精神疾患と人間関係について
「精神疾患は人間関係の病である」という言葉がある。
過去に精神科医や心理臨床家が残した言葉の中の一つである。
先ずは、この言葉を前提として、いくつか考察をしてみたい。
「精神疾患は人間関係の病である」という見方は、全てを語ってはいないが、支持される考え方の一つだと考えられる。
肯定側
社会的な側面: 多くの精神疾患は社会的な相互作用や人間関係の問題から悪化することがある。例えば、社会不安障害は他者との交流が困難になるため、人間関係に直接的な影響を与える。
孤立と回復: 孤立感や社会的支援の欠如は、精神疾患の発症や悪化に関連している。一方で、良好な人間関係は回復の一助となる。
ストレス要因: 人間関係によるストレス(例えば、家族内の問題や職場での人間関係)は、精神疾患のトリガーとなることが多い。
反論
生物学的要素: 遺伝や脳内の化学物質の不均衡など、精神疾患には多くの生物学的要因が関与している。これらは人間関係とは直接関係なく発症することがあると考えられる。
個人差: 精神疾患の経験は人それぞれで、人間関係が主因であるとは限らない。例えば、統合失調症などは社会的要素よりも生物学的要素が強く影響することがあると考えられる。
多因子モデル: 精神疾患は生物学的、心理的、社会的要素が複雑に絡み合う結果と考えられている。これは、生物心理社会モデルとして、現代における問題把握の基本的な考え方となっている。人間関係という一側面、つまり社会要因などだけでは説明しきれないことがある。
ここまでのまとめ
精神疾患と人間関係との間には間違いなく相互作用があると考えられるが、「人間関係の病」として一括りにするのは、精神疾患の複雑さを理解する上では不十分だとも言える。人間関係は精神的健康に大きな影響を与えるが、精神疾患の原因や影響は多面的であり、生物学、心理学、社会学まで幅広い視点から考える必要がある。
この視点を理解するためには、精神疾患を持つ人々やその家族、専門家の意見や研究結果を幅広く参照することが重要である。また、各個人の経験や背景を尊重し、全人的(ホリスティック)な健康と幸福の文脈で考えることが求められるのではなかろうか。
では、ここまでのことを踏まえての、精神疾患が人間関係に及ぼす影響について以下で考えてみたい。
影響
コミュニケーションの困難: うつ病や不安障害などがあると、対話を始めたり維持したりすることが難しく感じることがある。
孤立感: 社交不安やパーソナリティ障害があると、他人と距離を置きたくなることが多いと考えられる。
誤解: 精神疾患の症状は、現状では誤解されることが多く、人間関係の緊張や断絶を招くことがある。
感情(気分)の不安定さ: 双極性障害や境界性パーソナリティ障害などでは、感情なり気分が急激に変わるため、周囲の人々が対応に困惑することがある。
対処方法
理解と教育: 精神疾患についての知識を広めることで、友人や家族を始めとして、社会が理解を深め、適切なサポートを提供することが可能になると考えられる。
オープンなコミュニケーション: 自身の状態についてオープンに話すことで、周囲の人々に理解を促すことができる。ただし、オープンに話す事自体が難しい場合が多い。
境界の設定: メンタルヘルスを守るために、必要な場合は、人間関係における境界を設定することも重要である。
専門的な支援: 精神科受診を軸にしつつ、セラピーやカウンセリングなどを受けることで、対人関係の対処方法について助言を得たり、学ぶことも大切であること。
サポートグループ: 同じような経験を持つ人々と交流すること(当事者会など)で、孤立感を軽減し、具体的なアドバイスを得ることができる。
精神疾患を持つ人やその周囲の人々にとって、人間関係は困難を伴うことが多いが、適切な知識とサポートによって、より良い関係を築くことは可能であると思う。
必要に応じて、専門家に相談することは重要であるが、社会全体として、問題を抱えている人は精神疾患者だけではないという視点も大切である。
理解と教育の必要性、またそれに基づく様々なコミュニケーションにより自分と他者を知ることが、より良い人間関係作りに資することに繋がるし、そのような相互作用が適切に働くことが肝要かと考える。