話題の本(『人新世の「資本論」』)
前から話題になっていた『人新世の「資本論」』。
何となく気になっていた本であったが、2021年度の新書大賞に選ばれたことで読んでみようと思い購入した。
ざっくり内容を振り返ると要点は以下の通り。
・今の気候変動には資本主義のままでは対応できない(グリーンニューディールなども結局は消費を喚起する)。
・従来の理解とは異なり、晩年のマルクスには脱成長コミュニズムという思想が生まれていた。
・脱成長コミュニズムは清貧とは異なる。水などに代表される共有財(コモン)を民営化ではなく<市民営化>することによって「豊かな」生活は可能。
・脱成長コミュニズムは政治家に任せるだけでなく(つまり上からの改革ではなく)、市民による自治や共同管理が重要となる。
正直、途中のマルクスの理論的発展の部分は内容が込み入り冗長に感じた。一方で従来の資本主義批判ではなぜ駄目なのかの説明はなかなか面白く、緊張感を持って読み進めることができた。筆者は広井良典やスティグリッツといった代表的な論者にも遠慮なく切り込んでいく。
どちらの本も読んだことがあっただけに、なるほどと感じる点が多かった。
なぜSDGsでは気候変動に対するアプローチが不十分であるのか。私たちは何をしていけばよいのか。本の冒頭とおわりにそれぞれ方向性が示されている。
新書大賞に選ばれたこの本だが、欲を言えばもう少し読みやすく平易な内容になるといいと思う。本の末尾に3.5%の人が本気で立ち上がると社会変革が起きると説明されていたが、この本だけではその域に達しないと感じる。
100分de名著シリーズのようなものが必要だ。
方向性が斬新でとても説得力があるだけに、ちくまプリマ―新書や岩波ジュニア新書などからもぜひ本を出してほしい。
最後に。筆者の写真が大々的に載っているこのカバーは、実際には外すと普通の集英社新書のデザインになる。二重でカバーが使われていてまったくエコではない。こうした本は読まれないことには始まらないので仕方ないのかとも思うが、筆者はどう感じたのか気になった。
内容的にはとても面白く、おすすめの一冊といえる。ぜひ未読の人は読んでほしい。
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