「生きた知識」をつくる「足場かけ」 【今井むつみ著 親子で育てることば力と思考力】
「中学・高校の6年間かけて学んできた英語、だけどあまりできるようになった気がしない」
「生徒に漢字や計算の方法を教え込んでも、なかなか定着せず、応用がきくようにならない」
そんなこと、よくありませんか?
もしかしたらその英語の知識、外から教え込んだ漢字や計算の方法は、
「死んだ知識」になっているかもしれません。
今回は、人が学ぶときに必要な2つの力「ことば力」と「思考力」について、「人が学ぶ仕組み」と「実践へのアドバイス」が大変わかりやすく書かれた今井むつみ先生の「親子で育てる ことば力と思考力」をご紹介します。(アマゾンでは現在品切れのようです。楽天はあるみたいです。)
https://books.rakuten.co.jp/rb/16225948/
生きた知識と死んだ知識
「知識に生きている、死んでいるなんてあるのだろうか?」
そう思われるかもしれません。認知科学で使われる「生きた知識」、「死んだ知識」は下記のような意味で使われています。
暗記しただけの使えない断片的な知識を「死んだ知識」と呼びます。その逆に、必要なときにすぐに取り出せて使える知識、他の知識と組み合わせて新たな知識を生むことができる知識を「生きた知識」と呼びます。
(本文より引用、p.5)
石ころがたくさん詰まった袋を想像してみてください。それぞれがゴツゴツしてぎっしり詰まっていては、すぐに取り出すことができないはずです。
英単語や歴史的な事実をただ頭の中に暗記させるだけでは、この石袋と全くおなじ状況になってしまいます。もし、その石袋に価値のあるダイヤモンドが入っていたとしても一旦全てを出さないと取れないですよね?
その、石袋とは反対に、生きた知識の代表格は「母語(幼少期から自然に学ぶ言語)」です。
まずはみなさんが経験した「母語」の学びを思い出してみましょう!
「生きた知識:母語」を赤ちゃんはどう学ぶのか?
と、言っても皆さんにとっては、遥か昔のことで、思い出すことが難しいと思います。
赤ちゃんが母語を学ぶときの仕組みについてはぜひ、この本を読んでいただけたらと思いますが、その中でも最も重要なポイントは
「赤ちゃんは、母語を直接教えられるのではなく、自分から手がかりを探しては試しつづけ学んでいく。」
という事実です。
学生時代、認知心理学の講義で色々な実験とその成果について学びましたが、最も驚いたのは赤ちゃんが示した
「初めてみたものに、関係性を見つけて知っていることばをあてはめる力」
それは、「類推(アナロジー)の力」ともいいます。
赤ちゃんは関係性を見つけてことばを色々なものにあてはめ、お母さんやお父さんの反応を見たり、返答やことばを聞いたりする中で、ものとことば、もの同士、ことば同士の関係性を絶えず新しくつくりつづけてゆくのです。
こうして数少ないことばを起点にして更に多くのことばを学び、倍々ゲームでことばは増えていきます。つまり生きた知識を獲得していくわけです。
私たちにできることはどんなこと?
しかし、人は学ぶ力を生まれながらに持っているとはいえ、
「たった一人で学ぶことはできません」
先程の赤ちゃんの生きた知識の作り方にもあったように、お母さんやお父さん、周りの大人の反応や返答があることで「自ら学ぶ」ことができます。なので周囲の存在は必要不可欠。
だからといって、ゴロゴロと石ころのような事実をたくさん暗記させるような教え込みをしては死んだ知識になってしまいます。
では、私達はどうすればよいのでしょうか?
ここで今まで出てきた大人の関わりを図式化してみました。
左下の「放置放任」子どもが自分から学ぶ力があるとはいえ、放置していてはなんの反応も返答も得ることができず何も学ぶことはできません。
逆に右下の「過干渉、教え込み、誘導」。おんぶにだっこでいろいろ教え込んでしまっては、子どもの「学びたい」という自主性はだんだん失われていきます。また、ゴロゴロと石ころのような死んだ知識ばかり、誘導も親の思惑通りにいろいろさせられて、あるとき子どもは「自分で学んでいる」という自己効力感を失ってしまいます。
左下でも右下でもだめ。どんな関わりが大切なのかということにも認知科学はアドバイスをくれます。
それは「足場かけ」です。
「意図的な誘導」ではなく「意識的な足場かけ」を
本文には、下のように「足場かけ」について解説されています。
まわりの大人の役割は「教えること」ではなく「足場かけ」です。子どもが自分の持っている能力と知識を自分で育て、磨いていけるようにお手伝いするように心がける。これを意識するだけで、あなたの子どもへの接し方はきっと変わり、子どものことばの力も思考力もアップするはずです。
(本文より p.124)
足場かけはあくまで、子どもの自力の学びを手助けする、
むしろ、邪魔しないよう、赤ちゃんのことばの学び方で出てきた「アナロジー」のような推論が働くような場やひとときを子どもと共有することが重要です。
そして、実は上にある「意識する」ということもかなり重要です。
ちょっとこの本の内容とはずれてしまうかもしれませんが、よくある「意識的」ではなく「意図的」なパターンが上でも挙げた「誘導」です。習い事に行かせている親御さんのお話を聞くと、
「子どもがやりたい、と言ったからさせている」
ということばをよく耳にしたことがありました。
例えば、それが「受験塾」だったらいかかでしょうか?
親御さんは喜んで受験塾に活かせるかもしれません。かくいう私は、「仲のいい友達が塾に行っているから」というたったそれだけの理由で、小学5年生のときに、親に「塾に行きたい」といって、通うことになりました。
では、それが仮に「ビデオゲーム」だったらどうですか?
今となってはプロゲーマーが何億円も稼ぐ時代。プロ野球選手を目指すのは良くて、プロゲーマーを目指すのがだめなのは、フェアじゃないのでは、ないでしょうか。
つまり、「親がさせたいことは許し、させたくないことは許さない」そんな、意図的な誘導がよく起きるのを目にします。
大人にとって都合のいい方向へ、どんどん誘導してしまうことは、まさに「教え込むこと」と同じ、「引っ張り上げ」と言えるでしょう。
足場かけは、あくまで「子どもの自力の学びを支援すること」、もっというと「子どもの自力の学びを尊重すること」といえるかもしれません。
塾に行きたい、と言ったらどんな動機でそれを言ったのかを話してみるのがいいと思いますし、ビデオゲームをしたい、と言ったら頭ごなしに否定するのではなく、その裏にどんな考えがあるのか対話をすることで
「これからすることをどう決めるかを考える力」の足場かけになるのではないでしょうか。
発達認知心理学から実践に生かせるエッセンスがいっぱい詰まった本、小さいお子さんがいらっしゃるお父さん、お母さんに限らず、
子どもの学びに関わる教育関係者のみなさんは必読な一冊です!!
https://books.rakuten.co.jp/rb/16225948/
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