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夏の湯治⑩【珍湯新津温泉~出湯温泉】
<前回はこちら>
半年振りの出湯温泉へ。向かう道中、全国屈指の個性派珍湯に寄った。
新潟中心地から暫く南下すると、旧新津市(新潟市現秋葉区)に入る。後に平成の大合併により吸収されてしまうが、かつてはこのエリアは日本一の油田として名を馳せた地。
もう採掘は20年以上前に終了し、産業としての役割は終えている。だがその名残を体感できるのが「新津温泉」。こちらも鄙び系を嗜好とする者にとっては欣喜雀躍の一湯が。
恐らく、カーナビでそこを目指しても通り過ぎてしまうだろう。ショッピングモールも並ぶ街のメイン道路を走る。スピードを落とし、目を凝らすと、小さい看板「新津温泉」の文字が。
こんなところに温泉があるのか?そんな不安をいだきながら裏道へ。坂を下りると砂利地の広い駐車場に出た。
駐車場の右奥、廃墟とも見紛うようなオンボロ小屋。壁には「炭酸食塩泉」の文字が。こちら油臭マニアなら知らぬ者はいない超名湯。駐車場からうっすらその激臭が漂う。
ここの源泉は石油開発の際に掘り当てたもの(月岡温泉も同様)。数年前に初めて入った衝撃は、今も忘れない。
長い廊下を渡ると最奥に内湯扉が。こちらも内湯一つしかない共同浴場スタイル。地元民達に紛れダイブを決めた。湯は41度ほどか、纏わりつくようなとろみのある源泉。皮膚病の治療に訪れる方も多いというのも納得だ。
地元民3人と同浴だった。
私 「凄い匂いですね」
男性A 「そう?この温泉そんな臭いする?」
男性B 「まあ、確かに言われてみればするような」
男性A 「俺は感じねぇなあ」
私 「・・・」
30分程で上がろとすると、
男性A 「もう帰っちゃうのかい。俺たちはみんな1時間以上は入るよ」
私 「次がありますので、、」
毎日入っている地元民達は、その臭いの強烈さにもはや気付くこともないようだ。シャワーで身体を良く洗い流し退湯したが、車に戻っても全然抜けない。旅館に行き、全身を洗体しても尚残る。
着用していた服、持って行ったハンドタオルまで凄い臭いになってしまった。
高友旅館(宮城東鳴子)、三大薬湯松之山温泉(新潟)、巣郷温泉でめ金食堂(岩手)も凄かったが、それらとは比較にならない油臭パワー。
このような珍湯は何故かまた行きたくなる。
意気揚々とやってきた新津温泉。
が、、、着いてみると県外の方お断りの文字。車は一台も停まっていないようなので、一応受付の方に話しかける。
私 「すいません。どうしても入れてもらえないですかね?」
女性 「県外はダメです、今朝も所沢から来た方を断ってます。あなただけ特別は許されないの、ごめんなさい」
「いくらSNSで不親切と呟いても構わないわ、町の方々のものだから」
私 「そうですか、、」
意志は強固だった。
去年、緊急事態宣言解除後にある施設の女将の対応が話題となり、テレビニュースにも取り上げられる事態となった。特定の都道府県から来た客を門前払い。その態度が利用者の反感を買い、SNSから広まってしまったのだ(ちょっと言い方がキツかった)。
「SNSで不親切と呟いてもいい」、炎上騒動を覚悟の上での応対。強気とも取れるが、毎日入っている地元客を案ずる気持ちを汲むと、これ以上粘ったところで女将さんを困らせるだけだ。
だが、代わりにと色々と湯に関する情報を教えてくれた。
この源泉は間歇泉。4か月に一度、昼夜問わず数十分吹き出るそうだ。かつては噴水の様に自然動力に任せて上空に打ち上げていたらしい。
だが近隣からのクレームもあり(何せ石油同然、洗濯物が・・・)、現在は湯口に手を加え、真横に噴き出るように改良したという。
湯小屋に長方形の吹抜けがあり、そこから玄関手前までの10数mドバドバと飛散するという。次いつその時が来るのか、女将さんでも分からないという。
宿望叶わず踵を返す。いつか、その時に立ち会える日を夢見て。
15時、到着したの出湯温泉「大石屋旅館」。半年前に湯治で訪れた思い出の宿に再投宿。元気な女将さん、相変わらずだ。背中を追い部屋へと向かう。
「前回もこちらの部屋でしたよね?」
あの時は客は私一人だった。ヨロヨロの体で村杉温泉へ出ていく姿を見送ってくれた女将さん。私のことを覚えていてくれたようだ。
外観からは想像できないほど館内は奥広に伸びており、かつては巡業後の力士が訪れたそうだ。有名力士の手形やタレントさんのサインが並ぶ。
年季の入った外観とは裏腹に、綺麗にリフォームされた部屋。ウォシュレット付きトイレや洗面台が同居とは、湯治場に慣れている私からすれば有難い。
荷物を置き半年振りのに華報寺へ、帰還を報ずる合掌。
共同浴場は夏季とあって源泉(39度)はほぼ加温されていないようだ。前回は身体の痛さで湯を堪能する余裕がなかったが、今回は大丈夫。1時間の入浴でジワジワと効かせた。温湯好きには堪らない一湯。
新津温泉での失湯を忘れさせる美しきダイブだった。
本旅ここを最北端に徐々に南下。夏の湯治も後半戦に入る。
令和3年6月23日
<次回はこちら>
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