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犬養 稲文 〈Inukai Tōmi〉 (旧 石さまざま)
2024年11月17日 10:27
K君とわたしはクラブの活動報告の為にしばし鄙びた都市に下り立ったのだった そのクラブというのはサイエンス同好会のことであって かれこれ同志数名を継ぎ接ぎに成形した 概しての“科学”クラブだった K君とわたしの研究対象はそれこそ 纏まりのあるものではなかったが 今次の活動に際しては 流石にひとりで行くのも心細いと思って あるとき そこに行けば星空も観察できるのだと云ってK君を誘った K君はすぐさま
2024年11月16日 10:54
怪物はなぜ生まれたのか 怪物が怪物になる以前 お騒がせな台風があったと云う ふつう台風と云えば夏の暮れから立秋ほどの間にかけて来て 大雨と暴風で洪水を起したり 稲穂を先に刈って行ったりしてしまう しかし 此度の野分というのは 特段に力を持っていた訳ではなかったと云う タイフーンは結局 災いを齎さなかった ひとり自転車に乗った少年が 田圃に落ちると云うこと以外は 少年は予想外だった なぜならば 田
2024年11月16日 08:05
S:「いち、にぃ、さん、しぃ」M:「よん、さん、にぃ、いち」S:「ごぉ、ろく、しち、はち」M:「いち、さん、よん、にぃ」S:「からかってもムダだよ ボクあ全神経集中してるんダカラネ 数え間違えたら うんぬんかんぬん」M:「それや随分なこったな じゅうろく、にじゅう、じゅうく、さんじゅう」M:「そういや さっき数飛んでたな うん 飛んでた飛んでた」S:「冗談いうナ ボクあずっと真剣に数
2024年11月12日 09:26
星座も描けぬ深更にがっかりしたという人があった 田舎都会うんぬんでもなく また雲が星を蔽してしまったとかそういうのではなく 冥がりがすっかりとという風にして 一箇見えるのもあったが かすかに輝いているだけのことであって しばらくして飛行機が旋ってく界に見比べてみれば 本統にかすかであった 臍のように深くなっていた 飛行機のライトは四つ五つあって 兎に角それでも墜落してしまいそうに たったひとつだ
2024年11月10日 11:02
しかしながら、戦場を走り抜ける兵士たちを横切る弾幕の嵐は土くれにあたり、塹壕の手前で堰き止められ鈍い音をさせながら、あるいは金属の甲高い音の所為で負傷者の疵口に障る。血が垂れると自分の肌から滴っていく感覚が分かる。やがてぽたぽたと地面に落ちてったとき、すでに溜まりができていて水面にふれると正確無比な王冠状を模型して、幾らか王冠の先が自分に還りたがっている。疵口は熱をもち、まるで炎が燃えているみたい