【往復書簡:ひびをおくる】鳥野みるめ002
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柳沼雄太様
こんにちは。七夕も晴れ間がほとんど見えず、どんよりとした曇天が続き梅雨明けが待ち遠しいですね。
先日は素敵なお手紙をありがとうございました。
編集者のような気分で大きな封筒から出来立ての原稿を取り出しながら、わくわく読ませていただきました。
本屋さんでのときめきのお話、少しわかる気がします。わたしも『本屋さんしか行きたいとこがない』(島田潤一郎)が読みたくて、隣町の大きな書店に取り寄せてもらおうとお願いしてみましたが、どうやらできないみたいなのでまた東京を訪れるときに本屋さんを巡りながら探してみようと思います。
amazonでポチッとボタンを押せば、どこに住んでいても欲しいものが玄関前まで届いてしまうことが以前よりも日常になりつつありますが。
「もしかしたら自分を豊かにしてくれるかもしれないモノ」を目で見て、手で触れて、自分の五感を研ぎ澄ませながら100%ではない可能性を信じて選び自分の生活に取り入れることが、ささいなときめきなのかもしれないですね。その場所で出会う瞬間も人生において大切な時間の一部になるからこそ、お気に入りのお店に向かう足取りはいつも軽い気がします。
離れた町に戻ってから変わった感じ方といえば、こちらは夜が更けるのがとても早いです。
東京では終電まで誰かとおしゃべりしながらお酒を飲んで過ごしていたり、一人でいても人がガヤガヤと集まるところへ行っては少しホッとしたりしながら、夜を楽しむことで一日を充実させようとしていて。
こちらではそんな時間が嘘みたいで、日が暮れるとあかりが消えて真っ暗で町があっという間に眠ってしまうので「夜」という時間が奪われてしまったような、ポツンと取り残された気持ちになります。
それでも夜を楽しく過ごそうという気持ちは変わらず、たまに一人で散歩をしたり(夜の海は井の頭公園と違いほとんど誰もいません…)本を読んだり、日記をゆっくり書いてみたり。お酒以外で自分と向き合う時間が増えたように感じます。
以前に住んでいたときとの心境の変化については、東京で暮らしたことで以前より離れたところに暮らす人たちとの繋がりが増えたことによってわたしが生まれた町を知ってもらいたいという気持ちがとても強くなりました。
前に少しお話ししたかもしれませんが、近所に古い銀行を改装したBAR BANKというお店があります。由比ヶ浜通りで唯一深夜でもあかりの灯っているお店です。踏切のある海辺の通りがとても似合う趣のあるバーなのですが、一人で行くのは勿体無い気がして。いつかこちらに来ていただいたらぜひご一緒してください。
少し片付いた部屋で、少しづつ身体や気持ちも適応してきたように感じます。
部屋でかける音楽もneveryoungbeachよりもサニーデイ・サービス、ミツメよりもくるりの方がなんとなく馴染む気がして。『猫を棄てる』(村上春樹)を読み、台湾のイラストレーターの高妍(ガオ イェン)さんのインタビューに影響されて、はっぴいえんどの『風街ろまん』のレコードが欲しくなりました。いまの東京での暮らしの中では、どんな音楽が心地良いですか?
お誘いいただいた、夏の音楽イベントもとても楽しみにしております。
いつかこの部屋でのんびり夜を過ごすためのプレイリストをリクエストさせてください。
2020.07.12 鳥野みるめ
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さて、物語が動き始めました。
主人公の不器用若い男性と一緒に、わたしも手探りで迷いながら楽しい寄り道のようなこの往復書簡を写真で進めていきたいと思います。
前回の手紙の内容と比べると、今の自分も少しずつ鎌倉での生活を楽しもうとしていることに気づいたり。あまりマメに日記をつけるタイプの人間ではないので、定期的な手紙のやり取りの中での時間経過による気持ちの変化も合わせて楽しみたいです!
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