真夏の温泉ワーケーション④【源泉神社参拝】
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磐梯熱海の温泉街中心を流れる五百川。室町時代、京都から見て500本目の川という伝説から命名されたという(真偽のほどは不明)。温泉街の西方、川に架かる橋を渡ると「源泉通り」という道に入った。
大型の旅館が立ち並ぶ中の一つ、かつての屋号から改称された形跡が残るホテルにチェックイン。東京に本社を構える旅館再生事業者によりリノベーションされたようだ。鉄筋コンクリート造、外観は年季が入っている。
館内は綺麗で、ビジネスホテルを彷彿とさせる近代的な受付だった。案内された部屋は8畳間の和室。一人旅の私にとっては広すぎるほど。小さいが板張りの縁側まであり、テーブルとイスが備えてあった。
これはテレワークの際には有難い装備。全身痛を持つ私にとっては、畳に胡坐、座卓での長時間作業はなかなかの苦行。すぐに肩や背中に痛みが出てしまうのだ。
その他、洗面台、ウォシュレットトイレ、冷蔵庫も部屋付きだ。
古くから残る湯治宿は、間仕切りが襖だったり、洗面台やトイレも共用が当たり前だったりする(まあ、そんな宿が好きだったりするが)。テレワーク、ワーケーションに向くのは圧倒的に前者と言ってよいだろう。
荷物を置いて一休み、次はWi-fiチェック。これはテレワーカーにとっては肝となる重要なファクターだ。予約サイトの「無料Wi-fiあり」の文字を鵜吞みにすると悲惨な目に会うことも。ロビー周辺しか飛んでいなかったり、部屋に届かなかったり、作業途中でブツブツ切れてしまうことは多々ある。特にフリースポットは危険だ。
テレビ会議中に通信が切れてしまい、慌ててスマホの4Gでカットインする羽目に。都心の快適な通信環境で働いている方々にとっては、検索スピードが鈍くなったり、ページ移動が遅いだけでも相当なストレスになってしまうだろう。
今回選んだ宿は、ビジネスプランなども打ち出しているため、通信状況は快適だった。
私は数週間単位で湯治に出ることも多く、ポケットwi-fiをレンタルし持ち歩いている。だが、まだまだ地方に行くと圏外のエリアが多い。格安スマホに切り替えられないのも、そんな事情があるため。
「全室Wi-fi完備」などのワードを探すか、予約サイトの口コミにも割と通信状況に関するコメントも確認が出来る。現地でバタバタしないためにも事前に調査をしておいた方が無難だろう。
ホテルの湯には初日の夜に軽く浸かっただけ。こちらは50度の市営管理の混合泉。PH9.0のアルカリ性で、すべすべ感は感じられる。湯の使用方法に関する掲示は確認出来きず、消毒液臭が少し。湯巡りを趣向とする者でなければ気になるほどではないだろう。多くの方が「いい湯」と感じるはずだ。
私はシンボリックな共同浴場がある温泉街では、旅館やホテルの湯に入らないことも多々ある。野沢温泉や渋温泉(長野)、かみのやま温泉(山形)などなど。安価、または無料で入れる浴場に洗い具を持ち込み、地元民に混ざり洗体する。
どこの温泉街でもそうだが、共同浴場の湯が最も良質である確率は非常に高い。そのため宿選びも、快適さや清潔さを重要視するようになっている。湯に入りたければ、好きなだけ共同浴場にいればよい。
一日の始まりは源泉神社の参拝から。この敷地の地下より源泉が湧出しており、謝恩から祭祀されたというこの神社。まだ陽が昇る前、宿近くの裏山入口に赤い鳥居を発見、石段を登ると本殿があった。
歴史のある温泉地には「温泉神社」や「温泉寺」がある。私は湯治の際には、毎朝参拝することを怠らない。雨が降ろうと、雪が降ろうと。
かつては病の平癒を願い、
「治りますように」
「どうか治してください」と祈念した。
だが今は違う。前日発作が出なかったこと、無事にここに立てたこと、そして今日も源泉に入れること、「有難うございます」。感謝の気持ちを拝礼に込める。
10年間渡り歩いた数々の病院、時に吐かれる医師からの心無い言葉。処方される効かない薬、心身の摩耗は激しかった。今日に至るまで、何度も激痛により絶望の淵を彷徨い臥床にのた打ち回った。
投薬地獄、PTSD、フラッシュバック・・・、ボロボロの状態で温泉へ向かう。源泉だけは、いつも私を救ってくれた。
長年健康診断で異常が出る低白血球。「上げる方法はない」と言われていたが、湯治により数値が倍になり正常値に。一時基準値の数十倍もの数値をたたき出した「貯蔵鉄」という血液異常も、湯治によって収まったこともある。
今回は、身体の焦熱地獄と不眠症状。そして未だ原因不明の全身痛。
「大丈夫、きっと治る。」
「これまで、何度も立ち上がってきたじゃないか。」
参拝を終えると今日もまた、「湯元元湯」を目指しヨロヨロと歩いて行く。
令和3年7月22日
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