駅から徒歩22分。「わざわざ感もいいでしょ?」と微笑む、チャーミングな古道具屋さん @吉祥寺
● “駅遠”の長屋を盛り上げる古道具屋さん
吉祥寺に佇む「ある長屋」に、ぬくもりを感じる古道具屋さん「fog」が入っています。しかしその場所、最寄駅から徒歩22分。
決して「アクセスがいい」とは言えない場所ですが、お客さんが足繁く訪れ、長屋のみんなで地域を巻き込むイベントも開催し・・と、「駅からの距離」を感じさせぬ存在感を放っている様子。いったいどんなお店、そしてどんな長屋なのでしょうか。
●元々はデザイン事務所用の物件を探して
玉田さんはもともと自宅に空間デザイン事務所を構えていましたが、「家具サンプルの置き場も欲しいし、そろそろ事務所を借りようかな」と思い立ちました。
「東京R不動産は20年前の開設当初から、仲間内で『面白いサイトがある』と話題で。物件を探していない時も、読み物として見に来ていました」(玉田さん)
その日もサイトを眺めながら「家具の搬入もあるし」と路面沿いの物件を探していると、「1階でお店を開き、2階は事務所にできる」という長屋の物件を発見。
玉田さんは「この物件かわいい!」と内見に来てみると、塗装の壁やコンクリートの古い味わいに惹かれ「さらにかわいいと思った」と言います。
元々は馴染みのある西荻エリアで探していましたが、この物件の雰囲気に惹かれ、「家から通えるし、予算はちょっとオーバーだけどなんとかなるだろう」とここを借りることにしました。
●「今より素敵にするから」と、物件を改装
物件を借りると、玉田さんは物件に少し手を加えることに。
「管理会社さんに『1階のサッシを塗装したり、2階のふすまを取ったりしてもいいですか?』と聞いたら『今より素敵な物件になるなら』と言ってもらって。『絶っ対、良くなります!!』って、やらせてもらいました(笑)
改装と言ってもDIYレベルで費用も少なく済んだのも、物件の決め手の1つでした。東京R不動産の物件って元から”出来上がって”いて、すぐにお店を始められるものが多いイメージがあります」(玉田さん)
●古道具の「既視感のなさ」に惹かれ、お店をオープン
お店を開く前、もともとはインテリア設計事務所に勤めていた玉田さん。古道具屋の魅力を聞くと、「既視感の無さ」だと教えてくれました。
「設計事務所勤めの頃は、新品でチープな什器をひたすら目にする生活で。そんな日々を繰り返していたら、全てに既視感があるというか、どれも同じに見えてきてしまったんです。それで、唯一無二である「古道具」に惹かれるようになりました」(玉田さん)
設計事務所では、和食店などの内装に古道具を使うこともあったそう。「拾ってきた鉄を可愛く活用したり、鍋蓋を壁に飾ったりして、古道具をこうやって活用できるんだなとインスピレーションを得ましたね」
そして退職後、「店舗や施設を作るのもいいけど、もうちょっと生活に寄り添った空間の提案がしたい」と独立。この物件を借りた当初、1階は事務所のショールームにすることも考えましたが、最終的には古道具屋「fog」の開店に至りました。
● “駅遠”を気にせず、むしろプラスに捉えて
この物件は、最寄りの吉祥寺駅から徒歩22分。駅からバスでも来られるとはいえ、この距離はネックではなかったのでしょうか。
「古道具屋さんって、都心から離れた長野や山梨で開く方もいるぐらいなので、そういう意味では都内の時点で大丈夫だろうと思っていました。それよりもただただお店の準備が楽しくて、毎日ときめいていましたね(笑)」(玉田さん)
「駅から遠いのもむしろ、隠れ家的で面白いかなと。駅近はもちろんいいことですが、やっぱり全然興味のないお客さんの出入りも増えますよね。それよりも、目掛けて来てもらえるお店の方がいいかなとも思って…」(玉田さん)
そう思えるのは玉田さんがどんな場所でも、古道具の魅力を引き出して伝えられる自信があってこそですよね。お客さんはリピーターの方も多いそうで、「ここに来れば何かある!」とお店を信頼してくれていることがよく分かります。
●名前を付けて、”わざわざ”来てもらえる長屋に
ここ「fog」があるのは、6軒が連なるこちらの長屋。そもそも長屋とは、おとなりと壁を共有する構造になった家のことです。マンションやアパートとの違いは、廊下やエントランスといった共有部が無いことと、玄関が道路に面した造りであること。
玉田さんと長屋内の店主の方々は、日々交流を深めるうち「みんなでこの長屋を盛り上げたい」と考えるようになり、2023年秋、吉祥寺エリアの店舗に声をかけて「わざわざマーケット」を開催しました。
「わざわざ来てほしいという自虐的な名前で開催しましたが(笑)、当日はお祭り状態で大盛況でした。なんだかこの長屋も喜んでいるような気がしましたね」(玉田さん)
このイベント開催にあたり、玉田さんはこの「名もなき長屋」を「吉祥寺長屋」と名付けました。
「長屋のみんなと話して、『吉祥寺』は絶対に入れたいという声はありました。名前は他にも候補があったんですがなかなか決まらず、『もう決めちゃうね!』って(笑)。そのままビジュアルやロゴまで用意してしまいました」(玉田さん)
名前をつけることで認知拡大に繋がるのはもちろん、「名付けたことで長屋により愛着が湧きました」と聞いて、私たちもうれしい気持ちになりました。
●「お店それぞれ」ではなく「長屋丸ごと」を想って
吉祥寺駅から徒歩22分、”駅遠”に佇む「名も無き長屋」。もともと色々なお店が入っていましたが、「それぞれの店舗」としての認知はされていても、「長屋」としてのまとまりはあまり感じられなかったかもしれません。
そこに「都内だし大丈夫、お店を開いちゃおう」「今より絶対良くなる!DIYしちゃおう」「名前を付けて、イベントもしちゃおう」と前向きな玉田さんが現れたことで、名もなき長屋は「吉祥寺長屋」としてひとつにまとまり、長屋の外までをも巻き込むパワーを持っている様子がうかがえました。
建物に名前を付けるなんて、その物件を大切に想うからこそできること。玉田さんのような方に入ってもらえて、この吉祥寺長屋もきっと喜んでいるだろうと感じました。
吉祥寺に来た際はぜひ、「fog」のある長屋まで「わざわざ」遊びに来てみてください。