腎臓結石の予防と治療(『中華医薬』に学ぶ実際の症例2)
食が欧米化し、飽食に溺れる日本人にとって、結石はもはや他人事ではない。しかし残念ながら、 鸡内金や金钱草、海金沙など、結石を溶かすと言われているような漢方薬を使った治療は、未だ日本では一般的ではないようだ。そもそも中药(漢方薬)は中国が発祥で、長い伝統ゆえに独自のノウハウが日々積み上げられている。傷寒論だけを読んで胡坐をかいているような日本人などは、相当な遅れをとっていると言えるかもしれない。鍼灸も発祥は中国であるから、本場の中国針灸を知らない日本の鍼灸師は井の中の蛙と言えるかもしれないな、などと考えつつ、近頃は中华医药を観て自戒する日々である。
【Yさんの場合】
2014年10月、Yさんは突然、激しい腹痛と腰背部痛に襲われた。顔から血の気が失せるほどの痛みだった。彼女は今もその痛みが忘れられない。それは耐え難いほどの痛みで、痛み止めを飲んだが効かなかった。ベッドの上をのた打ち回るほどの痛みが何度も襲ってきた。座っていることも、立っていることも出来ず、ベッドの上を転げまわるしかなかった。その後、Yさんは家族によって病院へ担ぎ込まれた。医師は超音波検査をした後、結石であろうと言った。尿管結石であった。
【Zさんの場合】
上海の赵さんも結石で地獄を見た。夜、突然の痛みでベッドを転げまわらずにはいられず、頭が真っ白になった。腰全体が痛み、まるでドリルでギリギリされるような鋭い痛みだった。彼は痛みにはかなり強い方だったが、この痛みに耐えることは出来なかった。痛みだして5分ほど経過すると、全身が汗まみれになり、眼がチカチカしてきた。その後、病院で尿管結石と腎結石があると診断された。結石は8つあった。
【Cさんの場合】
程さんは婦人科医だ。彼女は結石の痛みを熟知している。「最も痛いことの1つは分娩、もう1つは結石です。女性であれば分娩の痛みは想像がつくでしょうが、結石の痛みは例え難いほどの激痛です。」とCさんは言った。結石の痛みはこの世で最も耐え難いほどの痛みである。Cさんは、真夜中に痛みで目が覚めた。痛みで眠れず、起き上がることも困難だった。便器にしがみついているか、床に這いつくばっているしかなかった。病院での検査の結果は腎結石で、左右の腎臓に大小15個の結石が見つかった。
【痛みによる鑑別】
腎結石は钝痛(鈍痛)だ。尿管結石は绞痛(キリキリと締め付けるような痛み)で、特に尿管の中にある結石が最も痛い。Cさんの場合は尿管結石だった。結石では顔面蒼白、床を転げまわる、悪心嘔吐、血尿などがみられる。血尿は肉眼血尿(肉眼で見える血尿)と镜下血尿(顕微鏡下で見える血尿)の2種類がある。膀胱結石の特徴的な症状は排尿中断で、結石が尿道を通過すると排尿出来るようになる。尿道結石の場合は頻尿、尿漏れ、排尿時痛などが起こる。
【結石に効く中药材(生薬)】
結石に効果が見られる生薬は主に3種ある。 鸡内金(*鶏の砂嚢の内壁を洗浄し乾燥させた漢方薬のこと、鸡肫皮とも言う)、金钱草、海金沙(*植物の熟した胞子)だ。古代中国では尿路結石のことを石淋(=沙淋)と呼び、これら3種の生薬が用いられていた。海金沙は通淋止痛の作用があり、結石の痛みを取り除く効果がある。
【海金沙を入れ忘れたケース】
結石を患うある患者は、医師から処方された中药(*漢方薬)を家族に煎じてもらい、毎日飲んでいたが、排尿時痛が酷かった。ある時、あまりの痛さに顔面蒼白になり、気絶してしまった。病院に運ばれると、家族が処方された中药を煎じる際、海金沙を入れ忘れていたということが判明した。手術などで細かく砕いた結石を痛みを伴わずに尿で排出させるためには、海金沙が有効である。
【鸡内金の効果】
古代中国の名医、张锡纯は 結石の治療によく鸡内金を用いた。そもそも彼は鶏が石を食べ、どうやって石を消化し、排出するのかに疑問を抱いていた。そこで実際に鶏を解剖するなど研究を続けると、鶏の砂嚢では磁器、石、銅、鉄が消化出来ることがわかった。結石の主成分である草酸钙(シュウ酸カルシウム)は薬物を使っても溶かすのは難しい。溶解が困難な原因は、結石の表層部を高密度の鉱物が覆っているからだ。鸡内金に含まれる多酚生物碱(ポリフェノールアルカノイド)はその「外殻」をアルカリ化させて溶かす作用があるため、結石を溶かすことが出来る。张锡纯は鸡内金を用いた治療に長けており、患っていた結石は自分で治したと言われている。鸡内金は胃、肝、胆、腎と脾経、胃経、小腸経、膀胱経に薬効が及ぶ。
【中药の用い方】
こんな逸話がある。1918年、沈阳(瀋陽市)にある病人がいた。病人は胃のあたりに何か詰まっている感じがすると言い、非常に痛がった。良い医者を求めてあちこち彷徨い、张锡纯に診てもらうことになった。张锡纯は胃の中に異物があると診断した。胃気が弱っている。気の活動が中焦(≒体幹部)で止まっている。张锡纯は病人に処方箋を書いてやった。鸡内金(健胃消食)を一两(31.25g)、生酒曲(健脾消食)を五钱(約16g)という簡単な処方だ。病人はこの処方を受け取ると、本当にこんな処方で治るのかと疑っていた。しかし帰宅してから数回服用すると、胃の異物感は完全に消え、完治した。中药(漢方薬)の効果は必ずしも価格に比例するわけではない。また、量の多さや質によるものでもない。いかにして巧く使うが重要なのである。
【金钱草の話①】
昔々、仲睦まじい、若い夫婦がいた。しかし、ある時、夫は突然の腹痛に襲われ、死んでしまった。妻はたいそう悲しんだ。夫の突然死が不可解であったため、医者が死因を明らかにする必要があると言って、痛みのあった腹部を解剖することになった。すると、胆嚢から小石が1つ摘出された。妻は緑と赤の絹糸で網袋を作り、夫の形見としてこの石を首から下げて、身につけておくことにした。その後、妻は山へ薪を集めに行く度に、網袋に入っている形見の石が小さくなっていることに気が付いた。これは奇怪なことだと思い、医者に相談することにした。この話を聞いた医者は非常に奇妙なことだと思ったが、山へ入って薪を集めている時、何かの草が接触して石を溶かしたのであろうという仮説を立てた。仮説を検証するため、医者はその妻と一緒に山へ入ることにした。妻が薪を拾った場所に生えている草を数種刈り取り、それぞれの草で石を包んでみることにした。すると案の定、ある草で包むと石は溶け、小さくなった。こうして、結石の治療にこの草が使われるようになった。この草は化石丹と呼ぶ人もいたが、金銭よりも価値のある草だということで、金钱草と呼ぶ人もいた。金钱草の重要な作用は他にもある。利胆排石で、結石の排出を助ける効果もある。
【金钱草の話②】
1960年代の話だ。インドネシアのスカルノ大統領が泌尿器系の結石になって悩んでいた。当時、スカルノ大統領は西洋医学を受け入れたくないと思っていた。手術は避けたかった。そこで、親交のあった周恩来総理に助けを求めた。周恩来総理は当時中国国内で著名かつ中医のエキスパートであった岳美中をインドネシアに派遣した。この時、岳美中が治療に使ったのが金钱草だった。使われた金钱草の分量は1回あたり60g~210gまで増やされ、治療が終わるとスカルノ大統領の病気は完治し、中医学の妙技を称賛したと言われている。
【実際の方法】
中国人民解放軍第411医院、男科主任副主任医師である白迎堂氏によれば、直径6mm以内の結石であれば、中药(漢方薬)で溶かすことが可能だという。しかし、結石がそれより大きい場合は内視鏡手術が必要だと言う。中国人民解放軍第411医院では主に体外衝撃波結石破砕術法と内視鏡手術の2つが行われている。どちらも結石を砕いて体外へ排出させることは可能だが、小さく砕けた結晶を完全に取り去ることは出来ない。手術後は中药を処方し、中药を飲ませることで残った結石の結晶を完全に溶かし、痛みを伴わずに体外へ排出させることが可能だ。
【3人のその後】
Zさんは内視鏡手術で大きな結石を取り除いた後、毎日、処方された中药を煎じて飲み続け、2か月後には完治した。Yさんは内視鏡手術が怖いので、体外衝撃波結石破砕術法を選んだ。40分ほどの施術で全ての結石が粉々になったが、医師は結石が尿で排出される際に痛みが出るかもしれないと言った。Yさんは医師が処方した中药(漢方薬)を飲むことで、血尿や排尿痛を伴うことなく、完全に結石を排出することが出来た。Cさんも体外衝撃波結石破砕術法を選んだ。Yさんと同様に、医師は砕かれた結石が排出される際、膀胱壁や尿道を傷つけ、血尿や排尿痛を伴うかもしれないと言った。Cさんは最初、中药を飲まなかったため結石が尿道を傷つけ、血尿が出てしまった。結局、Cさんは15個の結石の内1つを体外から砕き、残りの14個の結石と残った結晶は中药を飲むことで痛みを伴わずに、完全に排出することが出来た。
【結石の原因】
中国で結石を患う患者が多いのは何故だろうか。常時、飲む水の質が悪かったり、硬水が多いこと、ホウレンソウや豆腐の過剰摂取などが、草酸钙(シュウ酸カルシウム)を容易に形成させる。結石が形成される要因は主に3つある。1つ目は泌尿器系の問題で尿路が狭い人や尿がすぐに溜まりやすい人などで、この場合は長時間排尿を我慢すると、結石が形成されやすくなる。2つ目は代謝系の問題で、代謝が悪い人はカルシウム、リン、マグネシウムの排出が悪くなりがちで、結石が出来やすくなる。3つ目は生活習慣の問題で、特に食生活の問題だ。
【結石の原因と予防】
①久坐:長時間座らない。長時間座っていると代謝が緩慢になり、尿が出にくくなり、代謝物質が蓄積するため、結石が産出されやすくなる。
②憋尿:小便を我慢しない。長時間座っている人は往々にして小便を我慢することがあるが、上記の通り結石が出来やすくなる。
③不爱运动:動くことを嫌がらない。現代人の生活レベルは日々向上しているため、歩かずに車を多く利用したり、仕事は全てパソコンで済ませたりするなど、運動する機会が急激に減少してきている。運動不足になると、尿中のカルシウム濃度が高まり、カルシウムがシュウ酸と結合して、結石が出来やすくなる。人間は適度に運動したり、適度に太陽の光を浴びることで、カルシウムが吸収されやすくなる。
【結石予防のための運動と習慣】
①上下にピョンピョン飛び跳ねる。縄跳びをするのも良い。
②立位で両足を閉じたまま、少し前方に跳ぶ。
③水を飲む。1日あたり、1.6~2㍑程度の水を飲むようにする。水分摂取は一気にするのではなく、こまめにして、体内の水分量を一定に保ち、結石が出来にくくなるようにする。現代人の多くは水の代わりに炭酸飲料を多く飲むが、炭酸飲料には砂糖が多く含まれているため、尿中のカルシウム濃度が高くなりやすい。また、コーヒーを好んで多飲する人もいるが、コーヒーにはシュウ酸が多く含まれるため、結石が出来やすくなる。ヨーロッパ人に結石が多いのはコーヒーを多飲する習慣に関係があると、中国人民解放軍第411医院、泌尿外科主任副主任医师である郎根强氏は主張する。また、眠つきを良くするために好んで牛乳を飲む人がいるが、牛乳にはカルシウムが多く含まれているため、就寝前に飲むと就寝中は代謝が低下するため、尿中のカルシウム排泄が高まり、結石が出来やすくなる。結石は日中よりも夜間に形成されやすいため、就寝前に牛乳を飲むことでより結石が出来やすくなるのである。また、喉が渇くとすぐにビールを飲みたがる人がいるが、ビールにはプリン体や尿酸が含まれているため、尿酸結石が出来やすくなる。
④夕食は早め少な目を心掛ける。最近は朝食を抜き、昼食を軽く素早く済ませ、夕食をメインにする人が増えている。動物性たんぱく質は酸性であり、多量のカルシウム、リン、尿酸を含んでいるため、就寝前に動物性たんぱく質を沢山摂取すると、容易に結石が形成される。人間が1日に必要なたんぱく質の量はそれほど多くない。牛肉であれば約100g、卵であれば3個で足りると言われている。たんぱく質は人間にとって重要な栄養ではあるが、多すぎても少なすぎても害になる。一般的にカルシウム排泄のピークは食後4~5時間であり、もし19時に夕飯を食べたなら、23時頃にはピークを迎え、23時頃に就寝してしまうと、結石が出来やすくなる。
玉米须(トウモロコシのヒゲのお茶)は高脂血、高血糖、高血圧に効果がある。夏に飲めば、体の熱を取る効果がある。中医学的には降圧、利尿、清热(解熱、湿熱を排出する)、利胆、抗結石の作用がある。作り方は玉米须をお湯で煮詰めてお茶にしても良いし、玉米须を洗浄した後、ポットに入れてお湯を注ぐだけでも良い。一般的に1回に使う玉米须の量は50~100gで、煮詰める場合は強火で15分程度煮詰める。