ただの恋愛小説じゃない。
たとえば僕は、朝起きるとまずリビングの窓を開けて、何の変哲もない景色と狭い空を見上げて、空気の匂いを確かめる。その時感じたことをとくべつなことがない限り誰かに伝えることはないけど、そういったルーティンもその人の内面を積み上げていくサプリメントだと思う。
「すべて真夜中の恋人たち」
フリーランスで書籍の校閲を請け負う34歳の「わたし」の恋物語。恋の相手はひょんなことで言葉を交わすようになった58歳の「三束(みつつか)さん」。
仕事仲間の女性「聖」は人付き合いの苦手な「わたし」がふつうに話せる数少ない友人のひとり。
全編に渡って、細やかで美しい心情表現や情景描写で覆い尽くされている。
2か所を抜粋してみた。
読み終えた文庫本を復習するように、印象深い描写を何度も読み返した。
作家の圧倒的な才能を感じざるを得ない。