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サイバー・C・プロジェクト

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SF小説『サイバー・C・プロジェクト』のハコ。
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2018年9月の記事一覧

秋の風/第4話

秋の風/第4話

いい匂いがする。

バターとかベーコンの焼ける、美味しい匂いだ。
そして布団のなんて暖かいこと。
すべすべする感触を楽しみながら、菜々子は布団の中でもぞもぞ動く。
あ、お線香の匂い。
そこで、はっきりと目が覚めた。

「起きたか?出かけるから飯食えー」
俊がてきぱきと動きながら菜々子に声をかけ、テーブルにお皿をのせた。
お皿の上は思ったとおり、ベーコンとトースト、それから卵焼きだった。
「なんか

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名前/第3話

名前/第3話

男はシュンと名乗った。
偽名かと思ったが
「ニンベンに、ムって書いて…」
とわざわざ漢字まで教えてきたので本名なんだろう。

俊は冷蔵庫から水の入ったペットボトルを放り彼女に投げる。
わっ、と声を漏らしつつなんとかキャッチすると
「ナイス」
と俊は顔をくしゃっとさせて笑った。

硬そうな黒い髪。長身で体格も良かったが大柄でもない。
案外、歳も近そうだ。

俊は彼女がアンドロイドと分かってからも、す

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サイバーシティ/第2話

サイバーシティ/第2話

サイバーシティは、思っていたよりもずっと平和な街だった。そして、彼女が知っている他の街と、さほど変わらないように思えた。

街にはビルが立ち並び、皆明るく楽しそうにしていた。
気になった事といえば、皆が腕時計をしていて、その腕時計に頻繁に話しかけたり触ったりしていることだった。

「あの、その腕時計はなんですか?」
思い切って近くを歩いていた女性に聞いてみる。
「サイバーウォッチよ。電話もできる

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サイバー.C.プロジェクト /第1話

サイバー.C.プロジェクト /第1話

『逃げて。此処から逃げて。』

頭の中に見知らぬ声が響く。
その声に従い、彼女はとにかく出口を探していた。
時折頭の奥がズキンと痛む。どうやら頭を強く打ったらしい。

この建物は、方向感覚を狂わせる。
真っ白い壁に真っ白い床と天井。窓は1つもなかった。合わせるように、彼女は白い服を着て、白い腕輪をつけている。腕輪にはCという文字が刻まれていた。

長い髪をくしゃりとかきあげて、彼女は必死にもう

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