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とらぶた自習室 (19) 勉強メモ 野口良平『幕末的思考』第3部「内戦」第1章-1~4 ①伊藤博文

野口良平『幕末的思考』みすず書房
第3部「公私」
第1章「再び見いだされた感覚──第三のミッシングリンク」-1~4 ①伊藤博文


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(筆)栗林佐知
2023年7月21日のメモ

明治10年代のはじめ。 西郷隆盛が西南の役で敗死。
つづいて木戸孝允が病死し、大久保が暗殺され、「明治の三傑」が一度に消えてしまう。
日本列島はいまだ混乱の中。
この後を継いだ次世代政局担当者たちはどうしたか。

この章では、大久保の跡継ぎ、①伊藤博文の大車輪の仕事を追い、
また、この政府のやり方に対して、思想家たちはどう対抗したか、
②中江兆民③福沢諭吉の格闘をたどる。

1章まるごとサクッとまとめたかったのですが、どうしても面白かったことをちまちま書きたくなってしまうので、①②③を分けて書きます。
いつもながら、私の学習したところをメモしているものなので、理解を間違ってるところもいっぱいと思います。 ぜひ、一緒に読んでくれる方があるとうれしいです~~!!

① 伊藤博文の工学


著者は、伊藤博文やそのブレーンである井上毅の仕事を「工学」とよぶ。
どんな世を作るべきか、そのためにどのような根拠でどんなルールが必要なのか、という精神の働き・思想とは別物だからだ。
伊藤の考えは、方法というか手段というか作戦だ。
こんな伊藤博文のことを、熱意を込めて描く物語作家はあまりいないと思う。

おもしろいのは、精神史を辿る著者が、伊藤の仕事の結末を批判してはいるのだが、着実な実務家であった彼の仕事を、まるで側で見ている親友のように細やかに追っていることだ。

この節を読んでいて、 NHK大河ドラマ「花神」(1977年)で、長州の志士たちが外国大使館に忍び込んで、みんなは放火してぱーっと逃げちゃうのに、尾藤イサオの伊藤俊輔だけが戻って、ちゃんと火がついたかどうか確かめて(放火なんだけど)ふーふーしてから逃げる……シーンを思い出してしまった。 ナレーションで「師の松陰が、俊介は理屈はダメだが、細かいことをきちんとする性格だ、といっていた」というようなことが語られてたように記憶している(うろおぼえなんですけど)。
うん、こういう人はいてくれないと困る。

***

伊藤は、「一刻も早く日本列島の混乱をまとめ、欧米列強国から一人前の国家と認められる国を作らなくては」と痛切に考えていた。
しかし、明治新政府から排除された側の人々は、三傑のことも伊藤たちのことも、認めていない。 そういう人たちが主力メンバーである民権運動は、もはや弾圧するだけでは静まらないし、憲法や国会がないのは近代国家としてまずい。

こんななかで、早く、確実に、目的を遂げるためにはどうすればいいか。

伊藤は、「いまの国民には、こういう高度な法律作りは無理!」 と判断し、とりあえず急いでエリートだけでやってしまおうと考えた。
エリートだけで憲法を作成してしまい、それを「天皇の名でもって、人民に上から授け与える」というやり方だ。
伊藤は、自ら3度目のヨーロッパ留学を果たして、プロイセンの憲法作りを習得する(すごいねー)。
そして、「イギリス流の立憲君主制を見習おう」という大隈重信を「政変」で追い落とし、どんどん仕事を進める。

もう一つ、ヒミツ憲法作りと並行して、伊藤たちの進めたのが、「市民宗教」を国民に浸透させること。
欧米でキリスト教信仰がいかに人々の頭と心を統制しているかに、彼らは目を見張っていた。
(アメリカとかの裁判で、裁判とかいう「法」や「制度」の場なのに、聖書に手を当てて宣誓する場面とかニュースで見ると、ちょっとびっくりしませんか?)
日本の市民宗教の神様(誰でもいちおう納得して敬ってくれそうな相手)は「天皇」だ。これを、教育の力を使って、子供の頃から「あたりまえのこと」として教え込むのだ。

そういうわけで、欽定憲法からまもなく「教育勅語」が発布される。どんな国民に育ってほしいか、「天皇の大事なお言葉」をしろしめし、全国の学校に天皇の真影を配る。

この伊藤たちのやり方を、著者は、思想家、久野収が中世の仏教体制になぞらえて呼んだ「顕密体制」という名で呼んでいる。
【密】「本当のことを知って政治をちゃんと仕切る一部エリート」と
【顕】「国民意識をもって、天皇のくれた法律に従う一般国民」
ってことかな?(ちょっと違うかな)

で結局、この「いまは急ぐから」と伊藤たちがとった方法が、 いつのまにか「いまは」という条件が忘れられ、
「そりゃおかしいぜ! あんたらいったいなんで官軍になったんだ? おれたちゃ認めてないぜ」 と抵抗する声が、だんだんに聞こえなくなったことで、大日本帝国はとんでもない国家へと育ち、自国民のみならず、隣国、アジアの人々を地獄に突き落とす……のだ。

だが、伊藤はそこまで予想はしていなかっただろうと、著者は言う。

***

いっぽう、「これではおかしい!」と、「国」のあるべき姿を考えた人々もいた。
著者は、多くの同時代人に訴えかけた中江兆民『三酔人経綸問題』と、
晩年の福沢諭吉(死後に新聞掲載)による「瘠我慢の説」をたどる。
(つづく)

→ とらぶた自習室(20)野口良平『幕末的思考』第3部 第1章②

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