私信　神の子

あなたは
「美しい」と目を閉じて
山の佇（たたず）まいに同化した
そうして
しばらく膝を抱えて
長い呼吸を繰り返す

あなたは
楽園の中に居て
あなたの言葉の届かない
花や山の
あなたの思いが伝わらない
水や風の
そんな　
あなたの意思とは関係のない存在だけの
至福の境地を
漂うように揺れていた
 
それから
あなたは目を開けて
あなたの意思で選んだという
あなたの神に
選ばれし神の子として居住まいを正し
あなたの視界に映る
生きてあなたの神に意見し
生きてあなたに随わぬ
そんな人たちに
再びの闘いを挑み始める
 
意識ある人は
意志を以てあなたの神を選択し
あなたが語る
あなたの世界を
意志を以て支持するはず、と
あなたの核心は揺るがない
 
腐った竹の節が
オリハルコン※の短剣※※に見えるあなたは
神の子の在りようが
神の子の独善が
繋がることのない言葉のまま
止まらない
 
あなたは
あなたの神に
神の子としてあなたを捧げる
そんな
陶酔
 
 
※古代ギリシア・ローマ世界の文献に登場する、銅系の合金と考えられる金属（「Wikipedia」より）
※※手塚治『海のトリトン』（他）に登場