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小説「千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ」

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千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (23) 終

千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (23) 終

 夢のなかで聞いてた。
「海面が上昇する」
「ほう」
「隕石かな」
「かな、と聞かれても。さあ」
「隕石が落ちてきて、津波か。津波だと、一回ひいたら、海面はまた落ち着くのか。日本とか沈没するかもしれないけど。やっぱり、温暖化あたりか。じゃあ、太陽が異常に活発化して、気温があがる。隕石も落ちてくる」
「いいんじゃない」
「隕石が落ちてくる、それをきっかけに、急激なものだろうね。三週間とか、せいぜい、

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千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (22)

千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (22)

 わたしのパート、トランペットが泊まってたのは、合唱部がつかってるほうの第二音楽室で、倉庫のかびくさいふとんをしいて、扇風機がまわってた、やけに蚊が多かった。先輩たちが学校を探検してた、そのあいだわたしは、ひとりきりで、まじめに楽譜を見て練習の反省をしてた。画用紙を切りぬいた大地賛頌の歌詞と楽譜、みどりは森で、鳥は青い、赤は秋のイメージ、白い雪、全体的に水色で、宇宙から見た地球で、地球みたいな壁に

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千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (21)

千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (21)

 風に流されないように、がんばって話してたんだけど、微妙なニュアンス、言いたくないことを言いたくなさそうに、それでも、言う、って感じとか、ため息とか、目が泳ぐだろうし、あと、笑ってごまかすのも、魔女の高笑いじゃなくて、チェシャ猫のくすくす笑いがいい、そういうのが、全部、つかえない。残念ながら、人生の話なんて、こまかい、暗くなりがちな、でも色彩ゆたかな、誰が話したってそれなりにおもしろいに決まってる

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千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (20)

千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (20)

 歩いて三十分くらいの道が、自転車で五分くらいだった。なのに、四十分かけた。どういうことかと思うでしょ。
 東京と埼玉の国境あたり、ふりむけば埼玉で、しみじみ、空が広かった。あんな、宇宙みたいな空の下、でも、道は長いのがずっとつづいてるだけで、折れたり、まがったり、かさなったりしないで、退屈で、奈津美は自転車のうしろで、
「うける」
 って。
 たのしくなってきたらしい。
 線の上をすごい速さで走

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千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (19)

千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (19)

 いや、目は、あの、まんまるな目だけど、

  どじょうが 三匹 あったとさ
  おせんべ 二枚 あったとさ
  おもちを ふたつ かさねたら
  雨 ざあざあ ふってきて
  あられが ぽつぽつ ふってきて
  あっというまに たこにゅうどう

 なんだ。
 おでこに、しわ、三本。
「なんだよ」
 って聞いてやらなかったから、夢になって、あんなふうに巨人に変身してしまったんだろうな。
 ベッドは

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千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (18)

千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (18)

 ぽっかり、穴があくくらい。
 あいつは、無神経そうで、気が強そうで、馬鹿のふりをしてるけど、本当は、ひとりも友達がいない。ひとりでトイレに行くのもさみしそうで。顔を、目を見ずに、いつも胸をながめおろしてた。胸に穴があくのは、かなしいことで、風が吹いたら、内側から寒くなる。はじめて空気にさらされた、その心臓はハートのかたちで、ショッキングピンクで、恋でもしているみたいに、いそがしく鼓動をくりかえし

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千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (17)

千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (17)

 よく寝てた。
 夜ごはんを探してさまよって、代々木のあたり、奈津美は本当に手ぎわよくホテルを見つけて、入って、いつのまにか部屋までわたしをつれてきた。ラブホテルだった。シャワーをあびて、奈津美は寝た。細い手足をいっぱいにのばして、ベッドをひとりじめした。
 
  鬼のパンツは いいパンツ
  つよいぞ つよいぞ
  トラの毛皮で できている
 
 奈津美のパンツは、黒かった。むらさきがかった、レ

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千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (16)

千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (16)

「死んだほうがいいのかな」
 ちがうな。
 小学六年生がそんなこと言うか。
 
  夏が過ぎ 風あざみ

 の、カゼアザミを探しにきた。なかった。オニアザミはあった。
  
キク科アザミ属の多年草。茎の高さは一メートル程度であり、葉は深く裂け、縁にあるとげはするどい。花期は六〜九月で、下むきに数個の花をつける。頭状花序は筒状花のみで構成されており、花の色はむらさき色である。総苞はねばる。花期にも根

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千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (15)

千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (15)

 ひまわり畑、本当にうなだれた人たち、卒業式の練習で、みんな、退屈してるみたい。きつい角度の夕焼けの赤い照明をうけて、どす黒い影がひまわりの顔に落ちて、なんだか深刻そう。苦悩してる感じで、生きるべきか、死ぬべきか、なんて思いつめてる。どうせ、無視されたとか、浮気されたとか、先生と、上司とあわない、彼氏と別れる勇気がない、親がいじわる、とか、そんなのをなやんでるだけ。鶏頭、泣きすぎて青むらさきになっ

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千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (14)

千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (14)

 また、雨がふって、ぬれた。夜ごはんを探してさまよって、代々木のあたり、奈津美は本当に手ぎわよくホテルを見つけて、入って、いつのまにか部屋までわたしをつれてきた。ラブホテルだった。シャワーをあびて、奈津美は寝た。細い手足をいっぱいにのばして、ベッドをひとりじめした。わたしと奈津美、どっちのほうがつかれてるのかちゃんと相談したり、一番風呂じゃないといやだとか、そういう特異体質を尊重しあったっていいの

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千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (13)

千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (13)

「そうなの」
「安いJポップを聞きすぎなんだよ」
 ひまわりみたいになりたい、とか。
 いつも、上をむいて、光にほほえむあなたが好き、とか。

 和名の由来は、太陽の動きにつれてその方向を追うように花がまわると言われたことから。ただしこの動きは生長にともなうものであるため、実際に太陽を追って動くのは生長がさかんな若い時期だけである。若いひまわりの茎の上部の葉は太陽に正対になるように動き、朝には東を

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千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (12)

千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (12)

 清瀬ひまわりフェスティバルは、都内最大級のひまわり畑が楽しめるイベントです。
 約二・四〇〇〇平方メートルもの広大な農地に約一〇万本のひまわりが大きな花を咲かせます。
 期間中、写真コンテスト等のイベントや、近隣の畑で採れた新鮮野菜やひまわりの切り花の販売、また商工会等による模擬店の出店があります。

 これ。
 まだ、あった。
 六年だと思うけど、遠足で行ったとき、はじめてフルコーラスで歌った

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千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (11)

千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (11)

 それから、おぼえてない。
 あいまいな、押入れのなかみたいな、ぼんやりした夢のなか。時間も飛んで、わたしは、階段の踊り場、まだ外の光は雲にさえぎられてて、おばけみたいな黄ばんだまるい電球の下、次のまがり角の踊り場に影を落として、チョコレートのかたちと色のドアの前で、前衛的なせんぬきみたいに腰に手をあててた、奈津美を見あげてた。
 スカートをパラシュートにして、たしかに、その瞬間、浮かんでた。二秒

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千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (10)

千人の女の子の夜になっちゃんは死んだ (10)

 分からない。
 どうでもいい。
 でも、こたえもなんにもいらなくて、水玉の人が男なのか女なのか、坂のどのあたりに用事があったのか、アイスティーの氷も全部、とけて、それをすすって、
「いまごろ、なにしてんだろ」
 なんて、別に興味もないことをなんとなく言えたのは、あの、奈津美とむかいあって窓際にすわってた、あのカフェの一時間だけで。もう永遠にどうでもいいこんな話を、どうでもいい話として話せることは

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