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現代に蔓延する成功という名の甘い夢から目を覚まさせてくれる。幸せになれる方法ではなく、幸せという定義を見直させてくれる一冊。『凡人道 - ひろゆき』【書評】

ひろゆき 著『凡人道 役満狙いしないほうが人生うまくいく』

本著をひとコトで表現するならば、「現代に蔓延する成功という名の甘い夢から目を覚まさせてくれる」一冊であり、「幸せになれる方法」ではなく「幸せという定義を見直させてくれる」一冊です。

あなたは「再現可能な成功の法則」に則って生きているのでしょうか? きっとそんなものはこの世にはなく、もしかすると知らず知らずのうちに、取り返しのつかない道へと突き進んで行ってしまっているかも?

忘れかけていた「堅実に生きる」という名の人生道。役満狙いの危険な生き方に対する、ひろゆき流の処方箋です。

巨大掲示板「2ちゃんねる」創設者にして元管理人のひろゆき。76(ナナロク)世代を代表し、ネット世界にも造詣が深い著者の思考や人生観は、ネット世界の「基本」とは少々異なります。

「投資をするよりまず貯金をしろ」「好きなことを仕事にしたら生きていけない」など、従来の「ネットリテラシーがあって閉塞感を感じている人」が期待することを考えています。

インフルエンサーの言うことを実践しても生きづらさは変わらない

――そう感じる人に向けて、ならばどうすればいいか、どうすれば人生に行き詰まりを感じず「ちゃんと生きる」ことができるか、というコツを本書で紹介していきます。

本著では、「幸せになれる方法」ではなく、「幸せを感じる方法」が指南されている。そうなんです。ハードモードな世の中で幸せになるためにサバイバルを続けるよりも、幸せを感じる方法を学び、そこに生き方をフィットさせたほうが、実はコスパが圧倒的にいいんですよね。という生き方のススメ。

あまりにも夢のない一冊だと感じるでしょうか? 僕は本著を読了し、逆に夢がある一冊だと感じました。だって、「凡人じゃ生きていけないよ!」とムチを打つ指南は多けれど、「凡人でも生きていける道があるよ」と示してくれる本著は数少ない。実に豊富な可能性を提示してくれているなぁと。

そうやって凡人道に甘えていると、ハードモードな世の中でサバイブできないよ、と感じるでしょうか? いやいや逆でしたね。凡人が勝手に成功者を身近に感じ、「俺もワンチャン、狙えんじゃね?」と、それまでの生き方を捻じ曲げた結果、その後に巻き起こるストーリーは、誰も保障してくれません。もちろん、誰も責任を取ってはくれません。

取り返しのつかない状態に陥った後に気づくくらいだったら、ハナから凡人道とは何ぞや、を知った上で、自分なりの凡人道をコツコツ歩むことのほうが、よほど満たされた人生を生きられるんじゃないの。

昨今の「煽り」多きビジネス書や自己啓発本の「完全に真逆」を指南するのが本著。だからこそ、押さえておくべき一冊だと思いました。
よく、「一方の言い分だけを聞いてちゃダメだ。双方の言い分に耳を傾けなきゃ」なんてことが言われますが、それと同じ。「煽り」だけじゃダメですね。「冷静」な判断ができるようになっておかないと。

本著はそんな「冷静」な役割を担う重要な一冊だと。

近頃、主流になっているオンラインサロンやコミュニティビジネス。自分の人生を豊かにする選択肢だと思います。そこに属することで、自分自身が満たされているなら、それは本人の生き方として正解に違いありません。

ただ、そこに属しつつも、「本当の自分はいったい何がしたいのだろう?」という自問自答は続けたほうがいいだろうなと、本著を読んで感じました。

コミュニティには支援というものが存在し、そこにはヒエラルキーも存在する。必然的に「前に出ないタイプの人たち」は、ヒエラルキーの上層には位置できない。すると、上に鎮座する人たちよりも支えるという負荷が増してしまう。これは人間が集団を形成した際に、必ず起こってしまうことでしょう。

ただし、オンラインサロンやコミュニティは、自分の自由意志で抜けることも可能。そういう選択肢は常に用意されています。なので、決して強制ではないし、続けなければならない義務もない。だからこそ、

自分が何者になりたいのかを見つめ直し、自分が存在すべき正しい場所、というものを見極めることが、自分のペースで生きられる秘訣。

だと、思うわけです。

ミュージシャンは才能があるからなれるもの。だから、憧れであって目指すべき存在じゃない。スポーツ選手は、肉体的に優れたものを持って生まれた人だけがなれるもの。だから、憧れであって目指すべき存在じゃない。

じゃあ、ビジネスパーソンは?

仕事って誰しもが従事するものだから、同じビジネスという世界に身を置いている成功者の姿は、ミュージシャンやスポーツ選手たちと比べると、どうしても身近に感じてしまう。ワンチャン、狙えそうな気にもなってしまう。

それに加え、自らで発信できる世の中になり、インフルエンサーになれる可能性だって信じてしまうだろうし、無料のツールを駆使することで、コストもかけずに活動ができてしまう

誰しもが成功できそうな気になってしまう──

でも冷静に考えてみてください。事実、成功者はごく一部。類まれなる能力を持ち合わせ、環境・人脈・お金・チャンス、いろいろなものの巡り合わせによって成功を掴んだはず。

基本的には真似できないし、再現性のない成功なんですよね。

本著は決して冷めた目線で語られる書籍ではなく、実に温度を持った一冊。「幸せを感じる心」を手に入れた人たちが、最終的にはどうなっていくのか。ひろゆきが考える方法論の末に待つ未来像も描かれています。

とは言え、そんなひろゆきも天才だ。凡人との差は圧倒的だ。だからこそ、凡人は凡人なりに凡人道を見つけなければならない。

過熱気味なビジネス書・自己啓発書の業界において、対極とも言うべき「冷静」な視点。自分の中に数ミリでも「盲信している何か」があるのならば、確実にその目を覚まさせてくれるはず。

狭くなった視野が捉える「成功」という道は、実は自分にとって誤った道であり、実は凡人道という、だだっ広い道こそが「成功」への近道なのかもしれない。


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