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精神病院の住民、その特徴と暮らし

この前、ごく簡単に精神病院の仕組みみたいなものを書いた
精神病院のこと(導入編にかえて)、という記事です

その続きみたいな感じで、保護室を出た後の話を書いてみたい
引き続き、「あくまでも僕が体験したことと感じたこと」であって、客観的に正しいかどうかは定かではないということをご承知おき頂ければと思います

前に書いた通り、僕は自殺未遂をして病院に緊急搬送されて保護室という清潔な独房みたいなところに軟禁されたわけだけれど、模範囚として勤め上げ、無事、ほかの入院患者がいる閉鎖病棟へと移送された

僕が入院した病棟は一見すると普通の病院みたいだった
病院に入院したりお見舞いに行ったりしたことがある人は結構いると思うけれど、あなたが想像する病棟とさほど変わらない
病室は1人部屋の個室(個室料がかかることもあるし医師の指示で1人部屋にされる場合もある)と2人部屋、4人部屋
一般的な病棟と少し違う点があるとすれば、精神科の入院病棟には大きなリビングみたいな場所がある(僕が入院した二つの病院とも共通していたし、見舞いに行った他の精神科病棟もそうだった)
テーブルがあって、椅子がある
病棟のベッド数にもよるんだろうけれど、椅子は2つ3つじゃなくて、10とか20とか、たくさんある
テレビがあって新聞がある
オセロとか将棋とか碁盤とかUNOとか、そういうものもある

前にも書いたけれど、閉鎖病棟というのは基本的に入り口が施錠されていて、看護師の許可がないと外に出られない
誰でも許可が出るわけでもなくて、病気の種類とか状態によっては全く許可されない人もいる
外出だってたいていは1時間以内のお散歩とか院内の売店でのお買い物とかそんなものが中心だ
だから、入院患者は一日のほとんどを病棟で過ごす
しかも精神科の入院期間は長い
1週間で退院するなんてことはまずないし、1か月で退院というのもかなり短期の部類に入ると思う(今は違うのかな)
だから1か月も2か月も病棟で過ごすことになる
それで、病室にいるだけでは息が詰まるから、リビングみたいなところがあってそこで寛いだり患者同士で話をしたりする
病院によってはそこでみんなで食事をしたりする
今はわからないけれど、当時は喫煙室もあって、タバコを吸う人は特に喫煙室で仲良くなることが多い(精神科の患者には喫煙者が多い気がするな)

そんなわけで、病棟のリビングみたいなところにいると自然といろいろな人と顔を合わせたり話をしたりすることになる

僕の入院していた病院では、入院患者は大体男女半々で、意外と若い人が多い(10代から30代くらいの子が多い)
あとはおじさんおばさん
入院したどちらの病院もそんな塩梅だった
恐らく高齢者については病棟を分けているとか慢性期病棟に入るとか、そういうことなんじゃないかな
おじいちゃんおばあちゃんはほとんど見かけなかった

病棟に新しい人がやってくると、みんなまずその人が「会話の成り立つ人」かどうかを判断する

さっきから精神科の患者、とひとくくりに言っているけれど、入院患者の病名は結構いろいろある
多分一番よく知られているのはいわゆるうつ病じゃないかな
抑うつとかうつ気分とかまぁいろいろとあるんだけれど、とりあえずまとめてうつ病
それから双極性障害(昔は「躁うつ病」と呼ばれていた)
この二つをあわせて「気分障害」というんだよね
それから摂食障害
摂食障害には拒食症と過食症があるけれど、基本的にはどちらも同じ病気のステージの違いみたいな感じで、不思議と女の子が多かったな
がりがりに痩せていることが多いし、過食症だと手にいわゆる「吐きダコ」があるからすぐわかる
とはいえみんな何かひとつの病気というわけではなくて、例えば拒食症の子はたいていうつか何かを持っているし腕にはリストカット痕がある子が多い
それにみんなたいてい不眠症だ
やっぱり人間はちゃんと寝られなくなると精神に異常をきたすんじゃないかな、よくわからないけどさ
あとは何らかの依存症とか強迫神経症とか解離性障害とかまぁいろいろあるんだけれど、ここに書いたような病気の人はたいていコミュニケーションが可能だ(もちろん状態によるけれど)

ちなみに僕の病気は双極性障害

正直な感覚としてコミュニケーションがとりにくいよなと思うのは統合失調症の人だな
昔は精神分裂症なんて呼ばれていたんだけれど、ちょっと会話が成り立たないことが(少なくとも入院しているレベルの人たちについての話だけれど)多かった

精神科ガチ勢になってくるとけっこう雰囲気で相手の病気の察しがつくようになるし、入院患者は仲良くなってくると自分の病気のことをカミングアウトしあったり(やたらと誰にでも自分の病気や身の上の話をしたがるというタイプの人もいる)、あとは噂話で「〇〇さんって、△△病なんだよ」って教えてくれたりする
だいたい統合失調症のことは「トーシツ」、双極性障害のことは「そううつ」って呼ぶことが多かったな
(本当は良くないことなのかもしれないけれど)あるいは看護師が「〇〇さんにはあんまり話しかけないであげてね」みたいなことを言ってくることもあったりしたから、病棟のほとんどの人の病名はなんとなくわかていたりするんだよね
もちろん、ほとんど自分の病室から出てこない人もいて、食事も自室でとったりするものだから全然どんな人かわからないということもある

話がわき道にそれたけれど、とにかくそんな具合に相手が「話をしても安全か」みたいなことを見極めるわけ
一般的に言えば若い子同士はすぐに話をするようになるなことが多いみたいだった

それでもやっぱり付き合ってみないとわからないもので色々なことが起こる

当たり前のことなんだけれど、みんな精神に病気を抱えて入院しているからさ、調子の波みたいなものがあって、急にふさぎ込んだり泣き出したりすることもあるし、僕みたいな双極性障害の人は躁状態になってハイテンションにいろんな人に話しかけたりすることもある

時々性格の優しい人がいろんな人の悩みとか過去のこととか愚痴とかそんなこんなを聞いてあげて、それがストレスになって病状が悪化したなんてこともあるし、こじらせてけんかになることもある

誰かがうつ発作を起こして周りの子が看護師に「とん服!とん服!」なんて叫んだりすることもある
その横でそんなのお構いなしで、もう朝から新聞の同じページを何時間も読んでいるおじさんがいたりする

実に賑やかだ

どうかな
なんとなく想像できますか

ここまでが言ってみれば昼間の話

精神科病棟は夜も賑やか

病院にもよるけれど夜は10時くらいに消灯になる(9時だったかな)
消灯の30分くらい前になるとみんなでナースステーションの前に行列を作って「就寝前薬」をもらう
まぁ大体睡眠導入剤(略して「みんざい」ということが多い)が中心なんだろうけど人によっていろいろある

話は少しそれるけれど、通常、精神科病棟では薬は食後とか就寝前とかのタイミングで都度看護師から渡されて、看護師の目の前で全部飲み切る
病室に持っていくことはできない
ODを予防するためだと思いう
ODっていうのはオーバードーズの略で薬を大量に一気に飲むことを言うんだけど、自殺の手段としてはわりとメジャーだよね
外来の患者さんなんかだと処方された眠剤とか抗精神病薬を飲まずに貯めておいて、何百錠も一気に飲んで自殺を図るということが結構ある
ちなみにODって意外と死ねないもので、ただ、ODをすると病院に緊急搬送されて胃洗浄をされるのね、胃洗浄っていうのはとても苦しい
そのうえ、自殺企図だからそのまま入院コースということになる
ODってあんまりいいことないんだけれど、どうも依存症みたいなもので人によっては結構やめられないらしい
リストカットと同じだよね、全然死ねないけど癖になる

さて、そんなわけで就寝前になるとみんなで就寝前薬をのんで、薬と交換に携帯電話をナースステーションに預ける
人によって携帯電話の使用を許可されてるんだよね
(携帯を持たせてもらえない人のために病棟には公衆電話が置かれていたな)
でもほら、基本的に精神疾患の人って寝れないわけ、不眠症
それなのに携帯の画面見たり誰かとLINEしてたりなんかしたら尚更寝られないじゃない
だから携帯は翌朝まで預ける

そして何事もなく朝が訪れるかといえばそんなことはない
そもそも寝ないやつが多い
今はわからないけれど当時は病棟内に喫煙室があって24時間開放されていた
そこでうだうだと話をしている
大体若い子が中心だ
時々おっさんの入院患者がやってきて「おいお前らさっさと寝れよ」と言いながら自分も煙草を一服しては「でも寝れねえよな、寝れたらそもそも苦労してねんだわな」みたいなことを言っていたりする
看護師もやってきて「寝なさいよ」なんて言うんだけれど、寝れと言われれば寝られるというものでもないこともわかっているし、中には一緒に喫煙室でタバコを吸う看護師も結構いた
看護師にライターで火をつけてあげたりね
ライターは個人で持てない事になっているから、喫煙室に備え付けてあるんだ、持ち出せないようにチェーンで壁に括り付けてある
夜の時間帯は救急搬送があったり入院患者が問題を起こしたりすることがあるせいかほとんどが男性看護師だったな
余談だけれど、精神科の病棟看護師には結構うつ病の人が多い
どこの病院に行ってもそうなんだけれどなんでだろう

そしてナースステーションを「追加眠剤お願いします」と言って訪れる患者が多い
追加の睡眠薬をください、という意味だ
みんな寝れないんだ

もちろん、そのほかにもいろいろと発作やら問題やらを起こす人も多い

そんなわけで精神科病棟は夜も結構忙しい

こんな感じで精神科病棟の1日は過ぎて行く
みんな生きること(あるいは死ぬこと)に必死なんだけれど、どこかしらおかしくもあり、どこかしら悲しい
そんな集団生活が精神科病棟

ちなみち、どうして僕がそんな夜の様子を知っているかというと、当時ヘビースモーカーだった僕は朝方近くまで喫煙所に若い子たちとたむろしていたからだ
よくある話だけれど、夜にする話、喫煙室でする話、といえば噂話か恋愛話かエロい話と相場が決まっている
精神科病棟では特に若い男女がずっと一緒に生活するから自然と恋愛がらみの惚れた腫れたとか失恋したとか、そんな事件が起こりやすい
そんな話はまた機会があったらしたいと思う

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