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連載小説『言葉くづし』

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言葉では打ち消せない想いが、きっと真実。
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あとがき――『言葉くづし』とは何だったのか?

こんにちは、小清水志織と申します。 小説『言葉くづし』は、2023年6月30日(金)から同年11月…

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言葉くづし ―終

夕暮れ色に染まる坂道を、私と夏炉は並んで歩いていた。お互いに積もる話はたくさんあるはずな…

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言葉くづし 20―内川虹の橋

聡子さんに浅野川高校まで送ってもらった私は、深々とお辞儀して車を降りた。 霧島宅にお邪魔…

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言葉くづし 19―香林坊橋

私は手紙を畳むと、もとの小瓶に詰めて封をした。よく晴れた夏空に金沢城の白い影がよく映えて…

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言葉くづし 18―鼠多聞橋

八月二十九日の朝は、いつものようにやってきた。 新聞配達のバイクが家の前を通る音。町会長…

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言葉くづし 17―おおの大橋

真夏の炎天が茶屋街の瓦屋根をじりじりと焼いていた。美咲に買ってもらった日焼け止めクリーム…

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言葉くづし 16―石川橋

穂乃香たちと別れた後、鉄砲玉のような雨が降ってきた。私たちは傘をもっていなかった。 仕方なく香林坊のバス停で雨宿りをしていると、聡子さんが自家用車をつけて後部座席に乗るよう促した。この天気じゃバス停から家に着くまでにずぶ濡れになるからと、聡子さんはリズムよくハンドルを操作して言った。 「別に冬花は濡らしても平気なのに……」 後部座席で私は夏炉の鼻と口をむぎゅっと塞ぐ。呼吸を止められた夏炉は不細工なくしゃみで応酬してきた。 「こら夏炉、手が汚れるじゃない!」 「ぐず……

言葉くづし 15―極楽橋

「今日は私にとって、とお〜っても特別な日になるはずだったのよお?」 妙に間延びした夏炉の…

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言葉くづし 14―長町一の橋

私が「夏炉」の名前を出してしまったことで生まれた心のしこりではあったが、聡子さんのカレー…

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言葉くづし 13―中島大橋

文化祭本番まで、残り二十日。 太陽の照りつけるアスファルト。自転車を漕ぐたびタイヤのフレ…

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言葉くづし 12―小橋

「あー! きたきた!」 すっかり文化祭モードに変わった昼の教室。 友達とお喋りしていた美…

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言葉くづし 11―上中ゆずの橋

夏炉は、待っていた。 私を守ってくれる、誰かが来るときを。 私が生きたいと思わせてくれる、…

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言葉くづし 10―彦三大橋

冬兄とは不思議なひとだ。 ふだんはまったくお洒落なんかやらない。 変わり映えのしない組合…

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言葉くづし 9―犀川大橋

緊張すると喉が渇く。私は二本目の炭酸水を一気に飲み干して、ぷはあ〜!と息を吐いた。起きてから三時間で一リットルの消費。そろそろ胃がチャポチャポしてきそうだ。それでもトイレに行きたくならないのは、どこか神経が張り詰めているからだろう。 リビングでくつろぐお父さんが台所にやってきて、ミル付コーヒーメーカーのフィルタを交換する。こだわりの豆で淹れたコーヒーは、病院勤務で忙しい彼の数少ない愉しみのひとつだ。緊張のあまり大汗をかく私に、お父さんは心配そうな口調で言った。 「冬花、顔