自由律かるたのはひふへほ
こんばんは、寅三奈です。
本日は自由律かるたのまとめ記事。今回は「は」行。
白・黒・食べ物・ワインをテーマに、「は」から「ほ」で始まる自作の自由律俳句を集めて、それぞれ所感を添えました。どうぞごゆっくりお立ち寄りください。
自由律かるた:
「自由律かるた製作委員会」主催(@JI_karuta)のTwitter投句企画。架空のかるたを製作するつもりで「あ」から「ん」まで始まる自由律俳句を参加者が投稿し、毎週その中から一句を選ぶというもの。
▼これまでの自由律かるたの自句まとめ記事はこちらからご覧いただけます
ホッと白い句
▶︎は
張りきる子の手の小麦粉だらけ
▶︎ひ
ひんやり水あめ最中にのせる
▶︎ふ
文庫本の栞として四つ葉
▶︎へ
閉館後の書庫の静謐
▶︎ほ
頬には明るめのチーク今日はハレの日
「は」の句に一番多く反応がありました。「ひ」は屋台のあんず飴を手際よく作る売り子の手元に注目した一句。「ふ」の句では、この句が南葦ミトさんの長編小説「ボウキョウ」の影響を受けていることに気づき、驚きと嬉しさがこみ上げました。詳しいエピソードについては以下の記事で読めます。
ぴりり黒い句
▶︎は
母の日までに贈れなかった鉢植えが枯れた
▶︎ひ
光るまでアルミ玉を磨きつづける人を眺める
▶︎ふ
封をしてから気づく誤字
▶︎へ
べったりと暑苦しい輪から離れる
▶︎ほ
凡ミス隠すように言い訳
「ふ」の句に一番多く反応がありました。「ひ」の句は #みんなで作ろうコロナ句集 のお題も兼ねた句です(本企画の募集は終了しています)。コロナ禍の中、Youtubeのアルミ玉を磨く動画を自粛要請中にただぼーっと眺めている。ユーチューバーHIKAKINさんが動画の中でアルミ玉を着々と磨いている一方、「すごいな」と言いつつも特段何もしない、何の技術も磨かない自分との対比を詠みました。ちなみにこの句は啓司さんとミニ討論を交わしたのですが、こういう討論は新鮮で、とても楽しくやりとりさせていただきました。
というのも、あの有名な「咳をしても一人」の自由律俳句を作られた尾崎放哉さんの全句集(※)の中に、句会の発言記録なども収録されているのですが、今回のミニ討論のやりとりは、その句会を彷彿とさせたからです。当時の句会では放哉さんに加えて井上井泉水さんなど教科書に載っているようなメンバーが勢揃いしていて、「この句意はどういうこと?」「これは分かる」などと熱いやりとりがなされていたそうです。そういうワクワク感を実際に体験できたのは貴重なことだと感じています。
※新装版 決定版 尾崎放哉全句集
伊藤完吾, 小玉石水[編] 春秋社刊 (引用:尾崎放哉記念館)
調べたところ、現在この句集は取り扱いがないようです(代わりによりグレードアップした[増補決定版]尾崎放哉全句集が発売されていました)。もしかすると古本屋や図書館で見つかるかもしれません。
ミニ討論のやりとりはこちらから確認できます。
食べ物句
▶︎は
春巻きパチパチと揚げたて
▶︎ひ
ピーマンは舟となり挽肉ぎっしり乗せる
▶︎ふ
麩をそっと浮かべ澄まし汁
▶︎へ
ペパーミントのガムを人数分貰って店出る
▶︎ほ
ホットケーキをゆるキャラ顔にする
「ひ」の句に一番多く反応がありました。「ひ」の食べ物句では、大好物のピーマンを使って句を作ろうと決めていました。ピーマンはサッと火で炙って食べるだけでも美味しいと感じるのですが、なんと言ってもピーマンの肉詰めが王道だと勝手に思っています。縦半分に切ったピーマンの窪みに、練ったひき肉をこれでもかと詰める瞬間はとっても手間だけど幸せ(ほんと手間がかかるので我が家の献立に登場するのは稀ですが)。「へ」の句は焼肉店などでお会計した後のワンシーン。店員さんがガムやら飴やらを差し出してくれるので、とりあえず人数分もらってしまう人。ドアの外で待つメンバーにとりあえず差し出してはみるが、意外と受け取る人がおらず、余りをそっとポッケにしまいこむ人。私です。
「ほ」の句は過去句から。最初のnote記事を書くために作ったちょっと思い入れのある自由律俳句。いざ投稿するとなると緊張してしまって、直前に何度も見直したという初々しい記憶が蘇ります。
(未だにプロフィール記事として固定してあるけれど、たった300文字程度でほぼ情報が載っていない記事なのでそろそろリニューアルしたいな。)
ワイン句
▶︎は
花振い果報の途切れる
▶︎ひ
ピノ・ノワールの繊細さに触れる
▶︎ふ
ブショネという烙印がこびりつく
▶︎へ
ペディセル取り除き苦味を消し去る
▶︎ほ
ボルドー偉大さを競う
「は」の句に一番多く反応がありました。これは前回も同じような感想を述べたような気もするのですが、ワイン句は作っていてなかなか難しいと感じています。ある文字から始まるワイン用語(ソムリエ試験やワインエキスパート試験で出てくる用語)を一つ入れた句というしばりを設けて作っているため、自由律俳句として成り立ちにくい、どこか説明的になってしまう、そういった弊害が出てしまいます。それでも頑張って作ります。ワイン好きの名のもとに。「ん」まで走り切ってみせます。
かるた自選句はひふへほ
▶︎は
張りきる子の手の小麦粉だらけ
▶︎ひ
ピーマンは舟となり挽肉ぎっしり乗せる
▶︎ふ
封をしてから気づく誤字
▶︎へ
閉館後の書庫の静謐
▶︎ほ
頬には明るめのチーク今日はハレの日
今回は「ホッと白い句」からの選出が多いです。 「ふ」、「へ」、「ほ」の句には嬉しい感想をいただき、ありがたい気持ちになりました。「ふ」はかなりやってしまうミス。「へ」はこういう空間に入ってみたいなという願望を込めながら作った句。「ほ」の句はとびきり明るい思い出を掘り起こして作りました。
おまけ
普段は毎週四句ぴったり投稿しているのですが、「は」の週では五句つくっておりました。その幻(?)の句をこちらに置いておきます。
▶︎は
浜辺から海へと続く足跡の影
実はこちら、「ホッと白い句」(明るい句)のカテゴリで作っていたつもりだったのですが、投稿してから見直すと「ぴりり黒い句」(暗めの句)寄りの要素の句であることに気づきました。しかし7月3日時点で「は」の黒い句(母の日までに贈れなかった鉢植えが枯れた)は投稿済でした。そのためこの句はお蔵入りにして、より明るめの句(新たに張りきる子の手の小麦粉だらけ)を投稿し直したという経緯がありました。
おわりに
先日、illy / 入谷 聡さん主催の私設賞『#磨け感情解像度』が開催されました。今回私は応募しませんでしたが、#自由律かるた製作委員会(Twitterで開催されている企画) にて積極的に自由律俳句を投稿されていらっしゃる小野木のあさんと金魚風船さんが参加されました。お二方はnoteにて、ご自身の自由律俳句を題材に短編小説をつくられています。
小野木のあさんは、佳作を受賞されました!
(illy / 入谷 聡さん評)
「死」と、死に伴う喪失をテーマにした作品が多い中で、この作品が最も「死の昏さ」を深く描いているような気がして、印象に残っています。
(引用:#磨け感情解像度 『佳作』32選)
金魚風船さんは、芽生え賞を受賞されました!
(サトウカエデさん評)
タイトルが自由律俳句なんです。で、その俳句が小説になっているのです。読み終えてそれに気づいた瞬間「やられたーー!」と心臓つかまれました。
(illy / 入谷 聡さん評)
自由律俳句のタイトルに短い物語というフォーマット、かなりユニークな存在感を示していました。形式の独自性だけではなく、物語の中身もきゅっと一ひねり入っていて、飽きさせない。
(引用:【結果発表】描き出すことばの密度と精度を追って #磨け感情解像度 )
お二人の作品が #磨け感情解像度 を通して広く読まれたことで、noteを活動拠点としているクリエイター方の間で自由律俳句の認知度も上がったように感じています。自由律俳句に今まで触れたことのなかった方がその存在を知り、実際に句作に挑戦されていらっしゃるお姿を拝見すると、いち自由律俳人として胸が熱くなります。
金魚風船さんと一緒に芽生え賞を受賞された山羊メイルさんは、受賞後記の中でご自身のお気持ちを自由律俳句に込められていました。
この記事ではご紹介しきれませんが、他にもタイトルに自由律俳句らしさを取り入れていらっしゃる記事をお見かけしたりして、スキボタンを何回も押したい気持ちになりました。
自由律俳句をつくる方が増えるということは、単純に考えるとそれだけライバルが増えるということになるのに、なぜこういう嬉しい気持ちが湧き上がってくるのだろうと最近疑問に思っています。まだこの答えは明確に出てはいませんが、おそらく同じ方向を目指して切磋琢磨できる仲間が増えたり、自分では想像もつかないような素晴らしい作品に出会える可能性が胸を高鳴らせている理由なのではないかと感じています。
今回の記事はいつもの「自由律かるたまとめ」より文章が長くなりましたが、書くのは苦ではなく、寧ろ楽しかったです。
ここまでお読みくださりありがとうございました。次回は「ま」行が完成した頃に。