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映画感想 ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー
こんにちわ、こんにちわ、映画のマリオの国から。
とうとう視聴しましたとも! 『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』!
本作は2023年劇場公開。公開してから記録的な大ヒットとなり、公開9日間で全世界で3億8000万ドルの興行収入を獲得。『アナと雪の女王2』が保持していた記録を破り、アニメーション史上最大の興行収入を記録。もちろんゲーム原作映画の中でも歴代最高。前年には『ソニック・ザ・ムービー2』がゲーム原作映画史上最大の記録を作っていた(3日間で7210万ドル)が、このさらに上を行ってしまった。2023年9月の時点で世界興行収入は13億5975万ドルとなり、2023年公開された映画の中でも最大のヒットとなった。
日本での興行収入は同時期に『THE FIRST SLAM DUNK』と『すずめの戸締まり』というさらに上をいくメガヒット作があって、常に3番手、「いまいちな成績」と表現されがちで感覚が狂ってしまっているが、実際には興行収入100億円と充分すぎる大ヒットとなっている。
劇場公開時から言われていることは、この作品の批評の難しさ。例えば映画批評集積サイトRotten tomatoでは批評家によるレビューが280件あり、肯定評価は59%。しかしオーディエンススコアは95%と圧倒的に支持されている。一時は「黒人が出ないからだ」とか「LGBTキャラクターがいないからだ」という言われ方をしたが、話はそう単純ではない。この辺りの話も後ほど触れよう。
では前半のストーリーを見てみよう。Here we go!!
前半のストーリー
場所はニューヨークのブルックリン。ここで2人の配管工が独立しようとしていた。その名はマリオ&ルイージ兄弟。テレビCMを作って早速仕事が舞い込むが……。奮闘の結果、仕事は大失敗。かえって被害を拡大させてしまう。
しょんぼりして帰宅するマリオ兄弟。2人の独立に関し、家族達のほとんども反対だった。
父はこう言う。
「俺には理解できん。せっかく入った会社やめて、バカな夢を追いかけるな。もっと気に食わんのは、大事な弟を巻き込んだことだ」
マリオは落ち込んで自室に閉じこもってしまう。そこで何気なくテレビを見ていると――ブルックリンの水道管が破裂! 道路が浸水している光景が放送されていた。
僕らの出番だ! 運命の導きに違いない!
マリオ兄弟はさっそく現場へ行く。現場は混乱して、原因の特定すらできていない。マリオは「原因は地下にあるに違いない」と考え、マンホールの中に飛び込む。
やはりそうだ。緩くなった元栓が水を噴き上げていた。それを修理しようとするが……しかし誤って転落してしまう。
転落したそこは……どうやら古い地下構造らしい。もうずっと誰も足を踏み入れていない感じだ。マリオ兄弟は興味を持って地下構造の中を探索する。
しばらくして――ルイージがいない。どこへ行った? 緑の土管の前に、ルイージの荷物が残されている。ルイージはどこに消えた……と突然、マリオは土管の奥へ吸い込まれる。
土管の向こう、不思議な空間に放り出され、そこでルイージを発見する。マリオはルイージを救い出そうとするが、離ればなれになってしまう。マリオが放り出されたその場所は――キノコ王国だった。
そこで出会ったキノピオに「プリンセスなら、あなたのお力になれます!」と助言され、さっそくピーチ姫に会いに行くことに。
画面を見ながらシーン解説
ここまでのお話しで20分。前半戦が終了し、つづいて主要キャラクターが登場するフェーズへと入っていく。
まあまあネタだらけの作品。細かいところを見ていこう。
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映画が始まる前。任天堂のロゴが出てくるこの場面。
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ちょっとだけディスクシステムの起動画面を想起させるような構成になっている。40代以上のゲームプレイヤーなら「おっ」と思う場面。と同時に、この作品は実はけっこうな「おじさん向け」な作品ということがわかる。
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マリオ兄弟が登場するCMが開けて、ようやくの本編。テレビの周囲に飾られている写真を見ると……。
ボクシングの写真は1984年の『パンチアウト!』。1987年にファミコン移植された。2014年発売の『大乱闘スマッシュブラザーズ for Nintendo 3DS / Wii U』において『パンチアウト』主人公リトルマックが参戦している。
野原や鳥のようなものが描かれているが、これは1984年発売の『ダックハント』。光線銃を利用した、当時としては画期的な作品だった。
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唐突に声をかけてくる謎の人物。演じているのは偉大なるチャールズ・マーティネー。『マリオ64』以降、マリオ&ルイージの声を担当した。本作ではマリオは別の人が演じることになったので、チャールズ・マーティネーはオリジナルキャラクターであるジュゼッペを演じることになった。
ジュゼッペが遊んでいるゲームは1982年初代『ドンキーコング』。右側面に「ジャンプマン」と書かれているが、当時はまだ「マリオ」という名称はなく、「ジャンプマン」という名前で紹介されていた。
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マリオ&ルイージの上司だった人物。1984年アーケードで登場した『VS.レッキングクルー』、そのファミコン版である『レッキングクルー』において敵キャラクターとして登場していた。日本では「ブラッキー」という名前だったが、今回の映画で米国版の名前である「スパイク」に改められた。『スーパーマリオ』以前のマリオ&ルイージの登場作品でもある。
(『スーパーマリオブラザーズ』は1987年発売)
こんなふうに本編数分の解説を見てわかるように、これけっこうおじさん向け作品。こんなの、おじさんしかわからんし、おじさんしか喜ばん。40代以上のおっさんゲーマーしかわからんネタだらけ。一見するとファミリー層向けな雰囲気全開な本作だが、本当のターゲットは「おじさん」だったりする。
さあ続きを見ていこう。
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独立してからの初仕事が舞い込んだ! 仕事場へ駆けていく最中、ゲームふうのサイドビュー画面に入っていく。
ここで感心なのが建物のスケールがキャラクターに合わせてデフォルメが入っていること。現実世界が舞台だが、リアルスケールではない。ここが『ソニック・ザ・ムービー』とは違うところで、『ソニック』は実写撮影にCG合成だから、どうしても埋め切れない「リアリティの差異」が存在していた。実写人物とCGキャラクターはどうやってもスケール・質感が合わない。『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は本質的には『ソニック・ザ・ムービー』と一緒なのだけれど、違うところといえばここ。現実世界をCGで作ったかどうか。
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ここでフレーム上にジャンプしたマリオが「ホッホウ!」と“何か”をやったらしく、若干滞空時間が延びている。何かを踏んだか、それとも“スピンアクション”をやったか……。写実主義を重んじる映画の世界では“ふさわしくない、“ゲーム的なアクション”をやったのだと思われる。こういうのも気付く人だけが喜ぶ場面。
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金網をジャンプで抜けたマリオが、側にあった看板に飛びついて降りてくる。降りるときの音が、ゲームをクリアしたときの音になっている。さらに近くにある「キャッスル・バーガー」の建物が初代『スーパーマリオブラザーズ』に出てくる砦そっくりに作られている。
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水漏れしているパイプ。これもマリオシリーズではお馴染みのギミックと似た形。
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依頼主の家にやってくるのだが、そこで犬に襲われる。この犬……ひょっとして『ルイージマンション』シリーズに出てくるオバケ犬だろうか? フォルムはよく似ている。
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マリオのお父さん。『ゼルダの伝説 時のオカリナ』に登場の、ロンロン牧場を経営するタロンに限りなく似ている。が、別人の設定。
マリオ一家はイタリア系移民ふうに描かれていて、直接の家族だけではなく親戚たちとも同居している。
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マリオの部屋。遊んでいるゲームはもちろん『パルテナの鏡』。奥に貼られているポスターは1986年ディスクシステムで発売した『プロレス』に登場したキャラクターである、スターマンとジ・アマゾン。
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ルイージの頭に隠れているところに貼られているポスターは1985年『アイスクライマー』。 その左隣が1983年『ベースボール』。任天堂最初期の作品だ。右隣のポスターが1990年の『F-ZERO』。
年代物のラジカセが置かれているが、貼られているポスターがことごとく80-90年代なので、この時代観に合わせたものになっている。
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ニュース番組に出てきた市長はご存じ『マリオオデッセイ』に登場のポリーン。ポリーンの初登場は『ドンキーコング』で、この頃はヒロインだった。テレビの上に置かれているフィギュアは『スターフォックス』のアーウィン。
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ブルックリンの地下に入っていく。背景に「LEVEL1-2」と書かれている。初代『スーパーマリオブラザーズ』のステージ1-2といえば地下ステージ。音楽も地下ステージのものになっている。
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キノコ王国にやってきて、最初の案内人となるキノピオ。限りなく“隊長”の雰囲気が出ているが、キノピオだ。
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キノコ王国のるアンティークショップ。置かれている商品はどれも『スーパーマリオ』シリーズに出てくるアイテムになっている。じっくり見てみよう。
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なにげなく通り過ぎる砂漠ステージ。2017年の『マリオオデッセイ』にそっくりなステージがあった。
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マリオが手にしているリンゴは1990年『スーパーマリオワールド(4作目)』に登場。川の向こうで、ヨッシーの群体が通り過ぎていく。
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一方、ダークランドに落ちるルイージ。風景は2001年『ルイージマンション』をベースにしている。
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檻の中に閉じ込められている星型のキャラクター。2007年『マリオギャラクシー』に登場のチコちゃん(『叱られる』のチコちゃんではない)。どうして今回はあんなねじ曲がった性格になっていたのか……?
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回想シーンに出てくるマリオ&ルイージは、1995年『ヨッシーアイランド』に登場するベビィマリオ&ベビィルイージが元ネタになっている。
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観客席にいるのは1994年の『スーパードンキーコング』以降に登場のディディーコング&ディクシーコングの2人。
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ここから『マリオカート』が始まる。ドラムを回してカスタムするのは『マリオカート7』の方式。
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キノピオはやたらと巨大なカートに乗ってくる。選択としては正しい。軽量級はちょっとした接触で弾かれちゃうので、マシンを重めにするとバランスが取りやすくなる。
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結婚式の場面。クッパの衣装はもちろん『マリオオデッセイ』が元ネタ。やたらとでかいボム兵は1996年『スーパーマリオ64』に登場のボムキング。巨大なテレサも同じく『マリオ64』に登場ボステレサ(おやかたテレサ)。ここに出てくるテレサは照れ屋ではないようだ。
ざっと見てきたが、本作ではこんなふうに数分おき、あるいは数秒おきにゲームネタが登場してくる。これがものすごい物量で、「あっ!」と思っている間に通り過ぎていくものも多い。
ではどうしてこんなふうに大量にネタが仕込まれたか……それは後ほど触れよう。その前に、この作品の問題点を挙げていこう。
ツッコミどころ
ここからは、「これ、どうなの?」というところを挙げていきましょう。
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まず「スーパースター」が出てくる意味。クッパがスーパースターを略奪した理由は、ピーチの関心を引くため……となっているが、その意義を果たしていない。ピーチにスーパースターを見せても「それが何か?」という反応。
クッパはピーチ姫を手に入れるために、スーパースターを略奪した……まずこのプロットが噛み合っていない。
じゃあスーパースターがこの作品全体においてどんな効果をもたらしたのか……というと映画の終盤、マリオ&ルイージがスターを獲得して無敵になるところだけ。最終的にマリオ&ルイージを勝たせるためだけに用意した……その程度のアイテムでしかない。映画を完結させるために用意した、いかにも段取り的なものが見え透いてしまってよくない。
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逆に良かったところは、映画の前半、マリオは「キノコ嫌い」という設定にしたこと。キノコが嫌いなのに、キノコだらけの世界に行ってしまう。力を得るためにキノコを食べなければならない。自身の苦手意識を克服し、最終的に自己実現を達成する。この組み立てはうまく機能している。
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ブルックリンが水没! さっそく現場に駆けつけるマリオ&ルイージだが……解決していない! 最初のシーンからなにも成し得ておらず、そのまま異世界に行ってしまう。これがどうも引っかかる。
異世界での旅を終えて、その後現実世界に戻ったときに、未解決だった困難が達成されている……というお話しなら問題ない。なぜなら、この場面はマリオ&ルイージに課せられた最初の“課題”だったからだ。しかしこの課題も投げっぱなし。
この映画の中ではマリオ&ルイージは配管工という設定だが、よくよく考えたら、キノコ王国にやってきたから配管工という設定は全く活かされていない。現実での失敗を取り戻すような描写すらない。設定と物語が乖離しちゃっている。
この映画において、マリオはなにもかも中途半端、何も達成できていない若者……という評判があり、その評判を覆したいと思っている若者の話……で始まっている。でもその物語も達成したのか達成されていないのか、曖昧になっている。
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緑の土管に吸い込まれたその向こうは……これは異世界とこちらの世界の間のような空間。『ドラえもん』でいうと、タイムマシーンで移動する時の場所みたいなところ。これで映画の制作スタッフが『マリオ』の世界をどう解釈したかがわかる。キノコ王国を『ピーターパンの冒険』におけるネバーランドみたいな世界だと解釈したのだ。
というのも、『マリオ』の世界観は明らかに現実と異なる。最近『スーパーマリオブラザーズワンダー』というゲームが出たが、この作品では「マリオの世界観ってもっとシュールなものだったはず」というところがあえて強調される。『マリオ』は登場から40年が経ち、「なんだか不思議で面白い世界観」だったはずなのに、なんとなく当たり前に感じられるようになっていた。だからこそ、あえて思い切って「変な世界」として描かれた。『マリオ』の世界観は「変」な世界観だったはずだ。
そういう世界観をどう捉えるか。どうやって観客を引き込むか。そこで「マリオの世界は、こちらとはっきりと違う、異世界です」という解釈を示した。
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この解釈が面白い理由は、『マリオオデッセイ』の世界観の中に、ニューヨークっぽい世界観があること。こちらの世界観では、マリオはニューヨークっぽい風景と馴染んでいない。マリオが「異世界の住人」だと解釈して、もしもニューヨーク風の世界に行ったら、このようになる。マリオはこの世界における「異人」という状態になる。
しかしマリオがニューヨークのブルックリンの住人という解釈で「キノコ王国」という異世界に行ったら……が映画の解釈。
この解釈の差異がゲームと映画、うまく棲み分けたポイントだと感じられる。
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異世界だから、ブロックが浮かんでいる……条理に反した現象が起きてても、「妖精の世界ですから」で説明される。
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ではその異世界の住人たるこのキノコ人間はなんなのか……。
その前に、この場面のツッコミどころ。私はだいぶ前に、ブログの中で「キノコ王国は金が採掘できるのではないか?」という考えを書いた。「どこに金が?」と思われるかも知れないが、『スーパーマリオブラザーズ』を改めて見ると、そこら中に金のコインが転がっている。金採掘で潤っているから、住民は働かなくてもよい。
(ただし、この金は非常に軽い。『ルイージマンション』で掃除機で簡単に吸えるし、転がりかたも軽い。金箔を貼っているだけかとも推測される)
とにかく大量に金のコインが余っている状態だから、国の中でこうやってストックされている。ある種の「ベーシックインカム」状態だ。ただし、それを取り出すときには「ちょっと苦労しましょう」という不思議な価値観を持っている。ブロックを叩かないとコインが取り出せないわけだが、この体力が尽きたら、それ以上取るのはやめましょう……という感じだろうか。
金が大量に採掘できる……ということはクッパの目的の第1はピーチ姫というより、金の採掘権ではないか? それが私が考えた、クッパがやたらとピーチ姫を誘拐する理由(そもそも「カメの化け物」と人間との結婚……こんなの真面目に考えるとおかしいだろ)。第2の理由は……それは昔書いた記事を読んでもらいましょう。
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ピーチ姫の登場シーン。ピーチ城では、玉座が1つしかない。ピーチ城がはっきり登場したのは『スーパーマリオ64』からで、その頃から城の玉座は1つしか出てきていない。
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キノコ王国の中には8つの王国があり、その王国にはそれぞれ王がいる……ということが過去に描かれている。
私の考えでは、彼らは「婿」候補。おそらくは、その時になると婿を城に招く……という形の「通い婚」なのだろう。ただ、ピーチ城の中には玉座は1つだけだし、寝室もおそらく用意されていないので、「やることをやったら帰ってね」というスタンスらしい。
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問題なのがこちらの場面。
ピーチ姫が「コング王国と交渉に行ってきます!」と宣言して謁見の間を出て行くのだが……誰もついて行かない。おい、護衛はどうした? 誰か姫を守れよ。というか、ドレス姿のまま出て行くんじゃない、着替えなさい!
一方のコング王国では、王の出陣の時に、コング族の戦士達が大量についていった。本来、あちらの描写が正しいはず。
ではなぜキノピオたちがついていかなかったのか?
私の解釈では……キノピオたちは“人間”ではなく、もしかしたら“妖精”の種族なのではないか。人間だったらいざとなったら戦うこともできる。しかしキノピオたちは妖精で、妖精としての役割は“キノコ王国の住人”という機能しか持っていない。キノピオたちは街の住人らしい役割を演じているだけ、城の中で姫の臣下という役割を演じているだけ。そういう役割しか持っていないから、国の一大事が来たときに、それに対応した行動ができない。
ブロックが宙に浮かんでいるような世界観だが、それは“そういう機能を持っているということにしている”から。でもそういう約束事に反した行動をすると、この世界観が破綻する。
そもそも、本作ではキノコ王国は「異世界である」と解釈されているので、その異世界の住人が妖精だったとしても無理矢理な解釈ではないはず。
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最初に映画を見たとき、引っかかったのはここ。ピーチ姫は「気付いたらキノコ王国にやってきていた」その以前の記憶はない……と語る場面。
ん? じゃあ誰がピーチ城を造った? だれがピーチのドレスを作った? キノコ王国の歴史や制度はどうやって作られた?
でもこれも解釈の仕方次第であって、ピーチ姫の記憶ではこうだけど、実際にはキノピオ達が人間界から生まればかりの子供を「召喚した」のであれば? キノコ王国の歴史を続けさせるために、人間界から子供を連れてきたのであれば、このあたりの設定は問題ない。(もしかしたら「歴史」なども存在しないのかも知れない。なぜなら「異世界」だからだ)
もしかすると、キノピオたちは「キノコ王国の国民」という役割以上の行動ができないから、カタストロフ対策として人間を召喚しているのかも知れない。
そうするとキノコ王国内にある8つの王国の王が「婿」である……という推測も誤りということになる。女王に子供を作らせているのではなく、毎回、外の世界から女王を召喚しているとしたら……そういう解釈にもとに作られているのかも知れない。
といっても、ここが異世界で、妖精世界だとした場合、歴史だとかそういうものはあまり意味をなさないのだが。(なにしろ『マリオ』登場以来、こちら側では40年以上の年月が過ぎているのに、『マリオ』の世界観では誰一人年を取ってない)
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一番の問題だ……と私が感じているのは、そのピーチ姫の描写。まず立ち姿からしてエレガントではない。これがピーチ“姫”? どこに姫としての品位があるというのか?
動いて喋り始めると、もうただの田舎娘。アニメーションで“お姫様”が表現されていない。その辺のアニメに出てくる女の子キャラクターとなんら変わりがない。これはもう、アニメーターに「表現力がない」というレベル。アニメーションの腕前はよくても、表現力がない。
時々ピーチ姫が可愛く見える場面もあるが、それはもともとのキャラクターデザインが可愛いというだけ。「止め絵はかっこよく/可愛く描けるけど動画の表現ができない」という感じになっている。
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この顔やめい!
どの場面を見ても、“姫”らしいと感じる表情が出てこない。
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アクションの描写も下手くそ。“ただのアクション”でしかない。キャラクターが表現されてない。あのアクションシーンの骨部分を引っこ抜いて、別のキャラクターに当てても成立しちゃうような動きだ(「スカートを掴む」という仕草をなしにすれば、キャラクターをワリオにしても成立する)。「ピーチ姫だから、この動きじゃないとダメ」という感じがない。
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この作品に関するレビューをざっと読んだけど、ピーチ姫の振る舞いに関する指摘をする人を見つけることができなかった。むしろ逆で、アクティブなピーチ姫を「従来のステレオタイプな女性像から解放された」と称賛する意見が出てくる。
ということは、現代の評論家は人間に品格や品位は必要ない……と。その辺のどうでもいいキャラクターと動きや振る舞いが一緒でもよい……と。上流階級出身のキャラクターと、田舎娘と一緒でもよい……と。
「女性らしさ」云々という以前に、王や姫という立場で生まれた人間の振る舞い方が表現されていない(女性らしさも表現できていない)。そこに突っ込む人が誰もいないとはどういうことだ。アニメーションの良し悪しを誰も指摘できないとはどういうことか。
残念なことにこの田舎娘と区別付かないような野蛮なスタイルが公式にすらなろうとしている。2024年3月発売の『プリンセスピーチ ショータイム!』は、「戦うピーチ」がゲームのメインテーマになってしまった。
ピーチ姫が戦う……ということ自体は問題ではない。『スマブラ』でも戦っていた。そうではなく、品格やエレガントさの表現は維持できているのか? この映画で描かれたような、そのへんの田舎娘と中身が変わらない……そんな描写だったら、もはや姫でもなんでもない。王冠は外したほうがよい。「従来のステレオタイプの女性像」から解放されたかもしれないが、「美意識」は喪われている。動き方がただの田舎娘の描写と変わらないことに誰も指摘できない、というのは批評家からも美意識が喪われているということだ。
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ピーチ姫はおそらく人間界から召喚された。いったいどうやって教育されたかわからないが、なぜか本作のピーチ姫は貴族としての義務「ノブレス・オブリージュ」を持っている。私には田舎娘にしか見えないのだが、なぜか脅威に対し、無条件で「国民を守る!」という意思を持っている。これがなぜなのかわからない。
なんだかピーチ姫というキャラクターがちぐはぐしているように感じられる。理屈はないが、ピーチ姫はそういうキャラクターだから国を守る……というくらいの話にしか見えない。
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ピーチ姫が自らの力で戦うキャラクターになってしまった……するとマリオは何をモチベーションにキノコ王国の危機のために戦うのか? その理由付けのために、ルイージが捕まることになってしまった。
まあ、これはルイージだからいいや。
ただ引っかかるのは、マリオはなぜそこまでルイージに執着するのか? そこに動機付けされていない。兄弟だから……では理由が薄い。兄弟でも仲が悪い、という人たちは世の中に一杯いる。兄弟としての結束、結束が生まれた切っ掛け……それを示すエピソードがない。そこで終盤になってドラマが盛り上がらない。
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映画の後半戦に入り、コング軍団を引き連れてキノコ王国に帰還しよう……という場面。
しかしあっさりクッパ軍団に発見されて、襲撃を受けて、コング軍団壊滅となる……。じゃあここに至るまでの展開、いらなかったじゃないか。物語の積み上げがない。コング軍団を引き連れて、さらにそこからの展開を……そこを示されていない。
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レインボーロードでの戦いは、最終的にトゲ甲羅の攻撃によって終わる……。こんな大技ができるんだったら、別に巨大な車で追いかける必要すらなかったじゃないか。全員でトゲ甲羅になって特攻をかければよかった。
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コングとマリオは、樽ミサイルに乗ってキノコ王国を目指すが……弾道ミサイルでもないのに、なんでそんなに火薬が詰まってるんだよ。とりあえずマリオ&コングをキノコ王国に移動させるための、かなり無理矢理なシーン作りになっている。
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それまでクッパと対立していたピーチは、相棒キノピオがビリビリにやられて、あっさりと「結婚するわ」と受け入れてしまう。
この辺りも物語を都合のいい展開に持っていくための段取りにしか見えない。
この映画全体を通してもこの調子。ただ「その場面」があるだけで、物語としての有機的な連なりというものがぜんぜんない。どうしてその場面が必要なのか、どうしてそういう展開に至ったのか……そういう流れがない。その前のシーンを踏まえて、状況が変化していく……という感覚がない。どのシーンも、「そのシーン」だけで切り取ってYouTubeに出しても問題ないような作りになっている。つまり、その前後のストーリーなんて知らなくても別に問題にならない。知っていればより感動する……というわけでもない。
ドラマを展開していくための助走となる部分がないから、最終的に感動しない。脈絡のない「映えるシーン」が次々にあるだけ。すべてがちぐはぐ、シーンのつぎはぎのような映画だ。
ここが批評家から厳しく見られたところ。普通の映画として見た場合、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』はお世辞にもできがいいとはいえない。シナリオがぐちゃぐちゃ。登場人物達がそれぞれで抱えている課題を解決していない。本家『スーパーマリオブラザーズ』をよく知らない、愛着を持っていない人が見ると、「なんだこりゃ?」となる。
しかしその逆で、子供時代から『マリオ』シリーズにどっぷり浸かったおっさんがこの映画を見るとどう感じるのか? ここからが次のお話し。
まとめ それでも感動できてしまう映画
じゃあ、率直な感想として、この映画、面白いのか、つまらないのか、へこまかしいのか?
そう尋ねられると面白かった。はじまって数秒ですでに面白い。ずっと楽しい。どこのシーンを見ていても「面白い! 面白い!」という感覚だった。
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というのも、私も初代『スーパーマリオブラザーズ』に始まって、ほぼ最新作までずっと『マリオ』シリーズと付き合ってきた。私の人生、よくよく考えてみれば、ほとんど『マリオ』シリーズとともにあった……というくらい。私は現実世界に幼なじみなるものはいないが、ある意味、マリオが私の幼馴染みだと言える(もう一人の幼馴染みは孫悟空)。私はそう認識している。こういう私がこの映画を見ると、背景に描かれているちょっとしたものでも「あ、あれだ!」と気付いてしまう。ネタを探してしまう。これが楽しくて仕方がない。
それに、やはり「人生をともにして来た」といっても言い過ぎではないマリオが映画になってスクリーンの中にいる……その姿を見ただけでなにか感極まったものがこみ上げてしまう。
私の個人史と関わりあるものが映画の世界で描かれているから、見ていて楽しくてしょうがない。どこか他人のように思えない、私の人生の一部が映画になったかのような感動を感じてしまった。
映画としての作りはちぐはぐとしている。レインボーロードが出てくるシーンなんかは、本当に脈絡もない。ただそういうシーンを入れたかっただけだろ……という感じ。だが今までゲームを通して見てきた色んなシーンが、スクリーンの中で豪奢に描かれているのを見て、それだけで気分が上がってしまう。
私のようにマリオと人生を歩んできた……という人たちが、いま世界中に何百万人、何千万人といる。なにしろ初代『スーパーマリオブラザーズ』は世界でもっとも売れたゲームタイトルだ。最近はバーチャルコンソールになって繰り返しプレイされているから、「マリオを体験した人々」はいったい何人規模になるのか想像も付かない(1億人は越えているでしょう)。そういう人たちがこの映画を見ると、もれなく感動できてしまう。
それがこの映画が「批評家レビュー」と「一般観客レビュー」が極端に乖離した理由。冷静になって映画を見ると、作りが滅茶苦茶。キャラクターの成長が描けてないのに、なんとなく解決した……みたいな作りになっている。
私だって、この作品が決して出来がいいとは思ってない。でも見ていると感動してしまう。私の中に、「批評家」としての私と、「マリオと人生をともにした私」の2人がいて、奇妙に乖離した気持ちでこの作品を見てしまう。
出来は悪い! でも最高に愛おしい!
……どっちに本音を置くべきか迷ってしまう。
この映画が批評家と一般観客での評価が乖離するもう一つの理由は、「物語の厚み」というものに対する考え方も違うから。
普通の映画の場合、その物語の中にどれだけ歴史的・文化的背景を盛り込めるか。それが作品の説得力や“厚み”というものになっていく。
この作品の場合、そういうものが一切ない。というか題材が『スーパーマリオブラザーズ』で、舞台が「キノコ王国」というなんだかわからない世界観。そこに文化的厚み……なんて存在しない。ただ“その場所”があるだけの状態だ。
でも私のようなマリオと人生をともにして来た人が見ると、表面的に描かれている描写以上の世界観を感じ取ってしまう。なぜなのかというと、“小ネタ”が全部わかるから。小ネタがわかる人は、そこから色んなものを感じ取ってしまう。ものすごく情報量があるように感じ取ってしまう。
私は少し前に『シン・仮面ライダー』と『シン・ウルトラマン』の2作を見ていて、あまり楽しめなかった。どうしてわざわざ「テレビ特撮」ふうのチープな演出を入れ込むのだろうか……私にはあれが「余計なもの」に感じられていた。ところが特撮ドラマを人生をかけて見ていた人々が『シン・仮面ライダー』を見ると感動するらしいんだ。「わかってくれてる」って感じになって。
たぶんその時の感慨だ。私はゲームばっかりやってきて人生だったから、この映画を見て感動してしまう。
ここまでをまとめると、
映画としての出来ははっきり悪い!
しかしマリオとともに歩んできた人々が見ると感動する!
――というのがこの映画。
でも本音を言うと、映画としての出来が良く、さらにマリオ愛も感じられる作品だったらより良かったんだけどね。
あとピーチ姫のアニメーションをどうにかしてくれ。あの動き方だけは許せない。
つづき
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