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夕暮れ色に染まる坂道を、私と夏炉は並んで歩いていた。お互いに積もる話はたくさんあるはずな…
聡子さんに浅野川高校まで送ってもらった私は、深々とお辞儀して車を降りた。 霧島宅にお邪魔…
私は手紙を畳むと、もとの小瓶に詰めて封をした。よく晴れた夏空に金沢城の白い影がよく映えて…
八月二十九日の朝は、いつものようにやってきた。 新聞配達のバイクが家の前を通る音。町会長…
真夏の炎天が茶屋街の瓦屋根をじりじりと焼いていた。美咲に買ってもらった日焼け止めクリーム…
穂乃香たちと別れた後、鉄砲玉のような雨が降ってきた。私たちは傘をもっていなかった。 仕方…
「今日は私にとって、とお〜っても特別な日になるはずだったのよお?」 妙に間延びした夏炉の言い草が鼻につく。彼女の白ブラウスとデニムワンピースがまばゆい百貨店でいっそうの可愛さを放つゆえに、棘のある言葉たちがいっそう荒々しく暴れまわる。 「夏炉、今日それ何回目?」 化粧品コーナーで眉をひそめる私をよそに、夏炉はビシッと人差し指を突きつけた。 「あなた、昨夜あんな良い感じのムードで私の誕プレを買ってくれるって言ったじゃない。だれがどう見たって、クライマックスに向けていよい
私が「夏炉」の名前を出してしまったことで生まれた心のしこりではあったが、聡子さんのカレー…
文化祭本番まで、残り二十日。 太陽の照りつけるアスファルト。自転車を漕ぐたびタイヤのフレ…
「あー! きたきた!」 すっかり文化祭モードに変わった昼の教室。 友達とお喋りしていた美…
夏炉は、待っていた。 私を守ってくれる、誰かが来るときを。 私が生きたいと思わせてくれる、…
冬兄とは不思議なひとだ。 ふだんはまったくお洒落なんかやらない。 変わり映えのしない組合…
緊張すると喉が渇く。私は二本目の炭酸水を一気に飲み干して、ぷはあ〜!と息を吐いた。起きて…
「夏炉、待ちなさいっ!」 高速で回転する自転車のホイールが、銀色の光を照り返す。汗だくになった手のひらに力をこめて、ハンドルのグリップを握りしめる。浅野川の水流は地平線と交わるようにその背中を伸ばして、蝉時雨の満ちた夕焼けの空を反射している。 前へ、前へ。ひとつでも前へ。 浅野川の対岸に、夏炉が自転車を漕ぐシルエットが小さく見える。意外と体力があるのか、脚力が衰える気配はない。 放課後、校門で待ち合わせると言いつけた約束を彼女は見事に破って、私を見つけるやいなや、学校