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秋の鳴子温泉湯治④【高東旅館で太極拳を】

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 今回の旅の本懐として、高東旅館で企画している太極拳への参加があった。御主人からこのドラフト案を伺ったのは、昨年末のことだったと記憶している。

 太極拳をご指導いただくのは、元々宿の常連であるTさん。あるとき高東旅館に宿泊された際、何気ない会話が端緒となり、Tさんが太極拳の準師範であることを御主人が知ったという。

 「うちの常連さんで太極拳の先生がいて、今度一緒にやってみませんか?」

 私は二つ返事で参加をお願いした。
年々壊れて行く身体、激しい運動はできない。短見ではあるが、太極拳は中国で行われている健康体操のイメージ。ゆっくりとした挙措で、呼吸を整えながら低重心の運足。
 
 湯浴みの間に無理のない運動。私にとっては渡りに船の話だった。堅忍不抜な高東旅館の御主人。必ず実現されると思い、私は待った。すると半年後、本当に開催の知らせを聞いた。


 まずはスモールスタートで、高東旅館の「健康娯楽室」にて開催。
正式にオーガナイズされている訳ではなく、宿泊者の中で「やってみましょう」という具合だった。Tさんも以前から私のブログをご覧いただいていて、TwitterのDMで日にちを合わせた。


 開催当日

 定刻になり健康娯楽室へ行くと、ソファーの上に菩薩の如く座禅を組んでいるT先生の姿があった。締まった体躯、一目で分かる謹厳実直なお人柄。私は安堵した。

先生 「Tと申します。初めまして。お体大丈夫でしょうか?」
私  「ヨシタカと申します。お会いできて光栄です」
先生 「ご無理をなさらぬように。ゆっくりとやってみましょう」
私  「よろしくお願いいたします」

 参加者は、以前にも何度もこちらでお会いしている常連のNさんと私、ご主人は通院の都合があり3名での実施となった。

 小柄だが屹立としたTさん、質実剛健を体現するような佇まい。細身だが、日々の稽古で鍛えられているのが分かる。

 優しい号令の下、稽古は進む。

先生 「太極拳は健康体操です。点数を競うものではありません」
   「人によって関節の可動域があるので、無理をせずに」
   「目を閉じて、ゆっくりと、深い呼吸を意識してください」
   「普段気に留めない音が聞こえると思います」

 確かに聞こえてきた。これは山の音だ。草木が秋風に揺れる音、虫と鳥の声が聞こえてきた。娯楽室の前の田んぼ。黄金色に染まった稲穂が広がり、奥には緑の野山。大地と、動物と虫と人間、一緒に呼吸をするようだ。

 私は運動不足をすぐに露呈し、足がプルプルと震えてきた。だがほど良い筋肉痛が心地よかった。これは紛れもなく「温泉療養プラン」だ。
 汗を流した後は、源泉にドボン。不思議と、疲れは残らなかった。

 2日目は高東旅館の御主人と3人での稽古。

 前日よりも天気が良く、大きな窓から風が入る。運足をしながら、私は以前に御主人から伺ったとある話を思い出していた。

 
 遡ること20年ほど前の話、観光一辺倒の観光協会に対し風穴を開けるべく、温泉病院と連携を取り「温泉療養部会」を御主人が立ち上げたという話。

 穏やかな表情の奥に光る鋭い眼光、菅原文太を想念させる短髪。
周りの宿からも一目置かれる御主人。改革派の急先鋒として陣頭指揮を執っていたのが想像できる。だが行政を巻き込んだこの取り組みは、甲論乙駁の末、大崎市の合併話に飲まれ立ち消えてしまったらしいのだ。

 あれから十数年、今回行われた「太極拳教室」。1時間の稽古の予定が90分を過ぎる、最後は常連のお客さんを巻き込んで娯楽室で談笑。2時間が経過していた。


 この太極拳稽古を最も喜んでいたのは、他の誰でもなく御主人だったのかもしれない。私も仕事と通院の都合があり毎回の参加は出来ない。だが、可能な限り足を運びたいと思う。

 御主人、先生、ありがとうございました。

つづく
                           令和4年9月22日

※太極拳は毎月20日、高東旅館の健康娯楽室にて行われる予定です。参加費は無料です。

健康娯楽室にて開催
山の音が聞こえます
ゆっくりとした呼吸、整います
稲穂が垂れ始めた高東旅館の田圃
※4月の写真です
菜の花畑で太極拳も良さそうですね
桜並木を見ながらも気持ちよさそうです
真冬は氷原と化す
疲れたら源泉にドボン
筋肉痛が残らないから不思議です

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