しています。若い世代には新鮮な、上の世代には懐かしいこの物理的な特徴がウケて人気商品となったようです。巻き上げレバーが良いですね。これを引くと印刷され、印画紙が排出されるアニメーションが画面に表示されるようです。機能的にはなくても構わない動作ですが、ユーザーにとってこの製品の主要な価値になっていそうですね。

https://www.fujifilm.com/jp/ja/consumer/instax/cameras/minievo
https://houki-boshi.hatenablog.com/entry/2022/01/10/182206
巻き上げレバーの印刷機能を絵にしてみました(作画:筆者)

② ユカイ工学:甘噛みハムハム

撫でると愛らしい動きで反応するしっぽ型ロボットQooboなどのユニークでユーモラスなロボットを創造するユカイ工学の新製品「甘噛みハムハム」身体的なアナログ体験をロボティクスのデジタル技術によって再現したもので、物理的な手応えを求める傾向を表す好例ではないかと思います。

https://hamham.ux-xu.com/jp

柔らかいぬいぐるみに噛むという「能動的な動作」が加わっている点も面白いです。人を癒すためのものなので、一見実用性がないように見えますが、最近SNSで知った心理士の伊藤絵美さんの著書「セルフケアの道具箱」(晶文社)によると、手を使って自分の身体を撫でたりトントンしたりすることがメンタルヘルスに良いようで、この甘噛みハムハムにもその効果があるのではないかと感じました。リモート会議中にストレスが溜まったら、画面に映らないところでこっそり甘噛みさせても良さそうですね!(^ω^)

https://www.shobunsha.co.jp/?p=5792

近年は、ゲームの仮想空間での体験を触感でフィードバックする「ハプティクス」(触覚技術)も進んでいるので、身体性を追求した最新のテクノロジーの今後の動向も楽しみです。

③ BALMUDA:The Brew

コモディティ化する生活家電に新しい息吹をもたらすバルミューダの製品にも五感に訴える要素が採り入れられていますね。操作ダイヤルを回すと音楽のように音が奏でられたり、物理的な動作による感性的なUXデザインがされています。昨年発売されたコーヒーメーカー「The Brew」では、敢えてオープンドリップ方式を採ることで、抽出を視覚的に楽しめるようにしています。UXデザインというとUIでのユーザー体験のイメージが先行しがちですが、こうした物理的な形状での体験価値を創ることも大切です。機能が向上して便利になればなるほど、こうした付加的な要素が生活の質を高めるのかもしれませんね。

https://www.balmuda.com/jp/brew/
https://www.balmuda.com/jp/brew/design

プレイバック&リファイン
量産時代に失われた⾝体性を取り戻すべく、
時代を巻き戻して前進する!

2016年に行ったトレンド分析の仮説立案で「プレイバック&リファイン」というキーワードを掲げて未来予測をしました。当時ポケモンGOが人気でアナログレコードも注目され出していたので、それをフックに今後さらに身体性を取り戻す動きが強まることを訴えたのです。現代のレコードプレーヤーがデータ化できる機能も付加しているように、ただ昔に戻るのではなく今の言語に合わせて蘇生する。その提唱に同意してくれたのはごく一部の方でした(泣)。あれから6年過ぎましたが、今まさにそうなりつつあるなと昨今のトレンドや製品デザインを見て実感しています。あの時の予測は間違っていなかったなぁ~なんて、密かに自画自賛したりしています。(≧▽≦)
最後までお読みいただき、ありがとうございます!

篠崎美絵
トリニティ株式会社 執行役員                    デザインコンサルタント・クリエイティブ・ディレクター
インテリアデザイン事務所でファッションブランドのブティックをはじめとする商業空間の内装設計に従事。ミラノ工科大学にてデザイン戦略のマスターコースを取得後、2003年にトリニティに入社。
デザイン、カルチャー、ライフスタイルの観点から消費者価値観や市場の潜在ニーズを洞察し、具体的な商品/デザイン開発のアイデア創出のためのコンセプトシナリオ策定、及びトレンド分析を行うデザインコンサルティング業務を担当。


https://trinitydesign.jp/?=note



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