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『フラペチーノ行かんか?』
『行くでござる〜』
連休中日。響子からのお誘いメッセージに奏子は即レスした。
外は暑っつい暑っつい猛暑とやらで、ここは本当に日本?温帯気候?本当は熱帯地域なんじゃない?なんなら地球じゃないんじゃない?なんて思うほどに、暑かった。絶好のフラペチーノ日和である。
去年買ったノースリーブの長ワンピ1枚を着て、ペチペチと日焼け止めを顔から身体に塗りたくっていると、ピコン、とスマホが鳴った。
『アタシも行く!』
送り主は歌子だった。
夏休み期間ではないにしろ、世間は4連休で、それも今日は中日。独り身とはいえ一応社会人である筈の三人が、こうも唐突な誘いにあっさりと応じ集まれることに、奏子は大層気を良くした。
こうでなくちゃ、と思う。
明日には隕石が落ちてきて、地球が爆発するかもしれないのだ。
こんな風に、気楽に気軽に仲良し達に会えるのが、とても貴重で幸福なことを、奏子は知っている。
「ふぇ〜、美味い、美味すぎる〜」
「これ期間限定じゃなくて、もうずっと売ってくれんかな」
「ホント!」
結局集まってから最初に行ったのはカフェではなく映画館で、フラペチーノにありついたのは、流行ってもないどころか話題にもなっていないホラー映画を観て散々身体と肝が冷えた後だった。時刻はすっかり夕方で、けれども外はまだまだ茹だるほど暑くて、テラス席に座って3分で身体は温まった。だから、冷たいフラペチーノが美味い。
「あのヒロインの女の子がさぁ、キャーキャー言い過ぎだよね。『いや、うるっせぇな』って途中から毎回心の中でツッコミ入れてて、話が頭に入ってこなかったわ」
「もともと、大したストーリーなくなかった?」
「いや、ゾンビも悪のようで元は人間だから苦しんでる、とか情緒に訴える話だったよ。壮大なストーリーだったよ」
「でも最後ゾンビを宇宙船に詰め込んで発射するのはどうかと思う」
「それな。主人公泣いてたけど、いやお前がやったんやんけ。宇宙にゴミ捨てんなや」
「ゴミ言うな〜」
フラペチーノの太っといストローを咥えながら、映画の感想を口々に言い募る。夕方の陽射しがチラチラと肌に当たって、歌子がテーブルごと席を日陰に移動した。
「このままじゃ、溶ける!」
「何が〜?化粧?」
「化粧だけならまだしも!身体が!」
「いやホラーじゃん。さっきの映画より怖いわ」
3人は顔を見合わせて笑った。
日陰に移動したからか、陽がだいぶ落ちてきたから、外も気持ちよくなってきた。風が涼やかに感じられ、しばし黙って周囲の人の行き交いをぼんやりと眺める。少し離れた所にギターを背負った少年と青年の狭間のような二人組がやってきて、徐に弾き語りを始めた。
奏子は目を閉じて、音に合わせて身体を揺らした。あと何回、こうして何でもない日を過ごせるのかな、なんて思ったりしながら。
「とっておきの怖い話なんだけど」
響子の声が聞こえる。
奏子は目を閉じたまま、『聞いてるよ』と頷いた。
「宇宙人は、例外なく音楽が好きらしいよ」
思わず目を開けると、バチッと歌子と目が合った。そのまま2人で顔を上げると、今度は響子とバッチリ目が合って、響子はニッコリした。
「宇宙には音がないから。だから地球でこっそり暮らしている宇宙人を見つける方法は、音楽を鳴らすこと。したら、宇宙人は身体を揺らして、リズムを取るんだってさ」
奏子はぴたりと身体の動きを止めた。歌子もぴたりと止まった。
響子はニコニコと頬杖をついて、遠くの弾き語りに合わせて歌って身体を揺らした。
奏子と歌子は顔を見合わせる。
「フフ…」
先に笑ったのは歌子だった。
「フフフフ…アハハ!!」
そのうち奏子も可笑しくなって、3人で歌って身体を揺らした。
それは結構な音量だったけれど、カフェの客も店員も道ゆく人も遠くのギター少年達も誰も気にしない。だって、夏だし、暑いし、ここは地球だし。
宇宙人かもしれない人がいたって、なんら関係ないし。
「さてと、そろそろ帰ろうか」
暗くなってきた頃、ようやく響子が言って、3人は立ち上がった。空になったフラペチーノの容器をダストボックスに落とし込む。ストン、ストン。『飲み残しはこちら』の文字に、そんな勿体ないことする人いるんかな、と奏子は考える。
「早く帰らないと、歌子が溶けちゃうからね」
「歌子は暑いと溶けちゃうからね」
三人は子供のようにはしゃいで、それから手を振って別れた。
空には遠い宇宙の星が一つ、また一つと輝き始めている。
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さて、このお話の中には宇宙人がいます。
それは誰でしょうか?
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