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物語

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パピコのひとつとボクらの全部 2  #シロクマ文芸部

パピコのひとつとボクらの全部 2 #シロクマ文芸部

北風と歩いていた。手に持ったパピコが冷たい。僕はどうして肉まんを買わず、パピコを買ってしまったんだろう。せめて夏なら、2本のパピコもこんなに辛くはないだろう?

ぼんやりと夏を思い出す。最初の夏だ。
7月。
まだ中学2年だった。

美術部員は、毎年9月の文化祭に向けて絵を仕上げることになっていた。テーマは毎年微妙に変わるが、ほとんどが「挑戦」とか「未来」とかが入る前向き且つ無難なもので、部員たちは

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パピコのひとつとボクらの全部 #シロクマ文芸部

パピコのひとつとボクらの全部 #シロクマ文芸部

12月。パピコの残り1個をどうすれば良いのか、僕たちはまだわからない。

8月。
真っ直ぐに瞳を覗き込んでくるそのクセを直した方がいい。
僕は常々そう思っている。
どう考えても勘違いしてしまう。

このジョシはボクに惚れているのではないだろうか?

なんのことはない。そういうクセの持ち主だから、誰の瞳のことも平気で覗き込み、懐かしい香りで僕を刺激したあと、あざとい笑顔を向けて言い放つ。
「あんた今

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リスタート 《企画》#夜行バスに乗って

リスタート 《企画》#夜行バスに乗って

この町を出ようと思ったのは3日前だった。
出てどう生きていくのかはよくわからなかった。そもそも計画するってことに慣れていない。
だけど、コイツがあれば、きっと大丈夫だと思えた。

男がソレを拾ったのは3日前だった。
高速サービスエリアでゴミを収集していた時だ。
『家庭ゴミを入れないでください』
どれほど張り紙が貼られようと、ゴミは溢れかえっている。袋を持ち上げた拍子に、何かの液体が跳ねて作業服に飛

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パーフェクトレモン 《ミムコさんノトコレ応募 フィクション作品》

パーフェクトレモン 《ミムコさんノトコレ応募 フィクション作品》

「お、塩レモン」
 冷蔵庫に顔を突っ込んだ夫が嬉しそうに言う。
「国産レモン売ってたからね」
 ふふんと誇らしげに答えると
「パーフェクトレモン」
 夫が、塩レモンのガラス容器を持ち上げて言った。

「あのね、レモンって完璧なのよ」
 力強くそう言われてもピンと来ない。
「じゃあ聞くけど、レモンでホラーとか考えられる? 爽やかでしかないでしょう?」
 いやいや爽やかなんてたくさんありますよ、おろし

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ルージュの伝言 《夏ピリカグランプリ》

ルージュの伝言 《夏ピリカグランプリ》

「ルージュの伝言って知ってる?」
さっきまで全然違う話で笑っていたウタが、唐突に言った。

「松任谷由実の?」
「それ。彼の家で実際やってきた」

ウタは、ふふと笑いながら冷めたコーヒーを啜ると
「これでお別れ、スッキリ!」
そう言って両手のひらを合わせて、幸せ!みたいな顔をした。

「え、何、ケンカ?ケーヤンと?」
「ケーヤン、ふふ」
「中学からずっとそう呼んでるから!それより、ルージュの伝言っ

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イエローグレイ ひと色展

イエローグレイ ひと色展

「ここに、種を蒔くといいよ」

イエローグレイの子供が言った。

イエローグレイの子供は、ホームセンターで買った土の中にいた。

私はずっと、東向きのマンションの一階に住んでいた。
朝しかうまく太陽が当たらなかったのに、ちょうど私の住んでいる部屋の真前に、5軒並べて建売住宅が造られてしまって、朝の貴重な日差しも遮られるようになってしまった。

だから、転勤で引っ越しが決まった時、私は「絶対南向き!

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