【気になる八尾のあの工場vol.4】ラピスさん
*この記事は2023年7月31日に友安製作所のWEBメディア「トモヤスタイムズ」に掲載したものです
こんにちは!友安製作所、新米広報のCyan(シアン)です。
連載「気になる八尾のあの工場」のvol.4をお届けします。
友安製作所が拠点とする大阪府八尾市の、ものづくり企業の魅力を発信していくこの連載。
今回は、歯ブラシメーカーのラピスさんへお邪魔しました!
歯ブラシといえば、誰もが毎日使う必需品。
実は八尾市は日本でも有数の歯ブラシの生産地だとご存知ですか?
2005年には、八尾市の「歯ブラシ生産高 日本一」を記念して近鉄八尾駅前にモニュメントが建てられています。
八尾でのブラシ産業の起源は、明治時代に遡るといいます。まさに八尾の経済を支えてきた地場産業なのです。今でもたくさんのブラシメーカーがある八尾のまち。その中でも、ラピスさんは独自の製品開発で「予防歯科」という歯磨きのあり方を提案し続けている存在です。
そんなラピスさんについて、創業者で社長の乾真治さんにお話を聞かせていただきました!
ラピス 株式会社
医療に特化した歯ブラシやオーラルケア商品を開発・販売。歯科医の観点を大切にした商品づくりを強みとするほか、オリジナル歯ブラシの製造にも対応されています。
「守る」歯ブラシを
乾社長がラピスを創業したのは、2000年6月のこと。今年で23年目の会社さんです。
実はインタビュアーであるCyanも2000年6月生まれ。会社にとっての22年間はどんな時間だったのか、興味津々で取材に向かいました。
まずは、ラピスさんの成り立ちから伺っていきました。
乾社長にとって、もともと歯ブラシの製造は家業でした。お父様も、八尾で乾刷子工業という歯ブラシメーカーを営んでおられます。お父様の会社で働いたのちに、独立を決めた乾社長。
「歯ブラシ屋なのに、歯が悪かったらどうする」といわれて育ったため、幼いころから口腔ケアに対する意識があり、独立当時、「医療系に特化した歯ブラシ事業がしたい」という思いがあったそうです。
そんな中、アメリカやヨーロッパなどでは「予防歯科」という考え方が一般的になっており、先進的なオーラルケアが行われていることに感銘を受けたといいます。
日本でも「予防歯科」という考え方に基づいたセルフケアを浸透させたいという思いを持った乾社長は、独自の歯ブラシ開発のために「歯科」についての勉強から始めたそうです。
予防や治療についての知識を深めることはもちろん、実際に歯科医院の立ち上げにも関わり、2年間治療や経営について現場から学ばれました。その経験を生かして商品開発をスタート。
医療は年々発達していくものなので、知識のアップデートも常に必要です。乾社長はいつも歯医者さんとコミュニケーションをとりながら、「こんな歯ブラシがあったらいいのに」という声を聞き、その時に必要とされる歯ブラシを考え続けてきたそうです。
マネではなく、独自のものを
「ワンタフトブラシ」という歯ブラシをご存知でしょうか。歯医者さんによく行かれる方や、矯正治療の経験がある方には馴染み深いものかもしれません。
細いハンドルにとても小さなヘッドがついており、歯の隙間や、矯正器具の装着部など、細かい部分を磨くのに最適なワンタフトブラシ。
普通の歯ブラシでは届かない場所を磨くことができるので、磨き残しを防ぎ、自宅でもより効果的なケアを行うことができます。
誰でも簡単に使うことができますが、もともと市場には出回っておらず、歯医者さんで使用したり、指導を受けてその場で購入したりすることが一般的なアイテムでした。
そんな「ワンタフトブラシ=治療用」という常識を覆し、一般向けに販売するためのワンタフトブラシの開発に乗り出したのが乾社長だったのです。
毛のカット具合や、ヘッドやハンドルの角度など、歯医者さんの声を聞きながら試行錯誤を重ね、誰でも効果的なケアができるようなワンタフトブラシを完成させました。
その中でも、ラピスさん独自の技術によって生まれたのが、ワンタフトブラシ「レプトン」。筆状の毛先が特徴のワンタフトブラシです。
従来のワンタフトブラシのヘッドは、毛が円錐型にカットされているのに対し、「レプトン」では先の細い毛を筆状にまとめています。やわらかくコシのある毛先により、歯周ポケットや歯の隙間などを磨く際の歯茎への負担を軽減することができます。
この形状の植毛技術は難しく、筆状のワンタフトブラシを実現したのはラピスさんだけなのだそうです。
Amazonを活用してインターネット販売にも力を入れているラピスさん。ワンタフトブラシの啓発を並行して行うことで、今では自社の商品ランキングのトップ5に常に入っている程、人気商品となっています。
一部のドラックストアをはじめ、店舗でも取り扱われることが増えてきたそうです。
大手の歯ブラシメーカーも目をつけていなかったワンタフトブラシの一般向け販売。
これまでの会社の歩みを振り返ったとき、「ワンタフトブラシを諦めなくてよかった」という言葉が出てくるほど、乾社長の予防歯科への想いと苦労を物語る商品です。
地道な開発努力は、ワンタフトブラシだけではありません。
ラピスさんの強みである、とにかく早くて綺麗なプリントサービスも、プリンターの改良にまで関わりながら身につけた技術だそうです。オリジナルデザインの歯ブラシづくりや、社名や院名などの名入れ加工にも柔軟に対応されています。
日本で初めてのデジタルフルカラープリンターを導入し、製造会社と意見交換をしながらプリント技術を向上させ、歯医者さん向けに「今日頼んだら明日届く」というサービスを実現させたそうです。
乾社長にものづくりへのこだわりをお伺いすると、「マネではない、独自のものを」という言葉をいただきました。
形状を変えたり、組み合わせたり、自分たちの持てる技術で「まだ誰もやっていないこと」を追い求める姿勢こそ、創業当初から変わらないラピスさんのものづくり魂なのです。
環境おもいのエコ歯ブラシ
そんなラピスさんが近年特に力を入れているのが、環境にやさしいものづくり。
5年ほど前から会社としてエコに取り組もうという意識をもち、グリーンナノやバイオマス素材を導入されています。
グリーンナノとは、本来のプラスチックにわずかな量を加えるだけで、最終焼却処分時に発生するCO2を大幅に削減できます。
ラピスさんではグリーンナノを採用したことで、使用後の歯ブラシを燃焼処分した時に発生するCO2を約35%も削減させたといいます。
これも、大学で開発された技術を自社の製品開発に取り入れるところから始められました。
さらに、国産のバイオマスプラスチックを原料とした歯ブラシ「Eco Dent」の開発も行い、石油系プラスチックの使用料を削減することにも成功されています。
バイオマスプラスチックとは、自然由来の素材でつくられたプラスチックのこと。
「Eco Dent」の原料として使用されているのは、なんと、お米です!
非食用や過剰米など、いずれ捨てられてしまうお米からプラスチックをつくり、従来の原料と掛け合わせています。こちらは燃焼時のCO2を約20%削減しています。
これまで、バイオマスプラスチックを用いた歯ブラシには強度の問題があり、使い捨てを想定された商品しか出回っていなかったそうです。
しかしラピスさんでは、強度の問題をクリアし、毎日使うことのできる、歯医者さんの考えに基づいた機能的な歯ブラシの開発を実現しています。
SDGsへの関心の高まりもあり、サスティナブルな消費が重視されるようになった近年。「プラスチック資源循環促進法」の施行など、具体的な変化もみられるようになりました。
そんな中、プラスチックを原料としているばかりに、自分のつくっているものが「環境に悪影響を及ぼす、ゴミになるもの」として扱われるのではないか?という思いから、ラピスさんでは自社製品の95%をエコ素材に変更されています。
また、一般的な歯ブラシは、プラスチックの透明な箱に入っている印象がありますが、ラピスさんでは紙製パッケージも採用されています。
確かにクラフト紙でつくられたチャック付きの袋に入っている歯ブラシは初めてみましたが、とてもオシャレな印象を受けました!
歯ブラシを愛し、やさしいものづくりを追求されているラピスさんです。
ひとと、まちとの、助け合い
そのやさしさは、歯ブラシそのものに対してのみではありません。
「企業のユニークなポイント」を伺った際、乾社長がお話しくださったことは、社員のみなさんについてでした。
実は、22名の社員さんのうち、男性は社長とその息子さんの2名だけ。その他20名は子育て世代も含む女性スタッフさんたちです。子育てをしながらでも働きやすいように、「仕事の面ではそれぞれが助け合う」という文化が根付き、自然とそうなっていったのだといいます。
歯ブラシの製造にはいくつかの工程があり、機械も使用しますが、一人の従業員が色々な仕事を担えるようにしておくことで、いつでも助け合えるそうです。
「職人仕事」と呼ばれるような現場では、女性が永く活躍していくことが難しいとも言われますが、ラピスさんではチームワークを生かして、「仕事も家庭も大切に」と前向きにものづくりのお仕事をされている方がたくさんおられます。
そんなラピスさん、実はこの秋に新たな挑戦も予定されています。
それは、八尾市内で飲食店をオープンさせること。
乾社長ご自身も飲食店を営んだ経験はないそうですがご縁があり、挑戦を決めたといいます。
どんなお店になるのか、少しだけ教えていただくと、ちょっと変わった特徴が。金曜日からの週末は、素材にこだわった焼肉屋さん、それ以外の曜日は、地域の方向けに子ども食堂や高齢者食堂の開催を予定されているそうです。
「まちに貢献したい」という想いで、社員のみなさんはもちろん、学生や地域の人々とも協力しながら運営されるという、ラピスさんの新境地。
ここにもラピスさんの「助け合う」という精神が表れていると感じました。
乾社長は、これを機に自社の植毛技術を活かして、キッチンの清掃用など飲食業界で使えるブラシもつくっていきたいとおっしゃっていました。
八尾の繋がりでできること
環境、ひと、まちを大切に歩んで来られたラピスさん。
乾社長は「みせるばやお」や「商工会議所」など、地域企業の共創地点でも積極的に活動して来られた存在です。
そんな乾社長が、八尾のまちで好きなところは「地域の繋がりが強いこと」だそう。特に歯ブラシメーカー同士では、情報を交換したり、仕事が忙しければ助け合ったり、ライバルではなく仲間として繋がりあっているといいます。
かつては地場産業であっても「同業他社と仲良くする」という空気は全くなかったそうですが、既存の価値観に囚われない自分たちの時代のやり方として、それぞれの強みを生かして八尾の歯ブラシ産業を盛り上げられるように連携を図ってこられました。
「八尾はものづくりのまちとして発信できる場所。“みせるばやお”や、“商工会議所”で出会った人たちがみんな八尾を好きでいるからこそ、その想いを伝えることで、他の人にも好きになってもらえると思う」と乾社長は話してくださいました。
ラピスの青は、清潔の色
乾社長に「ラピス」という社名についてお伺いすると、「ラピスラズリ」という石の名前が由来であることを教えてくださいました。
ラピスラズリは、「健康」や「幸運」という意味を持つ青い宝石。清潔感のある色合いが、社名にふさわしいと考えたそうです。
ラピスのLをあしらった会社のロゴは、箱が開いている様子にも見えます。「箱の中から色んなものが飛び出してくるように」つまり、「たくさんの人たちにラピスさんの商品や想いが届いていくように」という願いが込められています。
そんなイメージ通り、唯一無二の歯ブラシを通して、人々にたくさんの想いを届けてきたラピスさん。
最後に今後の想いを伺いました。
これからも色んな商品を開発すると共に、特に「東南アジアへも良い歯ブラシを届けていきたい」と考えておられます。
予防歯科は世界共通で必要なものですが、まだ歯ブラシを使ったセルフケアを知らない国もあるといいます。実際に日本から歯科医が出向き、歯磨き指導を行うという取り組みも進んでいるそうです。
ラピスさんではそういった取り組みに寄付をしながら、まだ十分な歯磨きができていない遠い国の人々にも、良い歯ブラシを、ひいては「予防歯科」という文化を届けていきたいのだといいます。
おわりに
今回お邪魔したラピスさんは、環境にも、ひとにも、まちにも、とにかく「やさしいものづくり」をされているのが印象的でした。
色々とお話を伺い、そのやさしさは、乾社長や社員のみなさんのお人柄から自然と生まれてくるものなのだろうと感じています。
全てのひとの健康に関わる歯ブラシというアイテムを手がけるラピスさん。地道な開発努力の末に生まれた独自の商品から、「歯を守ろう」というメッセージを届けています。
お話を聞いていて、私も歯医者さんにお世話になることが少ない分、毎日のケアにあまり気を配れていなかったなと感じました。「ワンタフトブラシ」にも初めて出会ったので、この機会に自分のオーラルケアを見直してみようと思います!
乾社長、今回はたくさんお話を聞かせていただきありがとうございました!