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No.1.1 わたしは「トラウマ」を負っているのか?


 色々とnoteに書き殴ってきましたが、結局のところ自分で自分をどうにかするしかないんだな、と思い始めました。
 当面の目標を、「自分を認める」「安心感を得る」ということにして、色々勉強していこうと思います。
 専門家ではない素人が書いていることですので、誤りなどあるかと思いますので、その点ご了承ください。また、新しい情報を追加することがあります。


 というわけで恐らくわたしの不安の根本にあるだろう「トラウマ」について、まずは調べたことと自分のことをまとめたいと思う。

複雑性PTSD(ハーマン、コーク)

 「PTSD」という概念はベトナム戦争後の帰還兵たちの間で見られた精神症状から確立された概念である。これは自分自身が「これはおかしなこと/非常事態である」と認識しながら危機的な状況に遭遇し、結果として様々な精神的問題を抱えることになるものだ。一方で、わたしが「トラウマ」と感じていることは、「自分がおかしな状況にいる」ということを認識しないまま被害を受ける、という点で先に挙げたPTSDとは異なる。ハーマンはこのようなトラウマについて「複雑性PTSD」という概念を提唱した。さらにベセル・ヴァン・デア・コークが診断基準の試案を作成した。以下はその説明になる。

A:感情覚醒の統御における変化。
 慢性的な感情(とりわけ怒り)の調節障害、自傷や自殺行動、衝動的で危険な行動の制御障害
B:注意や意識における変化。
 健忘や解離
C:慢性的な人格変化
 自己認識の変化、加害者に対する認識の変化、人が信じられない、加害や被害を反復してしまうという対人関係の変化。
E:意味体系における変化
 絶望感と希望の喪失、以前の自分を支えていた信念の喪失

白川美也子著「赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア」P37より

 まず、この診断基準試案と自分の状態を比較してみる。Aは概ね当てはまる。自傷、自殺企図ともに行ったことがあるからだ。ただこの半年は実行に移すほどには至っていない。
 Bは少し難しい。そもそも健忘と解離とはどのような状態だろうか?

健忘とは、きっかけとなった出来事の数秒前、数日前、さらに前、またはその後に起こった体験や出来事を思い出す能力が部分的または完全に失われる障害です。


解離症(解離性障害とも呼ばれます)の人は数分間、数時間、ときにもっと長期間にわたって、自分が行った活動を完全に忘れることがあります。一定期間の記憶が欠落していることに本人が気づいている場合もあります。さらに、自分が自己(すなわち、記憶、知覚、自己同一性、思考、感情、身体、行動など)から切り離されている(解離している)ように感じることもあります。あるいは、周囲の世界から切り離されている(遊離している)ように感じることがあります。そのため、自己同一性(アイデンティティ)の感覚、記憶、意識などが断片化しています。

MSDマニュアル家庭版より

 健忘は少しだけあるかもしれない。小学校中学年頃の記憶が思い出せない。もちろん幼い頃の記憶だからというのもあるかもしれないが、学校での思い出はあるのに家庭でどのように過ごしていたのかほとんど思い出せないのだ。ちなみに母親も覚えていないらしく、本当に覚えていないのかすら確かめられない。
 解離については、「周囲の世界から切り離されているように感じる」というのはあてはまる気がする。noteにいくつか記事があるように、他人と話している自分は違う自分のように感じられることがあるからだ。

 次にCである。わたしは頭痛持ちで、天気痛というやつだと思われるのだが、これが診断基準に当てはまるものなのかは不明だ。祖母の代から頭痛持ちらしいので、遺伝の可能性も高い。

 Dに関しては心当たりがある。まず、「自分に生きている価値がない」と罪悪感を抱きやすい。それに人は信じられない。これらはnoteの記事にもいくつか書いている。加害と被害の反復に関しても、元恋人がモラハラに近い態度を取っていたことがあり、まるで父親と母親みたいな関係だと思ったことがある。

 Eについても当てはまると感じる。確かに楽しいことはあるかもしれないけれど、それは一瞬で人生は苦しいものだと感じる。死んでしまったほうが楽だと思う。また、「以前の自分を支えていた信念の喪失」と書かれていて気が付いたのだが、幼い頃は母親に対してそれなりに信頼を感じていたような気がする。物心がつく前だと思うので確かなことは言えないけれど、母親は「傷つけてくる人」ではなく「わたしを裏切った人」と感じているから、もともとは信頼感があったのかもしれない。

 これらの診断基準試案を見てみると、わたしは複雑性PTSDの症状があると言える可能性が高い。

ICD-11における複雑性PTSD

 PTSD(心的外傷後ストレス症)はアメリカ精神医学会による精神疾患の診断・統計マニュアルDSM-5に記載されているが、複雑性PTSDについては記載されていない。DSM-Ⅳでコークの診断基準試案の記載が検討されたようだが、正式には採用されなかった。
 しかしICDというWHOが作製している診断基準では、ICD-11に複雑性PTSDが記載された。しかし最初に示したコークのものとは異なるようである。
 通常のPTSD症状に加え、感情の制御困難、否定的な自己概念、対人関係の困難が挙げられている。長文になってしまうので、診断基準を簡単にまとめたいと思う。

・極度の脅威や恐怖を伴い、逃れることが難しいか不可能と感じられる、強烈かつ長期間にわたるまたは反復的な出来事に暴露された既往。
・PTSDの中核要素を体験している
 ①心的外傷となった体験後の再体験
 ②心的外傷となった出来事の再体験を引き起こしそうなものの入念な回避
 ③現在でも大きな脅威が存在しているかのような持続的な知覚。
・感情のコントロールに関する重度で広範な問題。
 ①ささいなストレス因への情動的反応性の亢進
 ②暴力的な(情動面と行動面の)爆発
 ③無謀または自己破壊的な行動
 ④ストレス下での解離性症状
 ⑤情動の麻痺、特にポジティブな情動を体験できないこと
・自分は取るに足らない、打ち負かされた、または価値がないという持続的な思い込み。
・人間関係を維持し、他の人を親密に感じることへの持続的な困難
・障害は、個人/家族/社会生活、学業、職業あるいは他の重要な機能領域において有意な機能障害をもたらす。

ICD-11から筆者が改変

コークの診断基準試案にPTSD症状の中核要素を重視しているもののようだ。後半にある自傷行為や解離的な反応、自分への自身のなさやなどは最初の診断基準と同様あてはまる。また、実生活においても人が怖くて家から出られないときがあるなど社会生活に問題が生じる点も当てはまる。
 PTSDの中核要素も、父親に関する悪夢を未だに見ること、父親と戸籍上縁を切ったという回避行動、大きな音や声に過剰に驚くなど、当てはまっているように思える。
 ここからも、わたしは複雑性PTSDに似た症状を抱えているといえる可能性がある。

逆境的小児期体験(ACE)

 次に、逆境的小児期体験(ACE)について。ACEは小児期に体験した虐待や面前DV、養育者のうつ病やアルコール依存などが含まれている。ACEを体験した人がそうでない人に比べて成人後に身体・精神疾患を発症しやすいという研究があるが、それについては別の機会に書くことにして、ACEの調査内容について調べてみる。

18歳になる前に以下の経験をしていたか。
1.親か同居している大人から頻繁に、または日常的に罵倒、侮辱、悪口、屈辱を受けていたか? もしくは危害が及ぶかもしれないという恐怖を与えられていたか?

2.親か同居している大人から頻繁に、または日常的に押されたり、つかまれたり、叩かれたり、何かを投げつけられていたか?もしくは跡が残ったり傷ついたりするほど強く殴られたことはあるか?

3.大人か、少なくとも5歳以上年長の人間から性的に触られたり撫でられたりしたか、無理やり相手の身体に触らせられたことがあるか?もしくは触られそうになったり、不適切に触られたり、性的に虐待されたことがあるか?

4.頻繁に、または日常的に、家族のだれからも愛されていない、あるいは自分が大事で特別な存在だと思われていないと感じていたか?もしくは家族が互いに関心がない、親しみを感じていない、助け合っていないと感じていたか?

5.頻繁に、または日常的に、食事が十分ではない、汚れた服を着なければならない、自分を守ってくれる人がいないと感じていたか?もしくは親のアルコールか薬物依存により、面倒を見てもらえなかったり、必要なときに病院へ連れて行ってもらえなかったりしたと感じていたか?

6.離婚や別居、その他の理由によって実の親と別れた経験があるか?

7.母親(継母)は頻繁に、または日常的につかまれたり、叩かれたり、物を投げ付けられたりしていたか?ときどき、頻繁に、または日常的にけられたり、噛みつかれたり、拳や物で殴られていたりしていたか?もしくは繰り返し数分間にわたって殴られたり、銃やナイフで脅かされたりしていたか?

8.酒癖が悪い人、アルコール依存症者、または薬物を乱用する人と同居していたか?

9.家族にうつ病の人、精神疾患を抱えた人、自殺未遂を起こした人がいたか?

10.家族に刑務所に収監された人がいたか?

ドナ・ジャンクソン・ナカザワ著「小児期トラウマがもたらす病」より


 さて、これらの項目について自分自身にあてはまるか考えてみたい。ちなみに「はい」の数が多いほどACEスコアが高く、成人後の疾患リスクが上がるそうだ。

 1.について。父親が怒りっぽい性格だったため、いつ怒鳴られるかと毎日不安だった。「危害が及ぶかもしれないという恐怖」は感じていただろう。また、父親の思い通りの行動が出来なかったときは使えない、のろまだ、といった言葉をかけられたので「はい」という答えになる。

 次に2.について。「押されたりつかまれたり」がどの程度か分からないが、父親から少しでも離れて歩いたり邪魔な場所に立っていたりすると腕を引っ張られたり肩を押されたりすることはあった。出かけるときはほとんど経験している。なのでこれも「はい」だろう。

 3.の性的な虐待に関しては幸い経験したことがないので「いいえ」になる。

 4.は自分は家族の中で邪魔者で、何か親のためになることをしなければという考えがあった。また、父親はわたしの進路について全く知らなかったり、反対に母親は父親がどのようにお金を使っているかを全く知らなかったりと、家族はお互いに親しみや関心はなかったと言えるだろう。これも「はい」が答えだ。

  5.衣食住や教育はきちんと与えられていた。しかし「自分を守ってくれる人がいない」と感じていたのも確かである。困ったときに親に相談するということをほとんどしなかった。なのでこれは「はい」と「いいえ」の間くらいだと思う。

 6.両親との別離は経験がないので「いいえ」だ。(余談だけれど父親が出ていけばいいのにと常に祈っていた)

 7.母親は怒鳴られる、ドアを叩きつける、無視される、嫌みを言われるなどモラハラを受けていたが、暴力は受けていなかった(少なくともわたしの前では)。この質問の意図が暴力そのものにあるのかDV全般にあるのか分かりかねるので、言葉通りに解釈し「いいえ」とする。

 8.父親は酒癖が悪かった。特に外で飲んで帰ってくると恐ろしかった。ので「はい」が答えだ。

 9.こちらも自分を除いて当てはまる人がいないので「いいえ」だ。

 10.これも「いいえ」

 これらからわたしのACEスコアは4になる(もしかしたら5に近いかもしれない)。詳しくは別の記事に書く予定だけれど、そこそこ悪い数字のようだ。

発達性トラウマ障害

 ACEを経験した人は成人後にさまざまな疾患にかかることが判明したことから、DSMにこの概念を「発達性トラウマ障害」として載せようという動きがあったようだが、結果として現在もこの概念はDSMには載っていない。こちらもコークらによる診断基準試案があるため、一部簡略化して書いておこうと思う。

A.幼少期最低1年以上以下のことに暴露された
 ①対人的な暴力の反復的で過酷な出来事の直接の体験または目撃
 ②主要な養育者の再三の変更、分離、情緒的虐待の結果としての保護的養育の重大な妨害
B.以下の2つ以上の感情的・生理的調節不全
 ①極端な感情を調節したり耐えたり、立ち直ったりする能力の欠如。
 ②身体的機能の調節の障害
 ③感覚と情動と身体的状態の自覚の減少/解離
 ④情動または身体的状態を説明する能力の障害
C.注意と行動の調節不全
D.自己の調節不全と対人関係の調節不全
E.心的外傷後スペクトラム症状。PTSD症状
F.障害の持続期間が最低でも6か月
G.社会的な機能障害

コークらの診断基準(2009)を基に筆者が改変

 こちらもICD-11の診断基準に似ているが、幼少期に体験したストレスに対するものという定義がある点が異なると言える。暴力的な出来事や、情緒的虐待がどの程度のものを指すのかが分からないので、わたしが当てはまるかもわからない。将来的には、より改善された診断基準がDSMに載るのかもしれない。


まとめと展望

 ひとまず、手元にある本やインターネットの情報を参考に、自身が今どのような状態にあるのかをまとめてみた。結論として、わたしは幼少期の体験により、複雑性PTSDという状態になっていると思われる。ある程度客観的な基準に基づいて考えられたことで、「これはわたしの被害妄想なのではないか」という気持ちが少し薄れたと思う。
 次に調べてみたいのが、なぜ辛い体験と複雑性PTSDのような症状が関連しているのだろうか?ということだ。早く治療法なりを見つけたい気持ちもあるけれど、その前にもっと理論的な部分を理解した方が、治療にも意味を感じることが出来ると思う。
 加えて、ハーマン氏の提唱した概念が重要であるらしいということも分かったので、邦訳されているハーマン氏の著作も読んでいきたいと思う。

参考文献


アクス・ヒューマン・ケア 白川美也子著 「赤ずきんとオオカミのトラウマケア」
パンローリング株式会社 ドナ・ジャクソン・ナカザワ著 「小児期トラウマがもたらす病」
誠信書房 杉山登志郎著 「発達性トラウマ障害と複雑性PTSDの治療」
精神雑誌(2021) 第123巻 第10号 金吉晴 「ICD-11におけるストレス関連症群と解離症群の診断動向」
MSDマニュアル家庭版 https://www.msdmanuals.com/ja-jp/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0
リタリコジュニア  https://junior.litalico.jp/column/article/022/


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