トップガンマーヴェリックの謎を解け‼ #9
2.3 ストーリー ―今頃?あるいは次章へのつなぎとして―
究極のリアルを求めた“胸熱”スカイアクション!
これは家族、友情、犠牲そして競争の物語である。
トップガンマーヴェリックにつけられたコマーシャルコピーですね。
どちらも作品の本質を表していると思います。
作品にはストーリーとテーマが不可欠で、伝えたいテーマをストーリの中に潜ませるのが文学なんだとか、そしてテーマをはっきり伝えなければ、それだけ文学的価値が高いのだと高校の国語教師から説明されたような記憶が。
その時はただ国語のテストを難しくするだけで迷惑な話だと思っていましたが、今はまぁわかるような気がします。
だって『愛は大切だ!』と直接的に伝えられても、口ではなんとでも言えるね。と心には響きませんが、人の言動から間接的に愛を感じ取れたならば、実感として伝わるものだと納得できますから。
トップガンマーヴェリックのストーリと言えば、ならず者国家が悪だくみしていると聞きつけると、“疾風のように現われて、爆弾投下し去って行く”というシンプル極まりないものです。
その中でマーベリックとルースターの確執をはじめとした人間ドラマがテーマとして表現されています。
ただ決して複雑な設定を観客に押し付けることはなく、ストーリーが最初からすっきりと頭の中に入ってきます。だからといってテーマの掘り下げが浅いといえるでしょうか?
私も最初は変にリアルさを求めず、わかりやすくて良いな。くらいに思っていましたが、何度も映画館で見ていくうちに、その下には深いテーマが隠れているような気がしてきました。
中島みゆき風にいえば、ウラン濃縮プラント爆破ミッションというストーリが縦糸で、そこに数々の人間ドラマが横糸として織り込まれているわけです。
この縦糸はミッションを巡るマーベリックの教官就任から、訓練中のさまざまな出来事、ミッションメンバーの選出、ミッションへの出撃と、数は少ないが太くて長い糸であり、はっきりわかります。
一方で横糸としてはマーベリックとルースターの確執、マーベリックとアイスマンの交友やマーベリックとペニーの愛、トップガンチームメンバー同士の助け合いや反発などが多数織り込まれ、しかし一部分しか見えないようになっています。
そして一枚の織物として、しっかりした作りになるためには縦糸だけで形を決めて、横糸を申し訳程度に絡めたようなものはダメなわけで、いくら目立たないものであっても横糸もしっかりした構造で縦糸に織り込まれる必要があります。
それでは、古くからのベストセラーである児童文学書、ハリーポッターシリーズを、今トップガンマーベリックでやってみたように、物語を織物のように考えてみようと思います。
さて、ハリーポッターですが、最後のシーンで、ハリーは他の人が犠牲にならないようにと自ら進んで命を宿敵であるヴォルデモートに差し出そうとします。そしてヴォルデモートはハリーを殺すのですが、実はハリーの中にあったヴォルデモートの一部を自ら破壊してしまい、ハリーは死んでいませんでした。そして、その後、ハリーは相手を殺す呪文、アバタケタブラ、ではなく、武装解除呪文であるエクスペリア―ムズを使います。最終的にはヴォルデモートの杖がハリーのもとに来て、自分の放った死の呪文でヴォルデモートは死んでしまいます。このハリーが直接死の呪いをかけずに、宿敵を倒すというのは、ただハリーの優しさを表したかったわけではなく、愛というテーマ―を表現するために必要かつ必然性のある展開となっています。
愛が一番大切だというしっかりとした主張、つまり強靭な横糸のために、それに見合うもっとも効果的で堅実な縦糸がうまく組み合わさったこの作品は児童が楽しく読むための本という一面と、文学としてテーマを主張をするという一面が完璧にまとまっているため、老若男女を問わず好かれているのでしょう。
トップガンマーヴェリックを文学と言う気は毛頭ありませんが、それでも単なるエンターテインメントではないと思っていますので、縦糸と横糸を少しだけほぐして確認したいと思います。
トップガンマーヴェリックにおける”謎”というのは、なぜ国連を通して交渉もせず爆撃をするのか?とか、F-18でなくても無人戦闘機を大量に飛ばして自爆覚悟でウラン濃縮プラントに突っ込めば一つくらいは目標に当たるのではないか?とか、F-14で第5世代戦闘機に勝つことができるのか?といった縦糸に関するもの(これをストーリーに対するケチともいう)ではなく、なぜあの人はあの時にこう言ったのか?なぜそんな事をしたのか?という横糸に関する比較的些細な疑問です。
最初は何でマーベリックはルースターをウイングマンに選んだんだろうなという、ごく軽い気持ちで抱いたような疑問でした。それが鑑賞を重ねるにしたがって、いろいろな場面で疑問が浮かび、鑑賞13回目にして今までは裏側に整然と並んでいるであろうと思っていた横糸が、あちこち部分的に見えるようになったことで、実際はストーリーという縦糸とどのように絡んでいるのかという大きな疑問に発展しました。
そして一つでも疑問を解決すべく14回目、15回目鑑賞に望みました。
ここである一つの疑問が解けたことがきっかけで、この考察を書き始めたのですが、書き進めるにつれて、すべての疑問がつながり、自分流仮説を立てることができました。
いろいろと仮説を立てていくと全編に散らばった疑問が全て関連付けられ、壮大且つ緻密な物語が見えてきました。その考察は次章で。
ちなみに次章の文中で記載している謎は11個です。ん?数えてみると意外と少なかったかな?
第3章 トップガンマーヴェリックの謎・なぞ・ナゾ
3.1 ミッションの謎
今回の“ならず者国家”のウラン濃縮プラント爆破のミッションには謎が多いです。
一つ目の謎は同盟国の安全保障にかかわるこの重大な作戦の立案をなぜマーベリック一人に任せたのか?
二つ目の謎は2分30秒というパイロットの生死を分けるという制限時間は何によって決まって、結局どういう意味があったのか?ということです。
謎解きの主要な試みはミッションに関するこの二つの謎を解き明かすことです。
私は別に軍事研究家ではないので、戦略・戦術などの軍事的な知識に基づいて考察することはできませんが、主に家族、友情というこの映画のテーマの側面からスポットライトを当てて考えてみることにしました。
早速一つ目の謎である、なんでマーベリック任せなの?について、まずわかるところから考えてみます。
普通であれば国防省の複数の作戦担当官やら海軍の高官やらが彼らの頭脳と情報を集結させて、綿密な作戦を立てるはず、それがある意味軍の厄介者であるマーベリックがトップガンに着任してから、司令官であるシンプソンさんとマーベリックとで、どうする?うーんF-35 がダメなら、F-18 4機で行きましょう。で即決なんですよ。実戦経験豊富な海軍最高の技術を持つパイロットだということで、このくらいは映画のシナリオの都合として許される範囲かもしれませんが、必然性を求めるならば、なかなか考察が大変ですぐには答えが出そうにありません。
ということでとりあえず、この問題は後に回します。
そして二つ目の謎である、出撃したパイロット全員の生死を分ける絶対的な基準となり、全編を通して繰り返し登場した、“2分30秒”。
これは単なる作戦上のパラメータというだけではなく、トップガンメンバー全員が目標にして一丸となって訓練を繰り返した認識の共有です。シンプソンが後から持ち出した4分という新パラメータと相対する命の重さの概念といっても良いと思います。
2分30秒という時間自体は頭に焼き付けられているのですが、それってどうやって決めた時間だったっけ?
そりゃあ早くしないと、敵に感づかれて、第5世代戦闘機が迎撃に来るんでゆっくりなんかしちゃいられない、急いで慌てましょう、ということなんでしょうけど。
理屈が今一つ頭に残ってないんですよね。
十数回鑑賞した段階で、頭の中でストーリを反芻して分析してみます。
結果として敵が勘づいたのはトマホークの着弾ですよね。
そういえば空母からの出撃前に、トマホークの発射で敵は攻撃に気付く。とウォーロックさんが言ってたな。
実際にバンデッドが敵襲に気づいてパトロール中に引き返したのもトマホークの着弾があったからだし。
となるとトマホークの着弾とウラン濃縮プラントの爆撃の間隔が短ければ短いほどいいということですね。もうちょっとトマホーク発射のタイミングを遅らせた方が良かったのかな?
いやいやトマホークがJRのごとく遅れることがあるのかどうかわかりませんが、あまりギリギリでも良くないのだろう。
いやいやいや待てよ。トマホークの着弾とウラン濃縮プラント爆撃の時間差を考えているけど、そもそも2分30秒というのは渓谷侵入からの時間ですよね。
別に渓谷を安全に、まさに地を這うようにゆっくり進んでも、攻撃部隊の目的地到着直前にトマホークを発射すればよかったのではないだろうか?と気付いたのが13回目の鑑賞後。
うーん。みんな命を懸けて特訓したのに2分30秒の意味はなんだったのだろうか?ここに論理的な矛盾があるということになればちと辛い、これは突き止めねばという決意を胸に14回目鑑賞に突入。2分30秒の初登場シーンを固唾をのんで待ち受けました。
最初のドッグファイトの訓練が終わって、下限高度を引き下げて低空爆撃訓練を開始するときのブリーフィングでいきなり出るんですね。この2分30秒。なになにマーベリックのいう事には…
『急がないと敵の余裕ができるし、早く飛んだほうがSAMのレーダーにも見つかりにくいよ。ということで2分30秒ね。とりあえず』的な感じでした。
適当ではありますが、この段階でトマホークは出てきませんし、なるほどと納得できます。
2分30秒という絶対値は別として、敵地でゆっくりしていいはずないですし、そもそも最初からルート設定されている渓谷をスイスイクリアする操縦技術がないのでは、爆撃後のSAMをかわすこともできないし、ましては第5世代戦闘機ともやりあえないですから。
そういえば渓谷を抜ける訓練でルースターが安全運転に徹し、1分遅れで目標到達した時の、あれセーフ、いやアウトの議論で、「ゆっくり飛んで第5世代戦闘機と遭遇しても、勝敗はパイロットの腕で決まるんでしょ。」「その通り!…」のルースター、マーベリック掛け合いの後の…の間は、(でもおまえスピード出して渓谷抜ける腕ないのに、パイロットの腕て!…)、(そうでしたシュン)。的な“間”なんだろうか
うんやっぱり2分30秒は大切なんだ。と一旦納得。