下山はとにかく長い闘いだったのです。
(昨日の続き)
無事に登頂を済ませた我々一行は、登頂記念の写真撮影を済ませてから、山小屋で朝ご飯の豚汁を頂くことにした。厚着をしていても若干ひんやりとする空間の中で、横方向から差し込むキラキラとした太陽光の眩しさに目を細めながら食べる温かい豚汁は、登山疲れの体に温かく染みわたり、心を穏やかにしてくれる。
今回は到着がやや遅れてしまったこともあって、富士山頂付近のお鉢巡りは叶わず、このまま下山することになった。まぁ、それはそれで、また次回登る機会があったときに、理由ができてよかったのかもしれない。
下山に向けて、少しだけ着替えたり、改めて日焼け止めを塗ったり、サングラスや砂埃対策用の登山スパッツなどの備品を装備するなどの準備をした。
出発直前、このあまりにも美しい青空と、眼下に広がる鮮やかな白い雲を背景に写真を撮り、いよいよ出発だ。
富士山の下山道は登山道とは全く異なるコースで、砂埃がひどいとの噂だ。一体どんな道が待ち構えているのか興味もある中で進んでいった。
すると、早くもその噂の真意に気づいた。その路面は、砂利と砂が混ざったような比較的柔らかいもので、その上でかなり角度のある坂が先々までひたすらに続いていて、相変わらず人々の行列がその先に飲み込まれているようだった。
これは長い闘いになりそうだ。
最初は楽しみながら歩みを進める一行だったが、そのうちに会話も消え、バラバラに黙々と下っていくことになった。
午前8:00。下山開始から1時間程度が経った。いくら朝であるとはいえ、全く遮るもののない中で太陽光を受けることには、それなりに暑さによるダメージがある。
加えて、周辺の登山客の歩みと共に巻き起こされ、下から吹き上げる風によって後方の登山客に襲い掛かる砂埃もかなり厄介だ。自分の足元の登山靴と砂埃対策用のスパッツはもうほとんど砂の色に変わってしまったし、おそらく自分の鼻と口の中にも呼吸と共にたくさん取り込まれてしまっているだろう。
さらに下山に関しては、登山時と比べてほとんど景色が変わらないという特性も加わる。晴れた青空と眼下に広がる雲のコントラストは確かに美しいのだが、それが延々変わらないことを感じると、この下山道の果てしなさが思い起こされるのである。
それでも、歩を進めるしかない。とにかく止まらずに足を前に進めれば、必ずたどり着ける。それだけを頼りにして、黙々と進んだ。
午前10:00頃。約3時間ほどかかって、昨日出発した吉田ルート5合目まで戻ってきた。
長かった。でも、この2日間は、総じて楽しかったし、充実したものになったという実感がある。
それは、自分にとっての初めての体験があまりにもたくさん詰まっていたからだ。
こうした充実感は、やはり新しい体験をしなければ得られないものなのだ。
(完)