三方の小品【18:エビフライ】
〇〇に入るキーワードは、配信中にスターとコメントのキリバンを取っていただいたリスナーさんにリクエストしていただきました。
鎌倉屋トルテという少女の思い出や、頭の中に触れていきませんか。
エビフライ
エビフライ (テキスト版)
内容は上の画像と同じです。
こんがりと夕暮れ色に染まる鎌倉の師走の空のもと。よそ見をしてはならないと手元に目線を戻す。そこにはオレンジ色のあっつあつの海が広がっていた。海とは言ってもそこに飛び込もうものなら大変なことになるので、飛び込む役目は彼らに任せてしまおう。そう、白き身を小麦色の衣に身を包ませ、しっぽだけ残る姿はさながらみのむしのような彼らに。
そんなことをぼんやり考えながら、ぱっぱと左から右へみのむし製造が行われる手元を見ていたら、ふと懐かしい残像が重なったように思えた。
真っ赤な夕焼けはもうすっかり夜に溶けて、とろりとした満月があたりを照らしている。細めた目を寸の間閉じれば思い起こされるのは小さな背中。年末年始に訪れると「喜んでもらいたいから」と、いつだってサクサクのエビフライを用意してくれた。到底食べきれる量ではない大きなお皿山盛りいっぱいのサクサクたちを見て、喜ばなかったわけではないけれど。なぜこれで我らが喜ぶと思っているのだろうと当時は生意気にも疑問に思っていた。
でも、今ならわかる。
きっと多くはないであろう予算の中から商店街の魚屋の店先で立派な海老を選び、背わたを取るなど丁寧な下準備。衣とつなぎもたっぷり用意して、いっぽんいっぽん順繰りに揚げていく。焦げないように決して持ち場を離れず、ここだという頃合いにササっと油からすくい上げる。なんと手間のかかる料理だろうか。その間ずっと、食べる相手のことを想っていたのだろう。今の私と同じように。
初出:2021年12月29日
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