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帰宅部のエースで、エロの伝道師で、ランエボ乗り|「先輩の話」【ガムトーク第4回】

 ボードゲーム・カードゲームの『ガムトーク』から、今回の話は「先輩の話」となった。

 これは良テーマだ。学校、部活、会社、サークル。人は必ずどこかで先輩と関わりながら生きていくから誰でも話しやすい。良ことでも悪いことでも話題として成立するし、語り手自信が面白くなくとも先輩という他者に頼れば面白くなる可能性がある。

 さておき、「先輩の話」をしよう。

2日目に部活を辞めた竹之内くんの末路

 私の同級生の竹之内くんは、今思えば凄くカッコ良い奴だった。これは見た目の話ではない。彼の生き様についての話だ。

 竹之内くんは眼鏡をかけていて、ゲームやカードゲームが好きで今でいうオタクだったし、決してイケメンではなかった。身長は学年で2番目か3番目に高く存在感はあったものの、勉強も運動も人並みかそれ以下で、クラスの中心になるような人でもない。

 そんな竹之内くんは、中学1年の春に私と同じソフトテニス部に入部した。そして、部活動が始まって2日目に部活を辞めた。理由は「先輩に敬語を使いたくなかったから」。なんてカッコ良いんだろう。中学1年生にして、こんなことを堂々と言える人がどれくらいいるだろうか。
 私の中学校では部活に入るのが普通で、帰宅部はイケていないグループの中のさらにイケていないグループ、仏の蜘蛛の糸すら届かない地獄の釜の底に属している奴らだけだった。
 しかし、竹之内くんは違った。ソフトテニス部内では退部した2日目こそ彼の悪評について話題になったが、それ以降はまったく触れられることはなかった。むしろ彼は中学の3年間、クラスの仲間はおろかソフトテニス部の現役部員たちとも良好な関係を築いた。冴えない彼だが、漫画『ふたりエッチ』を所有していたため不良グループからも一目を置かれ、エロの伝道師として彼は人気者だった。
 もはや竹之内くんは帰宅部のエースだった。

 特に私の記憶に残っているのが、竹之内くんと女子の会話。竹之内くんは嫌われてこそなかったものの、イケてないし、エロ本を持っていることも周知されていた。それにもかかわらず、彼が女子から自慰行為のやり方を質問され、漫画の知識を元にサラっと説明するのを見たことがある。竹之内くんは童貞なのに。それはもはやエロ漫画のシチュエーションのようだった。

 竹之内くんと私は割と仲が良く、中学を卒業してからも交流をしていた。彼は高校を卒業して地元の車の工場だか整備工場だかに入社し、社会人になっていた。
 大学1年の夏、私は竹之内くんの家に原チャリで遊びに行ったとき、彼の家の庭には青い大きな車が停まっていた。話を聞くと、それは竹之内くんのランサーエボリューションという車だと言う。そう、社会人になりわずか4か月程度しか経っていない夏に、竹之内くんはスポーツカーを所有していたのだ。

画像引用元:TAMIYA SHOP ONLINE -タミヤ公式オンラインストア

 恐らくは親からの借金、勤め先関係の割引、ローンなど様々なものを駆使したのだろうが、それでも齢19にしてその行動力や情熱。私は尊敬の念を抱かずにはいられなかった。凄すぎる。
 あれ、でも竹之内君が車が好きだなんてちっとも聞いたことがなかったぞ。恐らく『頭文字D』か何かに影響されたのだと思ったが、そんなのはどうでも良かった。カッコ良すぎだぞ、竹之内くん。

 「先輩の話」ではなく「同級生の話」になっていた。失敬。

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