アジフライの下剋上
揚げ物好きなんですけど、その中でも特にパン粉スタイルのいわゆる、フライがお気に入りです。
そんなフライものって、なんとなく序列みたいなものがあると思いませんか。
🔥フライの順列
たとえばお肉系。とんかつが一番ポピュラーだと思いますが、その中でもやわらかなヒレカツは上品なイメージがあって、パワフルなロースカツより扱いがワンランク上な気がします。
チキンカツはとんかつより庶民的な感じがして、ビフカツは、おハイソ。豚や鶏よりお肉として高価な牛なので、この印象はあながち間違いでもないのではないでしょうか。
フライの材料はお肉だけではありません。魚介類も定番の素材です。
白身フライにサーモンフライ、イカフライにホタテフライと数ある中で、シーフードフライの頂点は、やっぱりエビフライでしょうか。タルタルソースを添えれば、無敵のチャンピオンです。
🐟魚料理はどんな順番
そんなシーフードフライの中で、ちょっと不思議なポジションにいるのが、これ。
そう、アジフライです。
お魚料理を見てみると、たとえばお刺身。トロにまぐろは人気の高級素材。サーモンは子どもから大人まで人気が高いですよね。それから鯛にヒラメに寒ブリといった白身もファンの多い高級魚。お寿司のネタも、その順列はお刺身に準ずる印象です。
焼き魚になると、高級感のあるのは白身でしょうか。和なら鯛の塩焼き、洋なら舌平目のムニエル。煮魚は金目鯛にかれいと、こちらも白身。
🐟アジの大躍進
そんな中、一歩引いたポジションにいるのが、いわゆる青魚。鯖にイワシにサンマにアジ。お刺身にしてもお寿司にしても、焼いても煮付けてもおいしいしみんな好きだけど、高級魚ではなく、どちらかというと親しみやすい庶民の味という位置づけに思います。
ところが、ひとたびフライの世界に目を移すとどうでしょう。
白身フライ、サーモンフライ、いろいろ魚フライはあるけれど、急にランクアップする青魚がいませんか。そう、それがアジフライ。
アジフライ定食といえば、魚フライ定食の中でも、エース級の人気ですよね。これはまさに下剋上。大躍進です。
🔪つくって探ろう、その秘密
そんなアジフライ、さっそくつくってみようじゃないですか。そしてその下剋上の秘密を探ってみたいと思います。
ぶじ解明できた暁には、イワシやサンマ、イカたちにもランクアップの参考にしてもらえるかもしれません。もしそうなれば、シーフードフライの世界は戦国時代に突入することでしょう。
🐟材料(1皿分)
・アジ切り身…2枚(1尾分)
・パン粉…適量
・天ぷら粉…適量
・水…適量
今回は三枚おろしのアジが売ってたので、それを使います。
けっこう大きなサイズ感ですね。さっと水洗いしてから、キッチンペーパーで優しく包んで、水気をしっかり拭います。
もうすこし小ぶりなら、尻尾をつけたまま開いたものでもOK。そのほうが、お店のアジフライっぽいビジュアルかもしれません。
🐟衣はいつもの天ぷら粉
衣はトケイヤkitchenいつもの、水で溶いた天ぷら粉、パン粉の順に。
小麦粉と溶き卵をくぐらせるのも定番ですが、天ぷら粉を使うと、卵液が余ることがなくて、無駄を省けるのでおすすめです。
衣をつけたら、揚げ揚げタイム。
🔥からりと高温ふっくら仕上げ
火どおりのいい素材なので、高温で揚げていきます。
衣が固まってきたら、上下を返してもうひと揚げ。
ふっくらと揚がったら、しっかり油を切ります。
🙌アジフライ完成
付け合せはもちろん、千切りキャベツメインの生野菜。シーフードフライの定番、タルタルソースも添えてみました。
さあ、いってみましょう。
ひと口がぶり。さくっ。衣のさくさくの中には、ふっくらしたアジの身。
ではタルタルソースをちょんと載せて。うん、いいですね。タルタルソースは、シーフードフライのシーフードフライたるアイデンティティの確立をサポートする存在なのかもしれません。
ある程度食べたら、ウスターソースや中濃系のソースをかけて、からしを添えるのもいいですね。タルタルだけで食べきるなんてもったいない。
あ、お醤油派がいるのも、もちろん存じ上げてますよ。
味変しつつ、アジフライ堪能、アジだけに。
🤔下剋上はなぜ起きた
定食屋さんにいっても、洋食屋さんにいっても、アジフライは単体でメニューになっているお店が多いと思います。つまりアジだけで、メニューが成り立っているわけです。
それと比べて、白身やサーモンはサービスランチ的な盛り合わせだったりしませんか。シーフードフライの王様がエビフライなら、クイーンはアジフライなのかもしれません。
白身やサーモンからすると、不可解な下剋上、立場の逆転でしょう。
この下剋上はなぜ起きるのか。ひとつの仮説としては、白身やサーモンと比較したときのアジの個体のサイズが理由なのかもしれないと思うことがあります。
アジは小ぶりのものなら開いて1尾、今回のような大きめサイズなら、3枚おろしの半身をフライにしますよね。それと比べて、サイズの大きいヒラメやタラ、サーモンは切り分けた切り身をフライにします。
ここで思い出してみてください。シーフードフライの王様エビフライはどうでしょう。1尾まるごとフライになります。王様が1尾なら、それに比肩せんとするアジもそのサイズなのです。そこになにか、下剋上の秘密は隠れていないでしょうか。
❓アジは語らぬ
だがしかし。戦国時代、一介の油売りから時代のメインステージに躍り出た、美濃のマムシ斎藤道三は、その出自が明らかでないとされています。
そう。下剋上は、大名家に生まれたのではない何者かが、権力奪取成功してから成り立つもの。つまりは結果あってこその事実譚。それまでの来歴は不透明なものなのです。
アジフライも息をもつかせぬ激戦の戦場を駆け抜け、ときには智略をめぐらせ、謀略の限りを尽くしたのかもしれません。
そして気が付いたときには、今の場所にいました。アジフライはただ遮二無二そのときそのときを生き抜いてきたのです。余計なことを語る暇もなければ、必要もなかったでしょう。ただ強いものだけが生き残る。生き残ることだけが認められる術だったはず。
結果的にアジフライがたどり着いた、そのポジションに気付いたものが、それを下剋上と評したのです。
その鍵はアジだけが知る、永遠の秘密。アジフライが語らぬ以上、我々にできるのは、ただ推測することだけです。明確な答えを期待して待っていた、イワシやサンマには気の毒ですが、こういうしかありません。
─みずからの居場所は、みずからの手で切り拓くものなのだ─と。
そういえば、以前このシーフードフライの不思議な位置づけ現象について、逆の視点から考えた記事を書いたことがあります。
よかったら、白身フライ派の意見も聞いてみてください。ちょっと切なくて、でも最後に白身フライが輝くお話です。