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東京大学2010年国語第4問 『想像力』小野十三郎

 東大国語第4問にはときおり本問のような詩やことばに関する文章が出題されることがある。感覚的な表現や明確でない比喩表現が少なくないが、本問の文章はまだ比較的読みやすい方ではないだろうか。
 それにしても、本問題文のキーワードでもある「経験」や「体験」は特に近年の第4問における重要語句になることが多い。2016年の「体験の質」、2020年の「民族の経験の総体」2023年の「具体的な経験の言葉」「経験の具体性の裏書き」などがその典型である。
 また、「詩」がテーマまたはモチーフになることはさらに多い。2003年、2007年、2012年(短歌)、2014年、2020年、2023年などがそうである。かつては、第1問の頻出テーマが「死」だったが、第4問の頻出テーマの一つは依然として「詩」であるというのは興味深い。

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(一)「詩人なんてものは、人間にとって、あってもなくても一向にさしつかえのないつまらないものになるだろう」(傍線部ア)とあるが、それはなぜか、説明せよ。
 傍線部アには条件がついている。「もし詩人が自ら体験し、生活してきた事からだけ感動をひきだし、それを言葉に移すことに終始していたならば」がそれである。つまり、「詩人が生活上の実体験だけから得た感動を表現したのでは」などのことばを解答の冒頭に付す必要があると思われる。
 そのうえで、この条件と傍線部をつなぐ因果関係を探りだし、記す必要がある。
 傍線部の直後の「詩が私たちに必要なのは、そこに詩人の想像力というものがはたらいているからであって、それが無いと、謂うところの実感をも普遍的なものにすることはできない」が該当すると考えられる。
 以上のことをまとめると、「想像力を働かせられず、生活上の実体験から得た感動しか表現できない詩人は、実感を普遍的なものにして読み手に伝えることができないから。」(65字)という解答例ができる。

(二)「まったく嘘をついているように私に思える」(傍線部イ)とあるが、それはなぜか、説明せよ。
 傍線部イの状況になるのは、「現代詩は難解などと云って、詩を理解する力のないことを、さも謙虚そうに告白している人」についてである。
 そして、傍線部の「~思えるのは」に続いて、「それによって、彼らがすべての作品の質を習慣的に選別し、自らの立場においてそれを受け入れたり、突き放したりしている、この彼らの中にある想像力に対する自信を喪失してしまった形跡が見えないからだ」とあるので、この部分が理由をあらわしていることは明白である。
 以上をまとめると、「その人は現代詩を理解する力がないと謙遜しながらも、作品の質を習慣的に選別するための想像力に対する自信を失った形跡がないから。」(62字)という解答例ができる。

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