勘所3:顧客を選別しない企業は滅びる
事業戦略大学(教員1名・生徒無限大)「事業戦略の勘所コース第3回」
企業が最も影響を受けるのは誰からか? 株主、経営トップのポリシー、経営チームだろうか?やはり顧客だろう。しかし、実際には顧客の選別はあまり行われていない。従業員、事務所、設備、経営幹部を選別するときと同じくらい顧客を厳しく選別する企業はまれである。しかも、企業活動の中で、顧客ほどコストがかかる対象はない。新規顧客を開拓するには、膨大な初期投資が必要であり、その結果、ほんの一部の優良顧客のみがその投資に見合ったリターンをくれる。また、そのような顧客は他の顧客も紹介してくれる。
一方、自社にふさわしくない顧客は、その顧客への初期投資が回収されないばかりか、対応レベルが不十分となり、自社に対して不満を持つ顧客になる可能性がある。その結果、他の顧客に悪影響を及ぼす可能性さえある。新規事業のスタートに際し、特定の優良顧客に絞り込むことは必須条件である。また、他社がさまざまな顧客との関係を持っているなら、それはまたとないチヤンスである。なぜなら、自社が優良顧客に絞り込み、効率よく質の高いサービスを提供することで、優良顧客セグメントのみを競合からスイッチさせ、短期間で高い成長率を確保できる可能性があるからだ。顧客は、事業のブランドイメージを形成する機能も持つ。最初の顧客は知らず知らずのうちに次の顧客を選別する役割を担っているのだ。
P&Gフアーイーストインクは日本において、他のトイレタリーや化粧品、雑貨のメーカーが全国規模の販売網を展開する中で、人口の多い大都市圏にある集中購買を行っている大手ドラッグストアを、絞り込まれた数種の品種で攻略していつた。その集中した顧客戦略の結果、日本のライバル企業よりも高い営業効率を達成し、少ない人員で高い業績を上げるなど成功を収めている。
自転車の変速機のシステムでトップシエアのシマノは、ロードレーサー市場では、欧州の自転車ロードレースのトップレーサー向けに開発した自社製品を供給し、特別なクルーを組織化して派遣、好成績を収めている。エンドユーザーニーズに対しても、個々の仕様に合わせた部品を用意して徹底したサポートを行い、自転車の完成品メーカーを超えたシマノファンをつくり出している。シマノは自転車のMTB市場や釣り具市場でも、同じような優良顧客マーケティングを展開し、高い利益率を維持している。
この例からもわかるように、優良顧客を拡大するには、顧客のビジネスそのもの、すなわち顧客の内部に入り込み、顧客の業績上の成功に貢献しなければならない。また、サービスを提供する自社の社員も、これを学習の機会とし、高い満足を得ていなければならない。つまり、、関わる人々の成功体験が繰り返されることによって、ウィン・ウィンの取引関係が長期間形成されるのだ。従って、今狙おうとしている顧客に、それだけの投資をする価値があるかを判断することは大変重要である。ここで難しいのは顧客の優先順位を付けることではなく、どの顧客と取引しないかを決めることである。