ルクセンブルグ・フランがないっっ。だけど頑張った一人旅。 その4
あ。
ひらめいた。
駅前に一軒だけあるホテルに行こう。ホテルなら、電話を貸してもらえるかもしれない。ホテルと言っても、ラグジュアリーなタイプではなく、質実剛健のビジネスホテルだったように思う。
フロントに近づいて行き、事情を説明した。快く電話を貸してくれると言う。
ありがたい。
はて。
ドイツの国番号は、いくつだったっけ? ここでもまた違う国にいることを痛感させられた。
パリに着いた時、
「無事に着いた」
と電話したような記憶がある。その場合どのように電話をかけたのだろう。
一生懸命思いだすうち、琴美ちゃんの方からかけてくれたことを思いだした。
だからドイツの国番号を知らなくても、通話ができたのだ。恥を忍んでホテルのスタッフに聞いた。「49」との答え。
私がダイヤルを回しやすいように、電話機を移動させてくれるやさしいスタッフだった。
「もしもし?」
通じた。
良かった!
助かった。
琴美ちゃんの声を聞いて、本当に安心した。
「なんとルクセンブルグで電車止まっちゃったのよ~」
「え~!? 行く時、あんなに確かめたのにねぇ」
琴美ちゃんは、続ける。
「そろそろ迎えに出ようと思っていたところだったので、間に合ってよかった。でも2時間以上かかるから、安全な所で待ってて」
そう言って彼女は、電話を切った。
ホテルのスタッフも、日本語がわからないながらも問題が解決したことが伝わったようで、満面の笑みをたたえてくれた。
おまけにお金は不要だと言うのだ。なんという親切。本当に、ありがたかった。
何しろ私は、ルクセンブルグ・フランを持っていない。
払おうとしても厳密には払うことはできない。フランス・フランかドイツ・マルクで換算してお支払いするのが、精一杯の誠意だけれど、笑顔のままで、
「大丈夫ですよ」
と言ってくれた。
とんでもない状況に陥ったと言うのに、こんな親切。本当に心に染みた。
何度もお礼を言って、ホテルを去った。
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