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Midnight Accidentally 【掌編小説】

星座も描けぬ深更にがっかりしたという人があった 
田舎都会うんぬんでもなく また雲が星を蔽してしまったとかそういうのではなく くらがりがすっかりとという風にして 一箇見えるのもあったが かすかに輝いているだけのことであって しばらくして飛行機がめぐってく界に見比べてみれば 本統にかすかであった 臍のように深くなっていた 飛行機のライトは四つ五つあって 兎に角それでも墜落してしまいそうに たったひとつだけの星に接近して追い抜いていった
「おまえちゃんと輝け!」
と高らかに その瞬間 燐寸箱を頭へコツンと投げられた 蒼白い少年が
「これあけて」
と云ったので 開けてみればなんのことはないただの燐寸だった 自信満々そうに莞爾にっこりとして続けて
「これあねぼくの宝箱だよ」
「少年、宝物というのはね人に投げたりしたらいかんのだよ。宝物は大事にするもんだ。うんぬんかんぬん」
えらい諭してしまったのが漸く恥ずかしさを曳いてきて この幽霊少年も依然と莞爾して兎にも角にも燐寸が燃えるところが見たいと云うものだから 中々につけてやった ザッザッとシューとして火花が散って奇麗に燃えた だいぶ燃やしたら根本まできたから消した 少年はがっかりして
「もういっかい」
シャカシャカと箱を振ってもう一回つけて悦んだ
「マチバコ貸して」
そう云うと 箱の中を覗いて全部でじっぽん
「お星とヒコウキとマッチで全部で十と二つ、これで星座いくつ作れる?」
「俺は数学がダメだよ」
少年が火をつけたところに烟草を挟んだ 少年はいま星座ができたと大層に喜んだが
「これあ雲だね、雲はいらんね」
「十三というのは悪魔の数字だから、キリのいいときに止めたらいいさ」
少年から火を借りて幾らか喫んで 烟草は切れた 燐寸も大体煤切れてしまった 闇夜にお星様はわずかだった 帰り際 少年に烟草の罐々カンカンをプレゼントしたら大いに悦んで貰えた わたしの方はと云うとしばらくしてから お星はブリキ製だったことに気がついた

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