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短編 『ミカミという男』 初稿
新しい物語を書いていて、その初稿ができたのでメンバーシップに先んじて公開します。
初稿なので荒削りですが、どんな感じで物語を書いているのかを体感してもらうのも面白いかなと思ったので、このままどん!と投稿します。
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▽ 人物
・僕 … 物語の主人公。第一稿では一人称視点としているが、僕にも名前をつけて三人称視点に寄せていきたい。
・ミカミ … ドレッドヘアで、半裸でいつも過ごして
『ショー、誰にでもなれるさ。』 ①
僕には物心ついた頃から、ずっと一緒にいる親友がいた。
彼の肌は焦げついたような茶色で、僕の青白い肌とは対照的だった。眉毛もまた僕と逆の方向に、キリリと引き締まるように上がっている。彼はいつも独特な気配を放っていた。クールで、皮肉めいていて、それでいていつも好戦的だった。そんな彼のことが僕は大好きだった。出会った人を惹き付けてしまうような彼の雰囲気は、一緒に成長していく中で変わらないどころか、む
『玉木、ほら、お手。』
「ほら、お手。」「ワン!」
このやりとりが滑らかにできるようになった最速タイムを叩き出したのは、玉木だった。
私にとって玉木は、その点において最も評価に値する男だった。新しいアルバイトを二ヶ月で辞めてしまおうが、黄緑色の安物のソファで寝転がってゼルダの伝説ばかりやっていようが、気にならなかった。私は玉木に、これ以上のことを望んでいない。今が幸せで、とても楽しい。玉木との関係性はここが最高点なの
『流水、ここからここに』 前編
『流水、ここからここに』 前編
月
水を一口で飲む女性。それが、ぼくが覚えている香取さんのことについての記憶の、最も大きな印象を占めていた。
香取さんと初めて知り合ったのは、一年と半年前だった。香取さんはパン屋のレジでぼくのひとつ前に並んでいて、お釣りを落としたのを拾って渡したのが最初の短い会話だった。お釣りを受け取った香取さんは、
「お昼ごはんですか?であれば、近くの公園で食べませんか
『割れたガラスを踏む』
乗っていた船が大きく揺れた。ぼくは船の後部の甲板のデッキにいた。船は旅行客で賑わう大きな船だった。ぼくは普段仕事で毎日忙しくしていたため、息抜きにと夏の終わり頃に一週間ほど無理矢理休みをとり、クルージングの旅に来ていた。行き先はハワイだったが、この船での滞在の方がむしろ楽しみであったし、実際お金もかかっていた。
船体が大きく揺れた時、ぼくは船の1番後部の甲板にいた。強い風と、風によって生まれ