【短文】『悠久の部屋』
わたしは、幼い頃から、幸せというものを知らずに生きてきました。
だからといって、特別不幸だったのかと言われれば、そうではありません。
少なくとも、自分が不幸だとか、可哀想だとか、そういう感情に悩まされたことなど一度も無いのです。
私は、生まれてきた頃から母と二人暮らしで、憶えている限りでは、父親と呼べる人はいませんでした。
私と母が住んでいるのは、海沿いの小さな家で、母の話によれば、周辺に民家や建物など、人の気配は無いようです。
私は母の言い付けで、一度も家の外へ出たことが