そこへ行ったことの意味をひとことでは言えない
生ビールジョッキのあとワインボトル2本。前の職場の先輩とふたりでしたたか吞んだ。
最近読んだアメリカのルポルタージュや小説の話、そのあとお互い観たばかりだった「ドライブマイカー」のどの辺が面白かったかなど映画話題で盛り上がった。昨年末に封切られたはずの「リスペクト」が先輩のイチオシ映画だというから、僕は「絶対観ますよ!」と言い切った。
そこそこに酔いは回っていた。
翌日。約束を反故にはしないぞと、さて「リスペクト」はどこでやってるのかなと調べたら、関東では「深谷シネマ」でしかやっていない。なんじゃ!
NPO的なところが運営する酒蔵を改装した映画館ということは知っていたけど、深谷はさいたま市の自宅から車で2時間かかる。
映画は配信で見ることが増え、出かけるにしても市内の決まった映画館。でも以前はいろいろな映画館に行った。とくにリバイバル専門館は上映作品の傾向にしっかりと特色があった。
あれはあそこで上映してそうだなっていうのがあった。
僕が一番映画に熱心だった80年代。映画と映画館はセットで憶えているのが多い。
父が初めて連れて行ってくれた洋画は、新宿プラザ劇場で見た「タワーリングインフェルノ」だった。
一人で出かけて、嗚咽するほどに泣けて最後まで見られず翌週また行った「エデンの東」の早稲田松竹。
銀座のテアトル東京は天井から床まで大スクリーン。最前列のリクライニングシートで見た「未知との遭遇」のインパクトは凄かった。
そうだ、中1のとき担任男教師が僕と友人2人を連れて行ってくれた「小さな恋のメロディ」は、上野の小さな劇場だった。今もうないし名前を忘れてしまった。
そんなことを思いつつふと、「深谷、行ってみるか」となった。
深谷市へは行ったことがない。
渋沢栄一、深谷ネギ、東京駅と同じ煉瓦。
イメージはいたって貧相だった。
週末の午後出かけた。
行きは国道17号線を延々と、帰りは、直売所のおばちゃんの言うとおり深谷ネギの香りを充満させて関越を飛ばし夜遅く帰ってきた。
道の駅の店内にたくさん並んだ渋沢栄一関連商品を目の当たりにして「NHKドラマ効果恐るべし」と思った。
「深谷シネマ」にはまた行きたい。でも遠い。
小旅行か。
大も小もないけど、行って初めて感じる、感じ入ることってあるしそれはそこに行かなければ決して得られない。
「星の王子さま」の名フレーズは飛躍しているけど、やっぱり”大切なものは目に見えない”だ。
で肝心の「リスペクト」。
オバマ大統領の就任式で唄った映像が記憶に残っている女性シンガー、アレサ・フランクリン。
彼女の話だということも知らずに観た。
良かった。だけどうまく説明できない。
ストーリーがどうのというより、レコーディングスタジオでの高まっていくグルーブ感やライブシーンに圧倒された。