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この本のこと

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個人的に思い入れのある本、大切にしたい本、知人が書いた本や、私がちょっとだけ載ってる本などについて書いています。
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2023年2月の記事一覧

ラテン音楽と『彼岸過迄』

小さいころから本が好きでした。覚えているのは、地元の小学校の校庭に毎月1度だけやってくる「移動図書館」のこと。マイクロバスいっぱいに運ばれてきた本の中から、面白そうな絵本や児童文学を選ぶのが楽しかった思い出。 日本の昔話や、海外の童話など、いろいろ手当たり次第に借りては読んでました。五味太郎さんの絵本とか、好きだったなぁ。「ずっこけ三人組」シリーズもよく読んでた。 次第に小学校の図書館でも本を借りるようになり、名探偵ホームズシリーズがとても面白くて図書館にあるだけ全部読み

高等遊民が羨ましかった

ロサンゼルスの、陽気なラテン音楽が流れる週末のコインランドリーで、僕はよくこの本を読んでいた。夏目漱石先生の『彼岸過迄』。リトル東京のはずれにある古本屋さんでこの日焼けして茶色く変色した本を見つけ、1ドルで買ったもの。奥付には「定價百四拾圓」と書かれている。 大学を卒業して、僕はホームレスになった。仕事が見つからないまま、車で西海岸を移動しながら職探しの旅を続けていた。その状況は、「お前はこの社会に必要のない人間なのだ」と言われているようで辛かった。しかしもっと辛かったのは

英語を習得するきっかけとなった『英語基本語彙辞事典』

高校三年生も半ばを過ぎて「留学するぞ!」と決意した時、僕の英語力は悲しいくらい低かった。そもそも、高校の英語の授業が嫌いだった。英語でまともに会話をしたことなんてなかったし、そもそも外国人に知り合いなどいない。海外に一度も行ったことすらないのに、なぜか留学を決意してしまうとは……。 なんとなーく進学校へ進み、なんとなーく大学を目指していた高校時代。特にこれといって学びたいことがあるわけでもなく。学費が安いという理由だけで私立ではなく国公立を目指すように親から言われ、みんなが

人生で何度も読み返す『Flowers for Algernon』

久しぶりに散歩をしながら「Flowers for Algernon」のオーディオブックを聴いた。3年前に、Audibleで購入したもの。 一番最初に読んだのは、10代の頃。妹がこの本の日本語訳である『アルジャーノンに花束を』のハードカバーを持っていて、それを借りて読んだのだ。ストーリーに感動して、最後少し泣いた。 高校三年生で留学を決意して、英語の勉強にどっぷり浸かっている頃に、「なにか洋書を読んでみたいな」と思って選んだのが、この「Flowers for Algerno

博物館学とインターン

博物館が好きだ。 科学や歴史、地理、生物学、考古学などなど、ありとあらゆる学問のエッセンスが詰まった「人類の叡智」の象徴みたいな感じがして、ワクワクする。展示や標本を見たり、触れたりすることで、新しい発見があり、学びがある。興味あることに対して理解が深まっていくし、また同時に全く新しい扉が開くこともある。子どもの頃から好きだったが、大人になってもずっと楽しい。 きっかけは、小学生の頃。友人と一緒に、上野にある国立科学博物館を訪れた。まず、その収蔵品の多さに圧倒された。展示

落ち込んだ時に読んだ『人間失格』

ひとり遊びが得意な子どもが、時々とんでもない集中力を発揮するなんてことがある。休憩や休息なしで、ひたすら没頭し続ける。そういう、ある種常軌を逸した集中力を僕は大人になっても持ち続けていた。好きなものに対して、とことんのめり込んでいく感じ。 高校時代は、陸上と読書だった。留学を決意してからは英語に。そして、大学に入ってからはアートとスペイン語にのめり込んでいった。 ブレーキをかけることを忘れて時々突き進んでいると、たまにあっけなく限界を超えることがある。それは、肉体的、精神

陶芸の釉薬調合―660レシピと応用例

火(fire)と水(water)、土(earth)、そして空気(air)。昔の人は、この4つの要素が全ての物質を構成していると考えられていた。世界を形作るための4つの元素。現在は、元素周期表を見ると118個の元素が並んでいるけど、実際に我々の身の回りにあるのは80種類以上、90種類くらいであると言われている。そう考えると、たった4つの元素が世界のすべてを構築していると信じていた時代はなにか物足りないものに見えるかもしれないが。陶芸の世界ではわりとこの4つの要素が作品制作の全て