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「100分de名著 ナオミ・クライン ショック・ドクトリン 「惨事」を狙うのは誰か」堤未果

堤未果「100分de名著 ナオミ・クライン ショック・ドクトリン 「惨事」を狙うのは誰か」読了。

国際ジャーナリストの堤未果さんが、ナオミ・クライン著「ショック・ドクトリン 惨事便乗型資本主義の正体を暴く」を紹介する本。

日々のニュースを追っているだけでは、見えてこないものがある。

グローバル資本主義が助長する、「民営化」「規制緩和」「社会保障削減」の三大ドクトリンによって一部の企業だけが潤い、大多数の市民が搾取や差別、暴力の犠牲になっているこの構造を批判するクラインは、二〇〇五年にハリケーン・カトリーナの被災地を取材した時に、奇妙な違和感を感じたと言います。
きっかけは、地元共和党議員が、州議会に群がるロビイストたちに向けていった言葉でした。
「これでニューオーリンズの低所得者用公営住宅がきれいさっぱり一掃できた。われわれの力ではとうてい無理だった。これぞ神の御業だ。」

P14

危機に便乗して過激な新自由主義を強引にねじ込むこの戦略を、クラインは「ショック・ドクトリン」と名付けます。そしてそこから過去に遡り、フリードマンとその一派がこの手法を使って、いかに世界の多くの場所で、国家や国民の資産を略奪してきたか、事実を丹念に拾い上げながら、語られなかった”もう一つの歴史”を明るみに出したのでした。

P17

「ショック・ドクトリン」の生みの親のアメリカの経済学者ミルトン・フリードマンを信奉するシカゴ学派の弟子たちは、各国政府の中枢で影響力を発揮。

日本なら、いつもの竹中平蔵氏。

規制緩和を訴えながら、自分の関係する企業に利益を誘導するスタイル。

日本では、2011年の東日本大震災の後、総額三一兆円に上る復興予算が多重下請けで中抜きされ、宮城県では被災地の海が「水産特区」として民間企業に開放された。

宮城県の村井嘉浩知事は、「民間活力」こそが「創造的復興」の実現にとって最も大事だと力強く主張、フリードマンの価値観を忠実に代弁するこの主張は、海の民営化に関してこんな発言をしています。
「単なる復旧ではなく、集約、大規模化、株式会社化の1セットで水産業を根本から変えるのだ!」

…特区導入後、漁協を通さず漁業権を手に入れて牡蠣の養殖生産・加工・販売を行う企業に、自治体予算がたっぷり投入されましたが、蓋を開けてみると、決められた解禁日より早く出荷したり、他産地の牡蠣を流用し偽装販売をしたりと、あらゆる禁じ手を使い、地域のブランドを傷つけ、価値を貶めたのです。生産額が伸びず採算が取れないにもかかわらず、「復興」の名目でいつまでも税金が投入されるのも、9.11やイラク、ニューオーリンズと同じパターンでした。

P102

何が起きているのか、これから何が起きるのか、「知ってる」だけで世界の見え方が違う。

個人的には、ロシアのショック・ドクトリンが興味深かった。

エリツィン政権の閣僚が、公金をオリガルヒの銀行に移動させ、その銀行が競売にかけられた国営資産を競り落とし、株式の代金を預金された公金で支払う。国営企業を売る政治家とそれを買う大企業が、裏で手を組んでいるという図式でした。

ロシア国民は自らの国の略奪に、自分たちの血税を使われたのです。
…エリツィンの支持率が六%まで急落しても、元KGBのウラジーミル・プーチンが首相の座に就くまでは、国民の悲鳴が政府に届くことはありませんでした。

数少ない反エリツィンのオリガルヒの画策でプーチンが首相の座に就任すると、まずエリツィンが追い出され、その後最も裕福なオリガルヒが逮捕・投獄されました。… 

その後のロシアは、中国のようにアメリカのビジネス・パートナーにはならず、プーチンの登場で、振り子が大きく逆側に振れるように、一人独裁体制が続き、原油などで経済が盛り返す一方で、アメリカを始めとするシカゴ学派とは完全に敵対関係になったのでした。

P68

一読をおすすめ。

堤未果さんの本も、一貫して「日本の公共財産を狙う多国籍企業から、市民はいかに自分たちの財産を守るべきか」を訴えています。



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