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連載小説『言葉くづし』

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言葉では打ち消せない想いが、きっと真実。
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#連載小説

言葉くづし ―終

夕暮れ色に染まる坂道を、私と夏炉は並んで歩いていた。お互いに積もる話はたくさんあるはずな…

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言葉くづし 20―内川虹の橋

聡子さんに浅野川高校まで送ってもらった私は、深々とお辞儀して車を降りた。 霧島宅にお邪魔…

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言葉くづし 19―香林坊橋

私は手紙を畳むと、もとの小瓶に詰めて封をした。よく晴れた夏空に金沢城の白い影がよく映えて…

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言葉くづし 18―鼠多聞橋

八月二十九日の朝は、いつものようにやってきた。 新聞配達のバイクが家の前を通る音。町会長…

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言葉くづし 17―おおの大橋

真夏の炎天が茶屋街の瓦屋根をじりじりと焼いていた。美咲に買ってもらった日焼け止めクリーム…

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言葉くづし 16―石川橋

穂乃香たちと別れた後、鉄砲玉のような雨が降ってきた。私たちは傘をもっていなかった。 仕方…

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言葉くづし 15―極楽橋

「今日は私にとって、とお〜っても特別な日になるはずだったのよお?」 妙に間延びした夏炉の言い草が鼻につく。彼女の白ブラウスとデニムワンピースがまばゆい百貨店でいっそうの可愛さを放つゆえに、棘のある言葉たちがいっそう荒々しく暴れまわる。 「夏炉、今日それ何回目?」 化粧品コーナーで眉をひそめる私をよそに、夏炉はビシッと人差し指を突きつけた。 「あなた、昨夜あんな良い感じのムードで私の誕プレを買ってくれるって言ったじゃない。だれがどう見たって、クライマックスに向けていよい

言葉くづし 14―長町一の橋

私が「夏炉」の名前を出してしまったことで生まれた心のしこりではあったが、聡子さんのカレー…

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言葉くづし 13―中島大橋

文化祭本番まで、残り二十日。 太陽の照りつけるアスファルト。自転車を漕ぐたびタイヤのフレ…

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言葉くづし 12―小橋

「あー! きたきた!」 すっかり文化祭モードに変わった昼の教室。 友達とお喋りしていた美…

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言葉くづし 11―上中ゆずの橋

夏炉は、待っていた。 私を守ってくれる、誰かが来るときを。 私が生きたいと思わせてくれる、…

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言葉くづし 10―彦三大橋

冬兄とは不思議なひとだ。 ふだんはまったくお洒落なんかやらない。 変わり映えのしない組合…

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言葉くづし 9―犀川大橋

緊張すると喉が渇く。私は二本目の炭酸水を一気に飲み干して、ぷはあ〜!と息を吐いた。起きて…

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言葉くづし 7―磯部大橋

「夏炉、待ちなさいっ!」 高速で回転する自転車のホイールが、銀色の光を照り返す。汗だくになった手のひらに力をこめて、ハンドルのグリップを握りしめる。浅野川の水流は地平線と交わるようにその背中を伸ばして、蝉時雨の満ちた夕焼けの空を反射している。 前へ、前へ。ひとつでも前へ。 浅野川の対岸に、夏炉が自転車を漕ぐシルエットが小さく見える。意外と体力があるのか、脚力が衰える気配はない。 放課後、校門で待ち合わせると言いつけた約束を彼女は見事に破って、私を見つけるやいなや、学校