猛暑の新潟湯治⑤【上越の旨いもの~ノンオイル生活】
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初めて利用する湯治宿では、まずは台所周りと冷蔵庫をチェックし、その後八百屋やローカルスーパーに買い出しに行く。地産の食材に目を光らせ、滞在期間中に消費できるだけの量を購入し、基本は3食自炊をする。
滞在していた出湯温泉は、新潟港や寺泊なども車で行ける距離で、海の物も購入する算段だった。だが珍生館に到着して確認した炊事場は非常に簡素で、とてもおさんどんが出来る感じではなかった。
「やってしまった…」と思ったのは一瞬。
私がこの時点で持っているアイテムは、弥彦で購入した「伊弥彦米(コシヒカリ)」。それに日本一の納豆「大力納豆」、そして道中五泉市の養鶏所「キムラファーム」で買った生卵と、その隣の「大隣直売所」で買った地元産のおくらだけだった。
企図せず、手元にあったのは四番バッターばかり。全て新潟産の食材だ。
調理をするのも急に面倒になり、今回はフライパンを出さないことにした。そもそも夏バテ気味で、重たいものを食べるのも気が進まなかった。
珍生館では女将さんに頼むと源泉をペットボトルに入れてくれる。
宿のダイニングの真下から出ているラジウム泉は癖がなく、上質な生活水として、そして飲料としていくらでも使用できる。私は2ℓのペットボトルを毎朝3本分拝受した。
この源泉で米を研いで炊き上げ、そして赤玉をボイルしラジウム卵を作る。ボコボコ沸騰した鍋を火から外し、12分放置しておくと温泉卵完成。ピンで穴を空け源泉を吸わせた(意味があるかは不明)。
食べるのは所謂ばくだん丼。車で10分ほどの「せいの」というスーパーで明太子やマグロたたき、そしてローソンでとろろを購入。全て新潟産とはいかなかったものの、これが美味くないはずがない。
出湯温泉から歩ける距離に「うららの森」という直売所もあり、そこでも地元のえごまのふりかけを購入。酷い時は卵かけご飯にパラパラとえごまを掛けるだけというお粗末っぷりだったが、素材の旨さを堪能する日々だった。
到着から3日間は、隣の部屋で湯治をしているお爺さんと一緒だった。
こちらの方は2食付きで入られていて、たまに会釈をする程度だったが、一度炊事場に立っている時に声をかけられた。
男性 「毎日自炊していてえらいね、美味しそうだ」
私 「ええ。凄く美味しいですよ。並べただけですけどね」
本当に丼のご飯の上に食材を乗っけただけ、謙遜しても仕方ないので、正直に心緒を明かした。珍生館には自炊道具は一式揃っていたが、明太とおくらをカットするために包丁と俎板を使用しただけで、菜箸すら登場しなかった。
持ち合わせている調味料も醤油だけを使用し、塩はおくらの板摺に使うだけに留めた。
当然だが、体重は日に日に下がっていく。
ラジウム泉に一日3時間近く浸かり汗を出し、ノンオイルで生活をしていれば当たり前だ。小さいキッチンがもたらした副産物は予想外の効験で、身体が軽くなり痛みや怠さも引いていった。
こちらに来る前に色々とグルメサイトでラーメンや蕎麦を下調べして乗り込んだが、結局一度も外食せず、決まった時間にほぼ同じ食事を喰らう日々。不思議と全く飽きることなく、1食250円程度の食費に抑えたが何とも豪奢な生活に思えた。
「ずっとこんな生活でもいいな」
そんなことを考え出した最終日前夜だったが、翌日チェックアウト後には当たりを付けていた「ひさご」というラーメン屋で、ネギラーメンをずるずるやってしまった。
つづく
令和4年7月17日
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