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障害者手帳 あるいはメンヘラのお仕事事情

ドトールでコーヒーを飲んでいると隣の席で私と同病と思しき2人組が話し込んでいる
別に聞き耳を立てるというわけでもないのだけれど、席がとても近いから話の内容がほとんど筒抜けだ
どうやら障害者手帳の申請をしようとしているらしい
年上の女性のほうがしきりに若い女性に向かって、絶対に手帳をもらったほうがいいという趣旨のことを話している
若いほうはどうやらあまり乗り気でないらしい
よくわからないけれど、手続きが面倒だと思っているのか、あるいは手帳を持って「障害者」と公的に認められることに躊躇があるのか、年上のほうから、税金が安くなるとか何とか言われてもどうにも曖昧な返事をしている

僕は障害者手帳を持っている

手元の手帳をあらためて眺める
最初に取得したのはもう10年以上前、2年ごとに更新するのだけれど、昨年末に更新したばかりだからあと1年以上有効だ
「3級」と書いてある
ヨレヨレのスーツにネクタイを締めて惚けたような腑抜けたようないかにも冴えない中年男性の顔写真がこちらを見ている
手帳はそんなに分厚いものではない
ちょうど中学生の生徒手帳みたいなものをイメージしてもらえるとかなり近いと思う

この手帳は結構便利だ
僕はこの手帳を「魔法のパスポート」と呼んでいるのだけれど、様々な特典がある、特典なんて言い方しちゃいけないのかもしれないけどさ

もしかすると住んでいる市区町村によって異なるのかもしれないけれど、ここに書くことは僕の住んでいる街の話だ

まず特典として大きいのは自動車関係だ
僕は自動車を保有しているのだけれど、毎年の自動車税が免除になるし、自動車を購入するときは自動車取得税も免除される
それから、税で言えば、所得税住民税が安くなる(障害者控除というものが受けられる)
このあたりがメインだ
あとは、僕の街では、交通費補助をくれる
具体的に言うと、公共交通機関無料券かタクシーチケットかガソリンチケットあたりから選べるんだったと思う(僕はタクチケをもらってる、1年間で1万円ちょっとくらいかな)

あとはいろいろな施設で入場料とか入館料なんかが割引される
動物園とか美術館とか科学館みたいな公共の施設だとだいたい無料になることが多いし、民間の施設でも結構割引がきくんだよね、映画館とかテーマパークとか(同行者も補助者として割引されることもある)

僕は3級だけど、たしか1級とか2級だとNHKの受信料の割引とか他にもいろいろとあったと思う

だいたいこんな感じだ

どうです?
なんだか良さそうじゃないですか
もらえるならもらうに越したことないんじゃないかと思ったりするわけなんですけれども、この手帳を取得するには医師の診断書が必要になる
あと確か初診日から半年たってないといけないとかそんな感じだったと思う
あとはまぁ精神疾患だったらうつでも発達障害でもなんでも問題なかったと思うんだよね

実際のことを言うと、3級の手帳は医師の診断書があればまあまずまず認定される
少なくとも僕の周りでダメだった人というのは見たことがない
なんだか最近は診断書欲しさにうつを詐病するみたいな奇妙奇怪な人もいるようだから、そういう人は知らないけれど
障害年金と違って比較的簡単にもらえると思うんだよね
(障害年金は結構ハードルが高いし、認定されなかった人も結構見かける)


さっきから障害者手帳と簡単に言っているけれど、精確に言えば、僕が持っているのは「精神障害者保健福祉手帳」だ
この手帳には1級から3級まであって、1級が一番状態が重くて3級が一番軽い

一般的に「障害者手帳」というけれど、実際は種類があって、精神疾患がある人に発行されるのがこの「精神障害者保健福祉手帳」、おそらく一番想像しやすい身体の障害とかそういうものがある人(目が見えないとか)に発行されるのが「身体障害者手帳」、そして、知的障害等がある人に発行されるのが「療育手帳」
3種類ある
細かい話は置いておくけど、精神障害者保健福祉手帳は大体全国で100万人弱くらいの人に発行されている
結構多い
僕が取得したときは今の半分くらいの人数だったらしいから、手帳をもらう人が増えているんだね

さっき上のほうで「もらえるならもらうに越したことないんじゃないかと思ったりする」と書いたんだけれど、意外と手帳を(明らかにもらえる状態なのに)申請しないという人もけっこういる

何が一番大きいかといえば、やっぱり国から公に「障害者」と認定されることに抵抗がある人が多いんじゃないかな
確かにあまりいい気がしないというのは理解できる
あとは、何かの拍子に手帳を見られたり何かの都合で周囲の人に自分が障害者である(精神疾患を患っている)ということが露見してしまうというのが怖いという話も聞いたことがある
友達とか、職場とかね
すごくわかる
だから躊躇しちゃうんじゃないだろうか

別に手帳を取得しなくても、これとは別に「自立支援医療」というものがあって、これを申請すると精神疾患患者は月の医療費に上限が設定されるから、こちらを利用すれば医療費を抑えることはできる
例えば、比較的軽めの症状の人だと低所得だと月に5千円上限ぐらいになるし、「重度かつ継続」と認定されるとよっぽど高所得じゃない限り月の医療費の上限は5千円とか1万円くらいになる(言うまでもないかもしれないけれど、僕は「重度かつ継続」だ)
だから必ずしも手帳の取得をしなくてもいいという人もいると思う


2ちゃんねるの創設者(今は5ちゃんねるって言うんだっけ?)のひろゆきさんが、はっきりとは覚えていないからざっくりとした感じで言うと「うつになったらさっさと病院に行って障害者手帳を申請したほうがいい、手帳があれば大企業に就職しやすいし仕事も楽だから趣味を楽しんで人生充実させたほうがいいんじゃないですか」みたいな趣旨のことをどこかで言っていたように記憶している(言い方は違ったかもしれないけれど、意味合いとしてはこんな感じだったと思う)

これはね、いろいろ議論があるところだけれど、僕は彼の主張はそれなりに理にかなっていると思うんだよね
もちろん、さっき言ったような「障害者」になることへの躊躇を捨てる必要はあるけれども、確かに手帳があると大企業への就職は結構やり易くなる

それは障害者雇用促進法というものがあるからなわけです
この法律は、ざっくり言えば一定以上の規模の会社は障害者を一定数雇用しないといけないという法律なんですね
従業員の2.5%の障害者を雇用する義務がある
100人の会社で2人
1000人の会社で25人
そんな感じ
で、この人数を雇うことができないと、足りない人数×5万円(月額)を国に納めないといけない、まあ罰金みたいなもんです

だから大企業は雇わなければならない人数がとても多くなるし、雇用できないと国に納める罰金(本当は罰金ではないんだけれど)の額もとても大きくなる

でも一方で、全然仕事をすることができない人を雇うわけにはいかない、それだったら毎月5万円納付したほうが経済合理性がある(もちろん、企業の社会的責任みたいな部分を責められるという話はあるだろうけれども)

そんなわけで、大きな会社には、それなりに仕事(というか作業)をすることができる障害者を雇いたいという意向があるんだよね

それでね、差別的な意味合いではなく、現実的な問題として、さっき説明した3種類の手帳(身体障害者手帳(身体障害)、療育手帳(知的障害)、精神障害者保健福祉手帳(精神障害))の中だと、やっぱり精神障害者手帳の人が比較的採用しやすいと思うんだよね、というか実際、精神手帳の人の就職件数が多いという話をよく耳にする

精神疾患系の人が一般的な企業に就職しようとする場合、僕の個人的な感覚としては、手帳を取得してハロワで障害者枠の仕事を探すというのがわりと良い方法なんじゃないかと思う
もちろん、手帳持ちということを他人に知られることになるし、仕事の内容も軽作業的なものになる

多分このあたりのことを、ひろゆきさんは上記のように、大企業に就職しやすくて仕事も楽、という言い方をされたんじゃないかと推察するわけです
それで趣味を充実させれば人生楽しいじゃないですかってことなんでしょうかね

まあ手帳の有無と関係なく「就労移行支援」という制度を利用して一般企業への就職を目指すという手もあるけれど(これも大きな企業への就職になる)

もちろんね、もっとやりがいがある仕事がしたい、みたいなこともあると思うんですよ、人によっては
だた、現実問題、例えば同じ30歳の健常者と精神障害の人が就職(転職)しようと思った場合、健常者の人って結構大変じゃないですか、そもそもライバルが多いし、学歴やらキャリアやら資格やら能力やらの面で競争も激しいですよね
その点精神の人が障害枠で行くとそもそもライバルが少ないんですよ、それにそもそも能力値云々みたいな話にあまりならない、作業が人並みにできるかみたいな話になりがち
そこへもってきて、メンタル疾患を抱えた人が障害を隠して一般枠で就職をしようとすることの厳しさはなかなかのものじゃないかなと思うわけです

障害のある人自身の意向が大きいですよね、一般企業で仕事がしたいのか、長時間毎日働くのがしんどいという人はA型事業所(あるいはB型)なんかで働くかもしれないし、僕の周りでは諸々の条件がマッチして生活保護を受けているという人も多いな
一口に精神疾患と言っても重い軽いとか病気が何かとかそういう事によっても状況は全然違うし

メンタル疾患患者のお仕事探しって色々難しいな
そんなことをドトールコーヒーでぼーっと考えていました(彼女たちはとっくに帰ってしまった)

さて、じゃあ僕の就業状況はどうなんだという話です
僕の場合は普通に会社員として仕事をしていて途中でうつ(精確に言うと双極性障害)が発病したという経緯なので、手帳をもらってから就職活動はしていません(発症当時からずっと同じ会社に勤めている)
うつになったりなんかすると会社をクビになったり退職に追い込まれたりするんじゃないかなとか思うかもしれないけれど、あんまりそんなことはないんじゃないかな、そういう解雇とか退職勧奨って法律的に会社側にとって相当しんどいから
ただ、どちらかといえば従業員側が「会社に迷惑はかけられないし、働くのもつらい」みたいなことで自主的に退職することが多いと思う
僕の場合は、(もう何回か書いているけれど)自殺未遂→精神科強制入院→数か月入院→自宅療養、というダイナミックなプロセスで精神疾患を発症したので、きっと会社の人もびっくりしたんじゃないかな?
そもそも面会自体が全然できなかったし(お手紙は来たけど病院側が「今は仕事のこと考えなくていいよ」って言ってくれた)、だいたい、そんな状況で「お前頭おかしいからクビな」なんて言おうものなら、あいつもう1回自殺しちゃうかもしれないなとか思ったんじゃないかな、少なくとも裁判になったら絶対会社は勝てないし
僕は精神が壊れてる割に図太いところがあるから「迷惑かけちゃうので辞めます」とかいわないし
ま、そんなこと言われなくても、結局数年間のうちに3回の自殺未遂→強制入院→自宅療養を繰り返すというファンタスティックな休職を繰り返すことになるんだけれど
実に懐の広い会社だ
それでもこの10年くらいは入院したり長期の休養をしたりすることもなく問題なく仕事もしてきたし、結果オーライみたいなところがあるような気がする(と、僕サイドは勝手に思っている)

僕は大変オープンスタイルなメンヘラ従業員なので、会社では病気のことはフルオープンなんだ
手帳を取得したときは人事部に行って「ほら、これで障害者雇用の罰金が1人分減るでしょ、給料増やしてよ」という謎のネゴシエーションを試みたし、ちょっと自分に都合が悪い話になると「あぁ、そういう難しい議論は主治医に止められてるんです」とか「あ、なんかうつっぽくなってきた」なんて言い出すタイプの大変面倒な従業員だ
それを「なんだお前うるせえな」と適当にあしらってくれるみなさんが周りにいるのがとのも幸せなことなのだ
人事の人も、「ねえ、そろそろ障害者手帳更新の時期だけど忘れてないよね」なんて言ってくる、障害者雇用の証明に必要なんだ
僕も「え、なんだよおい、当然のように更新するくらい障害が治ってないって思ってるの?まあそうなんだけどね、今年は何級かな、うふふ」なんて言って笑ってる

今僕は10年ぶりに休職している
メンタルが悪化したからだ

「いやー長期休暇最高でしたわ、温泉行っちゃった、がはははは」
「おまえしばくぞ、めちゃくちゃ元気そうじゃねぇかよ」
なんて会話を近いうちに職場の人としたいな

これが僕なりの病気と仕事との付き合い方だ
自分としてはなかなか悪くないと思ってる

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