死ぬかもしれないから全力でつくる
横田といいます。3人でゲーム開発をしているSYUPRO-DX(シュウプロデラックス)という集団でシナリオを担当しています。
ここから先は個人的な話になりますが、僕は2015年にリリースしたスマホゲーム『彼女は最後にそう言った』の開発開始から「ここから先は全部遺作」という思いで物語をつくってきました。
時間ループADV『彼女は最後にそう言った』(iOS/Android)
「祭の夜にはお面をつけて死者がこの世に戻ってくる」という言い伝えがある山奥の村で、4年前に死んだ同級生から手紙が届く。彼女はなぜ死んだのか? くり返す祭の夜に真実を探る。
孤島伝奇ADV『終わらない夕暮れに消えた君』(iOS/Android)
昔校庭に埋めたタイムカプセルを掘り出したら、出てきたのは埋めた覚えのない箱。箱の中には紙が一枚。「10年前のつづきをしよう」。あの日かくれんぼの最中に失踪した友達、まさかあいつが生きてるのか? 終わらない夕暮れの中、10年越しのかくれんぼが始まる。
ココロにダイブするアドベンチャー『ココロインサイド』(iOS/Android)
人の心に入り込むアプリを駆使して「人が消える街」で起こる事件を解決する。人の抱える闇が生み出すミステリー、バトル、友情。周回してレベリングして強ボスに挑むRPG要素もあり。
もともと夜型で寝る時間はムチャクチャで、楽しすぎて食事もせずに作り続けてしまうこともあるけれど、特別体のどこかが悪いわけではない。これはあくまで制作に対する姿勢の話で、明日死んだら困るけど、明日死んでもいいように、その時の思いを作品に注ぎ込んできました。
僕には「物語でみんなを楽しくさせたい」という欲求があります。だけど見てくれ、このあふれんばかりのコンテンツ。世界にはおもしろいものがいっぱいある。サブスクをちらっと見ただけでわかる。ここにあるもの全部を鑑賞するなんて一生かかっても不可能だ。毎日漫画がアップされ、毎日新しいゲームが出る。しかも1個や2個じゃない。文芸、音楽、映像、ありとあらゆるジャンルで膨大な作品が毎日生み出され続けてる。こんなステキな時代に僕らのゲームを見つけて遊んでくれるなんて、それだけで奇跡みたいなものですよ。ネット万歳。スマホ万歳。世界中つながってハッピーだ!
と思ったけど、一概にそうとは言えないみたいだ。めんどくさいことも増えてきた。この環境に疲れ果てた人も大勢いる。SNSをちょっと覗けば、今日も声のでかい人の発言が拡散されてる。それがかなり聞き苦しい内容だったりすると、それにまた疲れちゃったりする。
別にSNSに限ったことじゃない。頭にくることもあるし、わけのわからない人もいる。「おかしいだろ!」と思うことがあっても泣き寝入りしてしまうような気弱な人や、優しい人は神経をすり減らすばかりで。こんなの不公平じゃないか!
だけど世界は美しい。
生まれてからずっと色が見えない人が矯正メガネをかけて初めて色とりどりの世界を見て感極まって泣いてしまう動画がものすごい再生回数を叩き出していた。茶色にしか見えなかったカラフルな風船の色を全部完璧に言い当てた時、言葉にならずに涙があふれる。まわりの人も泣いている。僕らが見ているこの世界は、ちょっと忘れかけていたけど、実はものすごく綺麗な場所なんじゃないか?
人間は慣れる。気を抜くと、ステキなこともいつの間にか当たり前になってしまう。道端に咲いてる花を見たっていちいち感動したりしない。木がカッコイイなんて思いもしない。だってフツーだから。別に面白くもないし。
でも、そこで「今週いっぱいであなたは死にます」とか言われたら、きっと昨日まで当たり前に感じてたものが急に愛おしくなったりするでしょう。昨日は何とも思わずに踏みつけて歩いた落ち葉も、「死にます」って言われた後に踏んだら違うことを思うかもしれない。地面とこすれて転がる音や、靴の裏の感触を鮮明に感じて、「小さい頃は落ち葉を集めて焚き火をしたな」とか思い出がよみがえったりするかもしれない。果たせなかった約束や、昔言ってしまったひどいこと、ずっとそばにいてくれた大切な人のこととかが一気に頭を駆け巡って「死にたくねえ」って思ったりするはずだ。
僕はよく思うんですよ。道を歩いてる時、車がすれ違いざまにちょっとハンドル切り損ねたら巻き込まれて死ぬなって。まったくスピード落とさずに車が突っ込んでくるところまで想像して、そのたびに思う。「死にたくねえ」って。
宣告してもらえるならまだいい。予告なんてない。
大きな転機はいきなり来る。
世界は美しいけれど、理不尽なことばっかりだ。
だから僕の物語の主人公は、いつも「理不尽に立ち向かうヤツ」になる。
僕もあなたもいつか死ぬ。
だけど、もし先に僕がいなくなったら、その時はこのゲームを遊んでよ。きっと楽しくさせるから。ちょっとコワい展開もあるけど、愉快なところもいっぱいあるから。これを通して話をしよう。「あいつはこんなことを考えてたんだ」「おかしいね」って笑っておくれよ。
だから物語の核は、「これからいなくなる人が何を残せるのか」「大切なものを失った人はどうすればいいのか」だ。生きるってことは、たぶんそれの連続だ。腹殴られたみたいに効いてくる。そりゃあ疲れる、大変だよ。
だから誰かの支えになるような、明日もがんばろうって思える物語をつくりたい。ドキドキさせたりハラハラしたり、そういう楽しさももちろん入れるよ。ちょっと毎日つまんなかったり、何かの理由でしょんぼりしてる人は、SYUPRO-DXのゲームを遊んでみてよ。きっと損はさせないからさ。
そういう気持ちでゲーム作ってます。よろしくお願いします。
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