今また「江夏の21球」を…
1980年、雑誌Number創刊号に載った「江夏の21球」。
79年11月4日のプロ野球日本シリーズ近鉄対広島の第7戦は、3勝ずつで迎えた決戦。その9回裏4-3で1点を追う近鉄の”最後”の攻撃、広島のリリーフエース江夏豊が放った21球を1球1球、江夏と関わった人たちへの取材を通して描写した、新進ライター山際淳司によるノンフィクション。
これ以降、彼の短編は好きで読んだ。
そしてまた僕も含めて古くからのNumberファンは、速報的観戦記ではないスポーツの文に惹かれていたと思うし、その象徴がこの一編だった。
数十年ぶりにふと読みたくなって山際淳司の短編集「スローカーブを、もう一球」をAmazonで購入。2編目に収められている「江夏の21球」だけを3度繰り返して読んだ。
読み込むほどに、江夏豊、味方野手たち、近鉄のバッターたち、両チームの監督らの当時の想いの交錯が面白さを増す。
その日のうちに今度は、NHKが数年後に放映した1時間ドキュメンタリー番組の「江夏の21球」をYouTubeで見た。こちらは野村克也の解説がたまらない。
21球の間に生まれた数々のドラマは色褪せない。鬼籍に入った人がいるのは残念だけど、今また振り返ってインタビューができたらいいのに。
土壇場で目に入ったブルペンの動きに、「マウンドにグローブを叩きつけてベンチに帰りたい気持ちやった」と冷静を失った江夏。
そして彼を救った一塁手衣笠の行動。
スポーツのドラマが面白いのは、経験や技術を越えたヒューマニズムへの共感。
僕は、誰かにとっての一塁手衣笠になりたい。