早春、南伊豆逗留記②【旨いものを格安で】
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部屋に荷積みをし、今度は食材の買い出しへ。
一週間のつましい自炊生活、安易に道の駅やスーパーで購入するのは少々早計だ。
放っておいても観光客が来るそれらよりも、「良い物を安く」。
海あり山ありの下田。この地に宿を構えて150年の老舗宿にいて、土着民に聞き込みをしない手はない。女将さんにあれこれ聞くと、案に違わずご丁寧に仕入れ先を教えてくれた。
勿怪の幸い。何と数年前に隣町の松崎で休田を購入し、息子さんが稲作を始めたという。「にこまる」というブランド米が育ち、周囲の直売所にも卸しているそうだ。
キロ単位の販売となり、長期滞在客には直販するとのこと。勿論100%純米だ(スーパーで売っている米は廉価品が混交されているのが通例)。いとも簡単に主食をゲット。
さあ次、伊豆と言えば「わさび」。日本全国の栽培面積の半分以上を占めるという静岡県。伊豆市だけでも300以上の農家が犇めき合うというわさびワールド。
中でも伊豆七滝ループ橋の下にある、「かどや」は有名店で知られる。
名物のわさび丼はかつて400円だった記憶があるが、とあるグルメ番組で井之頭五郎が食すとたちまち650円まで値上がり。それでも尚行列が絶えない店となってしまった。
一本売りの値段もピンキリだが、上物は2,000円近い値が付いてしまい、とても手が出ない代物に。
私 「女将さん。この辺りで良いわさびが手に入る店ないですか?」
「わさびが好物で、鮫肌も持って来ているんですよ」
女将 「知り合いの農家がいるから、安く譲ってもらえるよ」
私 「本当ですか??」
女将 「必要な分言ってくれれば」
私 「嬉しいです!本当に助かります!!」
射幸心がなかったかと言えば嘘になるが、100点以上の答えが返ってきた。
私 「ひものはどこが美味しいですか??アジとかでいいんですが、」
女将 「外浦海岸の方だけど、万宝は美味しいよ」
「うちの常連さん、店まで行って一日中遊んでたりするの」
私 「そちらも行ってみます!」
「ちなみに野菜はどこで?」
女将 「ペラペラペラペラ」
鉱脈を次々と当てて行くようだ。目鼻が付いたところで、下田の街へと繰り出した。
最初に寄った万宝商店は、本当に砂浜近くにあった。
シーズンオフの海には人影はなく、眼前のコバルトブルーと波音だけが深遠に続く。護岸に腰を降ろし、ボーっとしていると30分が過ぎた。
山派か海派かと問われれば、今でも真っ先に「山」と答える。
だが、「日本にこんなにも美しい海があるのか」と驚嘆するほど、この砂浜は素晴らしかった。海水浴客で溢れていたら、少し印象は変わっていたかもしれない。
万宝へ入ると店主の息子さんが炭で干物を焼いていた。
こちらはイートインスペースもあり、炉端焼きも出来るようだ(現在は感染拡大防止のため休止中)。冷凍庫に並ぶのは、金目鯛に伊勢海老にのどぐろ・・・いやいやそんなものを買える訳もなく。
「あのー、アジとかってありますか?」
息子さんが裏の冷凍庫から色々持ってきた。200円台~のアジやサバを購入。ネットで出ている品以外にも店内には多く商品があるようだ。一日一尾も食べられれば上等。
下田の市街地に戻り、ペリーロードへと向かうと裏道はシャッター街と化していた。その一角、以前から当たりを付けていた「山田鰹節店」という専門問屋を発見。店に入ると結構なご高齢の店主が出てきた。加工品やら顆粒に粉末、だが目を引くのはやはり削りたての節。
私 「これ、美味しいですか?」
主人 「ご飯にかけるのが一番旨いよ。醤油を垂らしてね」
これから毎日食べることになるわさび丼。下敷きに必須。味変で出汁茶漬けにしてもよさそうだ。
その他材料、納豆や野菜ジュースなどは「下田とうきゅう」、「農産物直売 所旬の里」にて地元下賀茂産の生卵と白菜漬けを購入した。
一通り揃ったところ横川方面へと帰って行く。
宿を少しオーバーランし、到着したのは松崎町との境にあるバサラ峠近くの「マンダラ」というレストラン。随分前に廃業してしまったようだが、この敷地内に「大師の聖水」という湧水処があった。
旅と湧水は水魚の交わり。
私は湯治に出ると必ず近くの湧水処を調べ、ポリタンクで採水をする。飲用としては勿論、米炊きや料理にも使用する。消毒液の入っていない天然水、無料の贅沢だ。
さてこれで全てが揃った。やはり有難い13時チェックイン。一式揃え部屋についてもまだ15時。ここでファーストダイブを決める。
千代田屋旅館の源泉は「相玉7号・8号」の混合泉。癖のない石膏臭が心地よい。完全貸切の二つの風呂。2~3人サイズの檜と御影石、私はいつも御影石の方に入る。
千里一望の絶景露天でもなければ、内装意匠が細工された内湯もない。だが常時独泉の小さい湯船に身を沈める瞬間もまた、この上ない贅沢だ。
令和4年3月3日
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